この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

冷凍の小麦粉加工食品は、手軽さ・長い保存期間・規格化された生産を両立できることから需要が伸びています。なかでも「冷凍生包子」は、成形した直後、あるいは発酵させた後に蒸さずに急速冷凍し、冷凍のまま流通・保管する製品です。食べるときは解凍せずにそのまま蒸すか、短時間の解凍・発酵を挟んでから蒸します。作りたてに近い特徴を残しつつ、最終工程の手間を減らせる点が利点です。

ただし論文によると、冷凍保存とその後の加熱には品質面の問題が伴います。比容積(生地の膨らみ具合を重さあたりの体積で表した指標)が小さくなり、硬さが増し、弾力や風味が損なわれます。原因として、氷の結晶ができたり大きく育ったりすることで、生地の骨格であるグルテンの網目構造が傷つき、酵母の生存率も下がることが挙げられています。

工業生産では、ガス発生が速く制御しやすい市販酵母(サッカロミセス・セレビシエ)が主に使われますが、酵母だけの製品は老化が早く、伝統的な種に由来する風味や食感に欠けるとされてきました。一方サワードウは、小麦粉と水に乳酸菌や酵母などが共存する伝統的な発酵種で、乳酸菌が優勢なのが一般的です。乳酸菌による発酵は老化を遅らせ、栄養特性を高め、蒸しパン類の日持ちを伸ばすと報告されています。ただし伝統的なサワードウは発酵が遅く、原料や環境条件に左右されやすいため、標準化が難しいという課題があります。

研究チームは、サワードウと市販酵母を組み合わせれば、速いガス発生と、グルテン構造・風味・冷凍耐性に働きかける微生物代謝産物とを両立できるのではないかと考えました。先行研究の多くはパンなど西洋型の製品が中心で、中国の点心である冷凍生包子について、サワードウと酵母の併用発酵を体系的に調べた例は限られていたと著者らは述べています。また既往研究は添加量が一水準か、添加の有無を比べる程度にとどまり、添加量の効果を系統的に評価したものがなかったとも指摘しています。そこで本研究は、初期品質と保存中の安定性を両立できる添加量を見いだすこと、そして微生物や代謝産物と生地の性質との関連を探ることを目的としました。

調べた方法

著者らは、中国河南省駐馬店で得られた伝統的な自然発酵のサワードウ種(乳酸菌と酵母が混在する培養物)を用いました。小麦粉全体に対するサワードウ添加率を0%、30%、50%、70%、100%の5水準に設定し、総小麦粉量と生地のかたさが揃うよう加水量を調整したうえで、食品用アルカリで生地の初期pHを6.3〜6.5に合わせています。

包子は、キノコと青菜の餡を用い、1個70±0.5g、皮と餡の比率を42対28で統一して成形しました。38℃・湿度85%で30分発酵させた後、−80℃に予冷した冷凍庫で16分間急速凍結し、氷結晶が最も生じやすい−1℃〜−5℃の温度帯を短時間で通過させて、大きな氷結晶の形成とグルテン網目・酵母細胞への損傷を抑えています。その後は−18℃で30日間保存しました。各処理につき、別の日に3回独立して仕込んだバッチを用意しています。

評価項目は多岐にわたります。生地の発酵特性(最大生地高さ、ガス漏出までの時間、総ガス発生量、ガス保持率)、蒸し上げた包子の白度・比容積・テクスチャー(硬さ・弾力)、訓練を受けた10名の官能評価に加え、pHと総酸度、乳酸菌と酵母の生菌数、高速シーケンシングによる微生物群集構成、乳酸・酢酸・エタノール、発酵性糖類、遊離アミノ酸、遊離チオール基と還元型グルタチオン、さらにサイズ排除クロマトグラフィーによるタンパク質の分子量分布などを測定しています。

主な報告結果

生地の発酵特性では、サワードウを増やすほど最大生地高さが上がり、無添加の40.50mmから100%添加の70.50mmまで増加しました。ガス漏出までの時間も、無添加の49.50分から100%添加では70.25分に延びています。一方、総ガス発生量は30%添加で1766.50mLと最も多く、100%では1147.50mLまで減りました。著者らは、30%で総ガス発生量が高いのは酵母が活性を保ったまま乳酸菌が併行発酵に寄与したためと考え、100%で低下したのは栄養の競合や酸による酵母の抑制を反映している可能性があるとしています。なお100%でガス保持率が高い(79.65%)点については、総ガス発生量自体が少なく失われうる量も少ないため慎重な解釈が必要だと注意を促しています。

