この研究は、イラク、ハンガリーの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Progress in Additive Manufacturing
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
水不足の緩和に役立つ膜ろ過技術では、膜の表面や細孔に不要な物質がたまる「ファウリング(膜汚れ)」が大きな課題です。汚れがたまると水の通る量(フラックス)が落ち、同じ量の水を得るために圧力を上げる必要が生じ、消費エネルギーが増えてしまいます。
著者らが注目したのは、薬品で洗う方法に代わる「流れを操る」対策です。ひとつは、膜の近くに置いて流れを乱す部品であるスペーサーを3Dプリンターで自由な形に作る方法(3DPS)。もうひとつは、モジュール自体を高速で振動させて膜の表面にせん断力を生み、汚れの付着を抑える方法(VSEP)です。論文によれば、この二つはこれまで主に別々の手段として研究されてきており、同一の装置内で組み合わせたときに効果が単純な足し算にとどまるのか、それ以上の相乗効果が生まれるのかは十分に分かっていませんでした。この組み合わせの効果を一つの振動式クロスフローろ過システムで調べることが、本研究の新しさだと著者らは述べています。
何をどう調べたか
実験には、脱脂粉乳50 g/Lと陰イオン系洗剤5 g/Lを水道水に溶かした模擬乳業排水が使われました。膜は分画分子量30 kDaのポリエーテルスルホン製限外ろ過膜で、温度25±1 °C、膜間差圧0.8 MPa、クロスフロー流量15.14 L/minという一定条件のもとでろ過が行われました。
スペーサーは流体力学的な考え方の違いに基づいて4種類が設計され、PETG樹脂を用いた熱溶解積層方式で造形されました。円柱形(Sp.1)は等間隔の柱で境界層を乱す基本型、円錐形(Sp.2)は先細りの形で流れを加速させて膜面へ向け局所的なせん断力を高める型、分岐形(Sp.3)は流路を枝分かれさせて流れを膜面全体に均等に配り汚れのたまりやすい停滞域を減らす型、補強分岐形(Sp.4)は分岐形の接合部を補強して振動による繰り返しの力に耐えられるようにした型です。振動の振幅は0.635 cm(低)と2.54 cm(高)の2水準が用いられました。
評価指標としては、透過流束、化学的酸素要求量(COD)などの阻止率、ろ過抵抗を膜そのものの抵抗・可逆的な汚れ・不可逆的な汚れに分けて捉える直列抵抗モデル、そして透過水1 m³あたりに必要なエネルギーを表す比エネルギー消費量(SEC)が用いられました。あわせて、走査型電子顕微鏡と原子間力顕微鏡による膜表面の観察も行われています。
報告された主な結果
著者らの報告では、スペーサーを入れるだけでも、振動を加えない条件下ですべての設計で対照条件(スペーサーなし)より透過流束が向上しました。Sp.1は対照のほぼ3倍に達し、Sp.2はSp.1より12%低い値、Sp.3は対照より47%高い値でした。
振動と組み合わせると、さらに大きな効果が現れました。最も良かったのは高振動(2.54 cm)とSp.2、および高振動とSp.4の組み合わせで、初期透過流束はそれぞれ対照の337.5%増、333.8%増となりました。具体的な値は203.10 L m⁻² h⁻¹と201.35 L m⁻² h⁻¹で、対照は46.42 L m⁻² h⁻¹でした。低振動との組み合わせも対照を上回りましたが、高振動の水準には届かず、達成できる流束の上限を左右するのはスペーサーの形だけでなく振動の強さでもあると著者らは述べています。
ろ過抵抗についても、スペーサーと振動を組み合わせたすべての条件で総抵抗が対照比で約76〜85%低下したと報告されています。最も低下が大きかったのは円錐形スペーサーを高振動で使った場合でした。汚れの内訳を見ると、緩く付着した可逆的な汚れは振動でもスペーサーでも抑えられ、形状によらずほぼ消えた条件が多かった一方、落ちにくい不可逆的な汚れは形状によって挙動が異なりました。Sp.4は単独では不可逆抵抗をほぼゼロまで下げましたが、高振動と組み合わせると逆に増加しました。Sp.2は組み合わせによって不可逆抵抗がさらに約55%下がり、振動と相性の良い相乗的な反応を示したとされています。
一方で、有機物の除去の改善はわずかでした。COD阻止率は対照の52.95%に対し、最も高かった低振動とSp.2の組み合わせで66.21%であり、流束の大幅な向上に比べると控えめです。Sp.3と振動の組み合わせでは対照をわずかに下回りました。著者らは、これらの手法の主な働きは流束の向上と抵抗の低減にあり、有機物除去の大幅な改善ではないと整理しています。
エネルギーについては、対照が4.0 kWh·m⁻³を超えるまで上昇したのに対し、低振動条件は0.7〜0.9 kWh·m⁻³、高振動条件は約0.5〜0.6 kWh·m⁻³で安定し、それぞれ対照比で58%、71%の削減にあたると報告されました。高振動とSp.2またはSp.4の組み合わせでは最終的に約0.63 kWh m⁻³、対照比で約85%の削減となっています。膜表面の観察でも、汚れた膜では細孔をふさぐ密なケーク層が見られ表面粗さRaが4.01 nmから21.47 nmへ増えた一方、スペーサーを使った膜ではRaが11.22 nm、振動のみでは10.04 nmと、連続したケーク層の形成が抑えられていたことが示されました。
この研究が示すこと
この研究が伝えているのは、流れを乱すスペーサーの形とモジュールの振動という二つの物理的な対策が、同じ装置の中で単に足し合わされるのではなく、組み合わせ方によって結果が変わるということです。特に円錐形のように流れを加速させて膜面にせん断力を集める形は振動と噛み合って働き、補強分岐形のように流れを均等に配ることで効果を出す形は、強い振動によってその前提が崩れる場合もあると報告されています。
また、報告された結果は、指標ごとに効き方が違うことも示しています。透過量と抵抗、エネルギー消費では大きな改善が見られた一方、有機物の阻止率の改善は小さく、条件によっては対照を下回りました。膜汚れ対策を評価するときに、どの指標を見るかが結論を左右しうることを示す結果といえます。
著者:Aws N. Al-Tayawi(University of Mosul, Mosul, Iraq)、Noor Al-Hammadi(University of Mosul, Mosul, Iraq)、Omar K. Mohialdeen(University of Mosul, Mosul, Iraq)、Imre Vajk Fazekas(University of Szeged, Szeged, Hungary)、Bence Szilveszter Virág(University of Szeged, Szeged, Hungary)、Judit Kopniczky(University of Szeged, Szeged, Hungary)、Tamás Gyulavári(University of Szeged, Szeged, Hungary)、Zsuzsanna László(University of Szeged, Szeged, Hungary)、Szabolcs Kertész(University of Szeged, Szeged, Hungary)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Aws N. Al-Tayawi, Noor Al-Hammadi, Omar K. Mohialdeen, et al. 3D-printed spacers integrated with module vibration for enhanced ultrafiltration permeability and antifouling. Progress in Additive Manufacturing 2026-09-24. DOI: 10.1007/s40964-026-01992-2. 原著ライセンス:CC BY.