カキの養殖では、高水温や低酸素といった環境ストレスに強い個体を見分けることが、将来の安定生産を左右する課題になっています。そのための手がかりのひとつが「代謝率」、つまり生き物がどれだけ活発にエネルギーを使っているかという指標です。ただし従来の測定方法は密閉した容器で酸素消費量を測る呼吸測定などが中心で、専用の装置や酸素センサーが必要なうえ、一度に測れる個体数も限られていました。今回、米国ワシントン大学水産科学部などの研究グループが、細胞の代謝を調べる際によく使われる色素「レサズリン」を使い、カキ一個体まるごとの代謝を手軽に測る方法を検証しました。

レサズリンで何が測れるのか

レサズリン試薬は、生き物が代謝を行う過程でNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)や還元酵素の働きによって、青色で光らない状態から、ピンク色で蛍光を発する「レゾルフィン」という物質へと段階的に変化します。代謝が活発なほど、この色の変化と蛍光の強さが増すため、蛍光の測定値を代謝の目安として使えるというわけです。研究チームはマガキ(Crassostrea gigas)とアメリカガキ(Crassostrea virginica)を対象に、この手法が実際に使えるかどうかを複数の実験で確かめました。

まず、稚貝95個体を対象に、レサズリンによる蛍光測定と、従来型の酸素消費量測定を同じ個体で行って比較したところ、両者には正の相関が認められました。また、生きたカキと、貝殻だけの標本、試薬のみの対照区を比較する実験では、貝殻だけの標本でも試薬のみよりわずかに高い蛍光が検出されたものの、生きたカキの蛍光値は貝殻だけの場合よりも大幅に高く、測定されている信号が殻表面の微生物由来ではなく、生きたカキ自身の代謝を反映していることが確認されました。さらに、殻の長さが大きい個体ほど総代謝量(時間経過に伴う蛍光変化を積算した値)が高くなる関係も見られました。

温度への応答性と、生死との関わり

次に、稚貝を20℃から45℃までのさまざまな温度に数時間さらし、代謝の変化を追跡しました。その結果、代謝は温度の上昇に伴って一定の温度まで高まり、その後はある温度を境に低下に転じるという、温度依存的なパターンが見られました。実験の条件によって、代謝がピークを迎える温度はおよそ32〜36℃付近、45℃に近い高温では顕著な低下が見られています。この「盛り上がってから落ち込む」変化は、温度への感受性を示すQ10という指標でも裏付けられ、低めの温度域から至適温度域にかけてはQ10が高く(温度上昇に敏感)、それを超える高温域ではQ10が大きく下がる(あるいは1を下回る)ことが示されました。

さらに、42℃という急性の高温ストレスを与える実験では、生き残った個体と死亡した個体との間で代謝の挙動に違いが見られ、代謝がより大きく落ち込んだ個体のほうが、その後生存する傾向が高いことが示されました。つまり、代謝の落ち込みの程度が、その後の生死をある程度予測しうる可能性が示唆されています。加えて、系統(ファミリー)ごとに代謝の温度応答に違いがあることも確認され、代謝反応には遺伝的なばらつきが関わっている可能性が示されました。

育種の現場での応用可能性

研究チームは、選抜育種プログラムで育てられたアメリカガキ50系統(低塩分向けに選抜された25系統と、中〜高塩分向けに選抜された25系統)を対象に、レサズリンで測った代謝の値と、あらかじめ算出されていた「予測される成績」(生存率や成長に関する育種価)との関係も調べました。その結果、代謝の測定値と予測成績との間に有意な相関が認められ、この簡便な代謝測定が、より手間のかかる従来の育種評価と関連づけられる可能性が示されています。

なお、本研究における酸素消費量とレサズリン蛍光値の相関は統計的に有意ではあったものの、相関係数はそれほど高い値ではなく、両者が完全に一致する指標ではないことも著者らは示しています。また今回の実験は稚貝や特定のサイズのカキを中心に行われており、成貝を含むより幅広いサイズや、実際の養殖現場での長期的な有用性については、さらなる検証が必要とされる段階です。この研究はあくまで一つの検証研究であり、レサズリンによる代謝測定が実際の育種選抜や養殖管理にどこまで役立つかは、今後の研究の積み重ねによって明らかにされていくものと考えられます。

まとめ

この研究は、青からピンクへ色が変わるレサズリンという試薬を使うことで、酸素消費量を測る従来法よりも簡便かつ多数の個体を同時に扱える形で、カキの代謝を評価できる可能性を示したものです。温度ストレスへの応答や、系統ごとの違い、選抜育種における予測成績との関連も確認されており、今後、ストレスに強い系統の選抜や種苗(稚貝)管理のツールとして活用が検討される土台になる研究といえそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Huffmyer AS, Ozguner N, Baird M, et al. From blue to pink: resazurin as a high-throughput proxy for metabolic rate in oysters. ピアジェイ (2026). DOI: 10.7717/peerj.21542. 原著ライセンス: cc-by.