著者の所属・活動拠点の国は、スウェーデン、アイルランド、南アフリカです。

掲載誌:Critical Public Health

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

私たちを取り巻く自然環境だけでなく、人の体内、とくに腸にすむ微生物の集まり(腸内細菌叢、マイクロバイオーム)でも、生物の多様性が失われつつあると指摘されています。著者らはこうした変化を、人と微生物、食のあり方、生態的な景観とのつながりが損なわれていることの表れととらえています。そして、これらのつながりを理解することは、地球規模の健康や持続可能性を学ぶ教育にとって重要だと述べています。

そこで研究チームは、「生きている微生物の景観(Living Microbial Landscapes)」と名づけた概念枠組みを提案することを目的としました。これは、生き物が暮らす景観という考え方を微生物の世界にまで広げ、人の腸内細菌叢を体の内側にある一つの生態系とみなし、それが食の営みを通じて周囲の環境とつながっていると考えるものです。

どのように考察したか

この枠組みは、ジャスティン・ディロン氏とアリエン・ワルス氏が示した「掘り起こす・取り戻す・回復する」という三つの段階からなる考え方に基づいています。著者らはこれを土台に、受け継がれてきた伝統的な知識と現代の健康に関する知識を組み合わせ、栄養と健康、健康の公平性、生態系をめぐる正義といった課題に、持続可能性教育として応えることを目指しました。

研究方法は、実験やデータの測定ではなく、概念的・解釈的なアプローチです。南部アフリカの伝統的な発酵食品であるウムコンボティ、アマシ、マレウの作り手の営みを短い事例描写(ケース・ビネット)として取り上げました。そのうえで、発酵の工程、手間をかけて世話をすること、世代を越えて知識を受け渡すことを通じて、微生物の多様性や、人・微生物・環境の実りある関係がどのように生まれるのかを検討しています。

主な報告

分析の結果、論文は、伝統的な発酵食品づくりが「生きた微生物の営み」として機能していると報告しています。つまり、食べ物を準備すること、家庭という環境、そこにすむ微生物の集まり、そして文化的な知識が、互いに結びついた一つのまとまりとして成り立っているという見方です。

さらに著者らは、この枠組みが生態学的な考え方、伝統的な食の知識、微生物と健康をつなぎ、関係性と公平性を重視した、持続可能な健康のための教育実践を支えうると述べています。なお、この研究は発酵食品が健康に与える効果を測定したものではなく、教育や考え方の枠組みを示したものです。

研究が示す意味

枠組みは南部アフリカの事例から組み立てられましたが、著者らは、世界各地の発酵食の伝統にも広げて当てはめられると述べています。発酵食の伝統は、微生物の多様性、受け継がれた知識、持続可能な学びが重なる場だというのです。

論文は結論として、伝統的な発酵食品を通じて微生物の多様性と関係性を取り戻すことが、健康の公正、生態系の公正、公平性、そしてさまざまな知のあり方を等しく尊重する「認識の公正」へ向かう道筋になると位置づけています。身近な食の営みを、人と微生物と環境の関係から見直す視点を示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Martin Mickelsson(Department of Earth Sciences, University of Gothenburg; Department of Women′s and Children′s Health, Uppsala University)、Wilma van Staden(Department of Adult and Community Education, Maynooth University, Maynooth, Ireland)、Caleb Mandikonza(Division of Science and Technology Education, School of Education, University of the Witwatersrand)、Rob O′Donoghue(Environmental Learning Research Centre (ELRC), Rhodes University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Martin Mickelsson, Wilma van Staden, Caleb Mandikonza, et al. Restoring microbial relations and landscapes: a relational conceptual framework for fermentation, culture, and health equity. Critical Public Health 2026-08-03. DOI: 10.1080/09581596.2026.2690699. 原著ライセンス:CC BY.