この研究は、ギリシャの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Polysaccharides

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

塩水に代わるオリーブの保存液を探す

テーブルオリーブは地中海の食卓に欠かせない食品です。収穫後には苦みを抜く加工が必要で、その多くは濃い塩水の中での発酵によって行われます。しかし著者らは、この高塩分の塩水には二つの課題があると指摘しています。一つは、使用後の塩水の廃棄が環境の負担になることです。もう一つは、塩分の多い食品が、高血圧や心血管疾患と関連づけられているナトリウムの摂りすぎにつながることです。

そこで研究チームは、ギリシャの品種「ハルキディキ」のグリーンオリーブを対象に、塩水の代わりとなる透明な保存液を試作し、その性質を調べました。中心となる問いは、キトサンを加えると保存液の抗菌性、液としての安定性、抗酸化性が高まるかどうかです。キトサンはカニやエビなどの殻に含まれるキチンから得られる多糖類で、論文では原料にザリガニの殻の廃棄物が使われています。

保存液の主成分は、オレガノやタイムに含まれる香り成分カルバクロールです。カルバクロールには抗菌作用と抗酸化作用が知られています。一方で、水に溶けにくく揮発しやすいため、そのままでは食品に使いにくいという難点があります。研究チームはこれを、マイクロエマルションという形にして水中に分散させました。マイクロエマルションは油の成分が非常に細かい粒になって水に分散した液で、粒が可視光の波長より小さいため、見た目が透明になります。

三種類の保存液を作り、通常の塩水と比べる

研究チームが用意した保存液は三種類です。水、界面活性剤、エタノール、カルバクロール1%から成る基本の液、そこにキトサン1%を加えた液、そしてキトサンの代わりにゼラチン1%を加えた液です。キトサンは酢を使って溶かしました。ゼラチンは、多糖類ではないたんぱく質系の比較対象として選ばれています。

著者らは、キトサンが酸性の条件で正の電荷を帯びる点に注目しています。微生物の表面は負に帯電していることが多く、正電荷をもつキトサンはそこに引き寄せられると考えられるためです。

まず、保存液そのものの性質として、粒の大きさ、透明度、粒の表面の電荷(ゼータ電位)を測定しました。ゼータ電位は、液中の粒が互いに反発して凝集しにくいかどうかの目安になる値です。

次に、オリーブを各保存液と通常の8%食塩水に漬け、40℃で60日間置く加速保存試験を行いました。高い温度で劣化を早め、長期保存の様子を短期間で比べる方法です。研究チームは、15〜18℃でおよそ1年分に相当すると試算しています。ただしこの換算は温度と劣化速度に関する一般的な仮定に基づくもので、このオリーブ保存の系で確かめられたものではありません。論文も、保存期間を正確に予測するものではなく、処理どうしを比べるための目安だと明記しています。

評価項目は、微生物の数(一般細菌、酵母・カビ、発酵に必要な乳酸菌)、pH、塩分、色、抗酸化性、ポリフェノール量です。

主な結果

三種類の保存液はいずれも、粒の大きさが8.3〜10.5ナノメートルと非常に小さく、透明でした。600ナノメートルの光の透過率はどれも96%を超えています。論文はこの結果を、塩水に代わる透明な保存液を実際に作れることの裏付けとしています。

キトサンを加えた保存液は、三種類の中でpHが最も低く(3.68〜3.72)、ゼータ電位は最も高いプラス30.2ミリボルトでした。著者らはこれを、液としての安定性が高く、正電荷による抗菌作用も期待できることを示すものと解釈しています。

ゼラチンを加えた保存液は、オリーブの色を最もよく保ちました。グリーンオリーブにとって色は重要な品質の指標です。一方で、ゼラチンはポリフェノール量を測る一般的な分析法(フォーリン・チオカルト法)の結果に干渉することも分かりました。たんぱく質を含む保存液では、この分析法の結果を慎重に扱う必要があることになります。

研究が示すこと

著者らは、キトサンを加えたカルバクロール系マイクロエマルションを、従来の塩水に代わる、透明で持続可能性に配慮した保存液の有望な候補と結論づけています。

同時に論文は、味、食感、全体的な好ましさといった官能評価がまだ行われておらず、消費者に受け入れられるか、商業的に成り立つかは確かめられていないとも述べています。今回の成果は、塩分に頼らないオリーブ保存の選択肢について、保存液の性質と保存中の品質の面から可能性を示した段階のものです。

著者:Alexios Vardakas(Department of Food Science and Technology, University of Patras, 30100 Agrinio, Greece)、Dimitrios Moschovas(Department of Materials Science Engineering, University of Ioannina, Dourouti, 45110 Ioannina, Greece)、Anna Kopsacheili(Laboratory of Food Chemistry, Department of Chemistry, National and Kapodistrian University of Athens, Zografou, 15772 Athens, Greece)、Eleni Triantafyllou(Department of Materials Science Engineering, University of Ioannina, Dourouti, 45110 Ioannina, Greece)、Andreas Giannakas(Department of Food Science and Technology, University of Patras, 30100 Agrinio, Greece)、Areti A. Leontiou(Department of Food Science and Technology, University of Patras, 30100 Agrinio, Greece)、Aggelos Pachis(Department of Food Science and Technology, University of Patras, 30100 Agrinio, Greece)、Charalampos Proestos(Laboratory of Food Chemistry, Department of Chemistry, National and Kapodistrian University of Athens, Zografou, 15772 Athens, Greece)、Apostolos Avgeropoulos(Department of Materials Science Engineering, University of Ioannina, Dourouti, 45110 Ioannina, Greece)、Constantinos E. Salmas(Department of Materials Science Engineering, University of Ioannina, Dourouti, 45110 Ioannina, Greece)、Aris E. Giannakas(Department of Food Science and Technology, University of Patras, 30100 Agrinio, Greece)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Alexios Vardakas, Dimitrios Moschovas, Anna Kopsacheili, et al. Chitosan-Enriched Carvacrol-Based Microemulsions as Sustainable Low-Sodium Brine Replacements for Green Table Olive Preservation. Polysaccharides 2026-10-01. DOI: 10.3390/polysaccharides7040113. 原著ライセンス:CC BY.