この研究は、イタリア、キプロスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Control

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ニッケルは土壌や水などに広く存在する金属です。一般の人にとっては、職業上の接触よりも、食事から体に入る量が主になると考えられています。豆類、ナッツ、穀物、カカオ製品、葉物野菜など植物性の食品は、土や水からニッケルを取り込みやすいことが知られています。

欧州食品安全機関(EFSA)は、長期間口から摂取しても健康への影響が生じないと考えられる量(耐容一日摂取量、TDI)を、体重1キログラムあたり1日13マイクログラムと定めています。この値は、ラットで妊娠中の胚が失われる割合が増えたという動物実験の結果をもとにしています。さらに欧州連合は2024年、ナッツ、豆類、穀物、カカオ・チョコレート製品、野菜、乳幼児向け食品などについて、ニッケルの最大基準値を初めて設けました。

イタリアでも食事からのニッケル摂取は以前から調べられてきました。ただ、複数年にわたる公的検査のデータを使い、食品を細かく分類して評価した研究は限られていました。そこで研究チームは、摂取量は年齢層によって異なり、一部の食品分類が全体の摂取量の大きな割合を占めるという仮説を立てました。そのうえで、イタリアの人々が長期的に食事からとっているニッケルの量を推定しました。

何をどのように調べたか

著者らが使ったのは、2014年から2025年にかけて、イタリアのエミリア=ロマーニャ州とロンバルディア州の当局が公的検査として集めた4,343点の食品試料です。食品は肉、乳製品、魚介類、卵、果物、野菜、穀物、豆類、コーヒー・ココア・茶、飲料など幅広い分野にわたります。ニッケル濃度は、微量の元素を測定できる誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)で測りました。

測定結果は、EFSAが定めた階層的な食品分類(FoodEx2)に沿って整理しました。測定できる下限を下回った試料は、値をゼロとみなす場合、下限値の半分とみなす場合、下限値そのものとみなす場合の三通りで計算しました。これにより、推定値がどの程度変わりうるかを確かめています。

この濃度データを、EFSAのデータベースに収録されたイタリアの全国食事調査の摂取量と組み合わせました。乳児、幼児、その他の子ども、青少年、成人、高齢者、75歳以上の超高齢者という7つの年齢層について、体重1キログラムあたりの1日推定摂取量を求め、TDIと比べています。茶葉やココア原料は乾燥した固形物で濃度を測っているため、飲み物として飲む状態に換算してから計算しました。

計算には各年齢層の平均的な食事量を使っています。このため、示された値は平均的な摂取量であり、個人ごとのばらつきは反映されていません。また、その食品を食べない人も含めた平均では、ニッケルの多い食品の影響が小さく見えることがあります。そこで研究チームは、平均濃度が1キログラムあたり1ミリグラム以上の食品について、実際にその食品を食べる人だけに絞った補足的な分析も行いました。

主な結果

食品分類ごとに比べると、ニッケル濃度が最も高かったのはココア原料(1キログラムあたり約6.07ミリグラム)と茶葉関連製品(約4.33ミリグラム)でした。次いでチョコレート製品(約2.89ミリグラム)が高く、香草類、穀物のふすま、アサリなどの二枚貝、乾燥豆類も高い値を示しました。一方、肉、乳製品、卵といった動物性食品の多くは、おおむね1キログラムあたり0.05ミリグラム未満と低い値でした。

年齢層別に見ると、推定摂取量が最も多かったのは1〜2歳の幼児です。値は体重1キログラムあたり1日約2.92〜2.96マイクログラムで、TDIの約22.5〜22.8%にあたります。次いで3〜9歳のその他の子ども、1歳未満の乳児の順で、いずれもTDIの約20〜21%でした。青少年以上の年齢層はTDIの13%未満で、すべての年齢層でTDIを下回っていました。下限値未満の扱い方による差はわずかでした。

摂取への寄与が大きい食品は年齢によって異なりました。乳児では香草類、幼児・その他の子ども・青少年ではチョコレート製品、成人・高齢者・超高齢者ではパンなどの発酵パン類が最大の寄与源でした。

その食品を食べる人に限った分析では、いくつかの食品で、その食品による摂取量が、食べない人も含めた平均で計算した場合より高く推定されました。たとえば幼児のチョコレート製品は体重1キログラムあたり1日約2.21マイクログラム(TDIの約17%)、乳児の香草類は約1.87マイクログラム(約14%)でした。高齢者と超高齢者では二枚貝が最も大きい値でした。ただし著者らは、この分析は特定食品からの摂取を示すもので、食事全体の摂取量や年齢層全体を代表する値ではないと注意しています。

研究が示すこと

この研究は、長年の公的検査データをもとに、ニッケル摂取を年齢別・食品分類別に詳しく描き出しました。平均的な食事からの推定摂取量はどの年齢層でもTDIを下回っていましたが、乳児・幼児・その他の子どもといった子どもの年齢層では、青少年以上の年齢層より体重あたりの摂取量が多く、主な摂取源も年齢によって異なることが分かりました。

著者らは、こうした結果が、公的な監視やリスク管理でどの食品分類を優先的に扱うべきかを判断する材料になるとしています。

著者:Alessio Manfredi(Department of Veterinary Medicine, University of Bari Aldo Moro, Strada Prov.le per Casamassima km.3, 70010 Valenzano BA, Italy)、Damiano Accurso(Istituto Zooprofilattico Sperimentale della Lombardia e dell’Emilia-Romagna (IZSLER), Reparto Chimico degli Alimenti di Bologna, Via Fiorini 5, 40127 Bologna (BO), Italy)、Demetris Kafouris(State General Laboratory, Ministry of Health, 44 Kimonos St, 1451 Nicosia, Cyprus)、Mariantonietta Peloso(Istituto Zooprofilattico Sperimentale della Lombardia e dell’Emilia-Romagna (IZSLER), Reparto Chimico degli Alimenti di Bologna, Via Fiorini 5, 40127 Bologna (BO), Italy)、Maria Vitellino(Istituto Zooprofilattico Sperimentale della Lombardia e dell’Emilia-Romagna (IZSLER), Reparto Chimico degli Alimenti di Bologna, Via Fiorini 5, 40127 Bologna (BO), Italy)、Aspasia Sarandi(State General Laboratory, Ministry of Health, 44 Kimonos St, 1451 Nicosia, Cyprus)、Georgios Stavroulakis(State General Laboratory, Ministry of Health, 44 Kimonos St, 1451 Nicosia, Cyprus)、Giorgio Fedrizzi(Istituto Zooprofilattico Sperimentale della Lombardia e dell’Emilia-Romagna (IZSLER), Reparto Chimico degli Alimenti di Bologna, Via Fiorini 5, 40127 Bologna (BO), Italy)、Simonetta Menotta(Istituto Zooprofilattico Sperimentale della Lombardia e dell’Emilia-Romagna (IZSLER), Reparto Chimico degli Alimenti di Bologna, Via Fiorini 5, 40127 Bologna (BO), Italy)、Elisabetta Bonerba(Department of Veterinary Medicine, University of Bari Aldo Moro, Strada Prov.le per Casamassima km.3, 70010 Valenzano BA, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Alessio Manfredi, Damiano Accurso, Demetris Kafouris, et al. Chronic dietary exposure to nickel in the Italian population: a national risk assessment based on multi-year data from official control activities. Food Control 2026-09-30. DOI: 10.1016/j.foodcont.2026.112674. 原著ライセンス:CC BY.