著者の所属・活動拠点の国は、スウェーデン、デンマーク、オランダ、ポルトガル、イギリス、フランス、イタリア、スイスです。
掲載誌:Journal of Industrial Ecology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
研究チームは、欧州の畜産を対象に「帰結的ライフサイクルアセスメント(CLCA)」がどのように使われているかを整理し、評価上の課題と改善の優先事項を明らかにしようとした。CLCAは、飼料や飼育方法などを変えたときに、生産現場だけでなく、飼料市場や土地利用、他の製品への置き換えを通じて生じる環境への影響も評価する手法である。
著者らによると、畜産分野では、現在の生産の仕組みに伴う環境負荷を算定する研究が主流で、変更による間接的な影響を扱うCLCAの実施方法を横断的に整理した知見は不足していた。
何を、どのように調べたか
研究チームは、文献を系統的に集めて選ぶ手順に沿って、Web of ScienceとScopusを検索した。対象は2012年1月から2024年12月に公表された英語の査読付き論文で、欧州の畜産を扱い、生産や需要の変化に伴う影響を評価に組み込んだ研究を選んだ。畜産の全工程を扱う研究だけでなく、排せつ物や副産物の利用など、一部の工程に焦点を当てた研究も含めた。
採用されたのは23件で、牛、豚、家禽、羊が対象だった。2人の調査担当者が独立して情報を抽出し、想定する変更条件の作り方、評価に使うデータ、環境影響の指標、不確実性の扱いを整理した。
文献レビューを補うため、2025年10月には専門家12人と進行役3人による3時間のワークショップも実施した。個人での検討、少人数での討議、全体討議を通じて、実務上の課題や評価条件の設定方法について意見を集め、共通する論点をまとめた。
主な報告結果
研究チームが最も多く確認したテーマは、排せつ物の処理・管理と、従来とは異なる飼料の利用だった。既存の生産の仕組みを部分的に改善する研究が中心で、土地利用や経営形態を大きく変えるような構造的な転換、政策変更の影響を扱う研究は少なかった。評価で想定する条件も、技術や管理方法の変更を基にしたものが主流だった。
環境影響の評価では、地球温暖化への寄与が最もよく調べられ、酸性化と土地利用が続いた。23件中12件は、窒素やリンなどの流入によって生態系の栄養状態が過剰になる「富栄養化」の指標を少なくとも一つ含んでいた。一方、人の健康や生態系への最終的な被害まで推計する評価は少数だった。著者らは、生物多様性や生物への有害物質の影響など、十分に扱われていない側面もあると指摘した。
評価用データは既存のデータベースに大きく依存していた。研究チームは、地域の市場や生産条件に合ったデータ、とりわけ変更によって生産が増減する製品や副産物のデータを確保することを課題として挙げた。
専門家の討議では、将来の市場でどの生産活動が増え、何が置き換えられるかを見通す難しさが強調された。飼料市場、土地利用、排せつ物の流れに加え、生産工程どうしが影響し合う関係を扱う必要があるという意見がまとまった。前提を明示し、異なる条件でも結果がどう変わるかを調べることも重要とされた。
この報告が示すこと
著者らは、CLCAを、畜産に関する選択が生産現場の外に及ぼす影響まで検討するための枠組みと位置づけている。その活用には、何の意思決定を評価するのかを明確にし、影響が及ぶ範囲と、その範囲を設定した理由を説明することが必要だと結論づけた。指標をむやみに増やすのではなく、調べる環境上の仕組みに合った指標を選ぶことも重視している。
この整理の対象は、指定期間に公表された英語の欧州関連研究に限られる。また、ワークショップは経験を持つ専門家の見解を集めたもので、関係者全体を統計的に代表する調査ではなく、意見の頻度や順位を示すものでもない。報告が示すのは特定の畜産方式の優劣ではなく、その変更の環境影響を判断するうえで、前提の透明性と不確実性の扱いが重要だということである。
原著論文の著者・所属:Dengsheng Sun(Animal-Centered Environments Group, Department of Biosystems and Technology, Swedish University of Agricultural Sciences, Box 190, 234 22, Lomma, Sweden)、Marie Trydeman Knudsen(Department of Agroecology, Aarhus University, Blichers Allè 20, 8830, Tjele, Denmark)、Thomas Ponsioen(FootPrinting, Nieuwe Kanaal 7, Wageningen, 6709 PA, The Netherlands)、Ricardo Teixeira(MARETEC—Marine, Environment and Technology Centre, LARSyS, Instituto Superior Técnico, Universidade de Lisboa, Av. Rovisco Pais, 1, 1049-001, Lisbon, Portugal)、Alina Chervinska(MARETEC—Marine, Environment and Technology Centre, LARSyS, Instituto Superior Técnico, Universidade de Lisboa, Av. Rovisco Pais, 1, 1049-001, Lisbon, Portugal)、Mariana Raposo(MARETEC—Marine, Environment and Technology Centre, LARSyS, Instituto Superior Técnico, Universidade de Lisboa, Av. Rovisco Pais, 1, 1049-001, Lisbon, Portugal)、Rahela Lucić(MARETEC—Marine, Environment and Technology Centre, LARSyS, Instituto Superior Técnico, Universidade de Lisboa, Av. Rovisco Pais, 1, 1049-001, Lisbon, Portugal)、Mali Gravell(School of Agriculture, Policy and Development, University of Reading, Reading, RG6 6EU, UK)、Nicholas Davison(School of Agriculture, Policy and Development, University of Reading, Reading, RG6 6EU, UK)、Lewis Cameron(School of Agriculture, Policy and Development, University of Reading, Reading, RG6 6EU, UK)、Sally Westaway(School of Agriculture, Policy and Development, University of Reading, Reading, RG6 6EU, UK)、Aurélie Wilfart(INRAE, Institut Agro, SAS, 65 Rue de Saint Brieuc, 35000, Rennes, France)、Pietro Goglio(Department of Agricultural, Food, and Environmental Sciences, University of Perugia, Borgo XX Giugno 74, 06121, Perugia, Italy)、Yue Wang(Animal Production Systems Group, Wageningen University & Research, P.O. Box 338, 6700 AH, Wageningen, The Netherlands)、Fatemeh Hashemi(Department of Agroecology, Aarhus University, Blichers Allè 20, 8830, Tjele, Denmark)、Vasco Diogo(Life Cycle Assessment Research Group, Reckenholzstrasse 191, 8046, AgroscopeZürich, Switzerland)、Bo P. Weidema(Department of Sustainability and Planning, Aalborg University, Aalborg, Denmark)、Laurence G. Smith(Animal-Centered Environments Group, Department of Biosystems and Technology, Swedish University of Agricultural Sciences, Box 190, 234 22, Lomma, Sweden; School of Agriculture, Policy and Development, University of Reading, Reading, RG6 6EU, UK)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dengsheng Sun, Marie Trydeman Knudsen, Thomas Ponsioen, et al. Consequential life cycle assessment of European livestock systems: current practices, limitations, and priorities. Journal of Industrial Ecology 2026-08-13. DOI: 10.1007/s44498-026-00154-5. 原著ライセンス:CC BY.