この研究は、ペルー、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Polymers

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

デンプンは食品や工業で広く使われる多糖類ですが、その供給はトウモロコシ、キャッサバ、小麦、ジャガイモといった限られた作物に偏っています。研究チームは、この偏りが単一作物の大規模栽培や資源の集中的な利用と結びついていることを指摘し、あまり使われていない植物資源からデンプンを得る可能性に目を向けました。

着目したのは、ペルー・アンデス東斜面の伝統的な農業で栽培されている三つの素材です。『ベヤコ』種のプランテン(調理用バナナ)、地元消費向けの『クリオーリョ』種マンゴーの種子、そして現地で「ウンクチャ」と呼ばれる白色タロイモ(Colocasia esculenta var. antiquorum)の球茎です。論文によれば、未熟なバナナ果肉は乾物あたり70〜80%、マンゴーの種子は50〜78%、タロイモの球茎は70〜80%のデンプンを含むと報告されています。一方で、これらの品種から取り出したデンプンの構造や性質はほとんど調べられていませんでした。そこで著者らは、三つのデンプンに手を加えない「天然デンプン」の状態で、その固有の性質を体系的に調べることを目的としました。

何をどう調べたか

試料はペルー・クスコ地方ラ・コンベンシオン県の市場と農場から集められました。バナナとマンゴーは未熟な状態で、タロイモは収穫適期のものを使っています。デンプンの取り出しには、素材を水とともに細かく砕き、目の細かいふるいで繰り返しこしてから沈殿させ、遠心分離と乾燥を経て粉にする方法が用いられました。

取り出したデンプンについて、著者らは多方面からの分析を行っています。水分・灰分(ミネラル分の目安)・タンパク質・脂質といった成分組成と、デンプンを構成する二成分のうち直鎖状の「アミロース」の割合を測定しました。見た目の白さや色合いは色彩計で数値化し、粒の形は走査型電子顕微鏡で観察、粒の大きさはレーザー回折で分布として求めました。さらに、X線回折で結晶構造の程度を、赤外分光で分子構造を調べ、水を加えて加熱したときの膨らみやすさ・溶けやすさ・吸水量、糊状になる過程の粘度変化やゲルの力学的性質、加熱による糊化の温度と熱量、高温での分解のしかたまで測定しています。

主な報告結果

成分面では、三つのデンプンいずれも水分が7.30〜7.90%で、保存中の固まりや品質劣化を防ぐ目安とされる12%未満に収まっていました。灰分は0.1〜0.28%で、著者らは抽出の過程でミネラル分が十分に除かれていたと述べています。タンパク質と脂質は素材によって違い、マンゴー種子デンプンでタンパク質1.93%・脂質1.10%と比較的高く、バナナデンプンは1.13%・0.11%、タロイモデンプンは1.69%・0.10%でした。タロイモでタンパク質がやや高めだった点については、タロイモ特有の粘り(ムシラージ)を含む組織がデンプン以外の成分の分離を妨げた可能性が論文中で挙げられています。

アミロースの割合はバナナ25.92%、マンゴー種子21.97%、タロイモ16.83%でした。著者らは、アミロースが多いほどゲルが硬く強くなり、加熱後に再び固まる(老化する)傾向が強く、粒が膨らみにくくなる性質と関係すると説明しています。これらの値は、トウモロコシやキャッサバなど従来のデンプン源で報告されている範囲と比べられる水準だとされています。

見た目の白さは三つで明確に分かれました。タロイモデンプンは明るさの指標L*が98.30、白色度96.56で最も白く、市販のトウモロコシデンプンについて報告されている値に近いものでした。マンゴー種子デンプンはやや乳白色(L*=90.04)、バナナデンプンは最も暗く(L*=84.53)、赤みと黄みを帯びていました。著者らはバナナの色づきを、素材に由来するポリフェノールや残存色素の存在と結びつけて述べています。

顕微鏡で見た粒の形も素材ごとに特徴的でした。バナナは卵形から細長い楕円形で大きめ、マンゴー種子は卵形・楕円形・丸い形が混じり、タロイモは多角形や不規則な形で明らかに小さい粒でした。粒の表面は全体として連続しており、抽出による大きな損傷は見られませんでしたが、マンゴー種子の一部の粒には小さな孔が点在していました。大きさの数値でもこの差は裏づけられ、粒径の中央値(D50)はバナナ22.40 µm、マンゴー種子13.48 µm、タロイモ4.43 µmでした。体積の割合で見ると、タロイモは9割以上が0〜10 µmの範囲に、マンゴー種子は10〜20 µmに半分以上、バナナは20〜30 µmに3割以上が集まっていました。なお、表面積で重みづけた平均径や分布の幅については、統計的な有意差は認められなかったと報告されています。

この研究が示すこと

著者らの報告は、同じ「天然デンプン」でも、由来する植物によって成分・色・粒の形と大きさ・アミロースの割合が体系的に異なることを具体的な数値で示しています。白さが際立つタロイモ、粒が大きくアミロースの多いバナナ、その中間に位置するマンゴー種子という違いは、それぞれの素材が持つ個性として記述されました。

これらの素材は、ペルーの伝統的な農業では身近でありながら、傷みやすさや収穫後の制約から大量に失われたり、種子のように使われずに残されてきたものです。論文はそうした資源の性質を測定可能な形で記録しており、あまり活用されてこなかった植物資源を見直すための基礎的な手がかりになります。

著者:Ortiz-Escobar P(Department of Food Engineering, Universidad Nacional Intercultural de Quillabamba (UNIQ), Quillabamba 08741, Peru.; Food Science and Technology Graduate Program, Universidade Estadual de Ponta Grossa (UEPG), Ponta Grossa 84030-900, Brazil.)、Carrion-Sanchez HM(Department of Food Engineering, Universidad Nacional Intercultural de Quillabamba (UNIQ), Quillabamba 08741, Peru.)、Chambilla LQ(Department of Food Engineering, Universidad Nacional Intercultural de Quillabamba (UNIQ), Quillabamba 08741, Peru.)、Velezmoro-Sanchez C(Departamento de Ingeniería de alimentos y Productos Agropecuarios, Universidad Nacional Agraria La Molina (UNALM), Lima 12056, Peru.)、Mottin Demiate I(Food Science and Technology Graduate Program, Universidade Estadual de Ponta Grossa (UEPG), Ponta Grossa 84030-900, Brazil.)、Lacerda LG(Food Science and Technology Graduate Program, Universidade Estadual de Ponta Grossa (UEPG), Ponta Grossa 84030-900, Brazil.)、Alcazar-Alay SC(Department of Food Engineering, Universidad Nacional Intercultural de Quillabamba (UNIQ), Quillabamba 08741, Peru.)、Pumacahua-Ramos A(Department of Food Engineering, Universidad Nacional Intercultural de Quillabamba (UNIQ), Quillabamba 08741, Peru.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ortiz-Escobar P, Carrion-Sanchez HM, Chambilla LQ, et al. Native Starch Granules from Unconventional Peruvian Sources: Banana, Mango and Taro. Polymers 2026-09-15. DOI: 10.3390/polym18182252. 原著ライセンス:CC BY.