蒸した包子の品質では、30%添加が一貫して最も良好でした。白度は保存1日目でサワードウ量とともにいったん上がってから下がり、30%が最高値を示しました。保存が進むと全群で白度は低下しましたが、30日後も30%が最も高く、逆に50%を超える群では低下が速く、最終的に無添加の対照群を有意に下回りました。比容積も同様で、1日目は30%が他群より有意に高く、保存期間を通じて最も高い値を保ち、低下も最も緩やかでした。70%と100%では初期から比容積に優位性がなく、保存中の劣化がより顕著だったと報告されています。

テクスチャーでは、1日目の硬さはサワードウを増やすほど下がり、対照群が最も硬く、100%が最も柔らかい結果でした。保存15日、30日と進むにつれてすべての群で硬さが増しましたが、サワードウ添加群は対照群より硬さが低く、上昇幅も小さく、30〜50%の範囲で抑制効果のバランスが良好でした。弾力は1日目に30%が他のすべての群より有意に高く、保存を通じても30%が最高値と最も良い安定性を維持しました。官能評価でも、1日目の30%群は表面の光沢・気泡の細かさ・弾力で最高点を得ています。対照群は粘りが目立ち、100%群は縮み・弾力・咀嚼性の評価が低く、官能の傾向は比容積やテクスチャーの測定結果と一致していました。

微生物と代謝の面では、1日目の酵母数は30%と50%で最も高く(6.27 lg CFU/g)、対照群(5.39 lg CFU/g)を有意に上回りました。ただし70%、100%では減少に転じています。乳酸菌数はサワードウ量とともに増え、70%で最大(7.82 lg CFU/g)となりました。30日後はどの群でも菌数が減りましたが、30%と50%は酵母・乳酸菌ともに比較的高い水準を保ち、生存率が良好でした。群集構成を見ると、属レベルではサッカロミセスがすべての試料で圧倒的に優勢で、1日目の相対存在比は96.79〜97.92%とほぼ差がありませんでした。30日後にはその存在比が全般に低下し、低下幅はサワードウ添加量が多いほど大きく、100%群で最も大きくなっています。ラクトバチルスは1日目にサワードウ量とともに有意に増え、70%群では66.27%に達しました。

酸の面では、1日目のpHは30%で6.42と最も高く、100%では5.98まで下がりました。総酸度は添加量とともに上がり、100%で2.38mLに達しています。30日後には全群でpHが上がり総酸度は下がりましたが、100%が依然として最高(1.85mL)でした。乳酸は添加量とともに有意に増え、冷凍保存中も蓄積が続き、1日目の100%群では4.36mg/gに達しています。

著者らは、菌数と生地の品質指標のあいだに明確な相関傾向があったと述べています。30日保存後、酵母と乳酸菌の生菌数が高い処理(とくに30%添加群)ほど比容積が高く、酵母の生存維持は硬さの抑制と弾力の向上に正の相関を示しました。ただし本研究ではプロテアーゼやアミラーゼの活性を直接測定していないため、弾力の変化に関わる酵素的な仕組みの説明は仮説にとどまり、さらなる検証が必要だと明記しています。また、pHと総酸度が保存中に逆方向に動いた理由についても、微生物活性の低下や酸の分布・緩衝能の変化を反映している可能性を挙げつつ、今回の測定ではこれらを区別できないと断っています。

この研究が示すこと

この研究が示したのは、サワードウの効果は「入れるほど良い」という単純な比例関係ではないということです。添加量を増やすほど発酵時の生地は高く膨らみ、乳酸菌も増えますが、酸が過剰になると酵母が抑えられ、グルテンの網目の連続性が損なわれて、冷凍後の比容積や弾力はかえって悪化しました。

著者らの報告では、今回の条件下で初期品質と冷凍保存中の安定性を最もよく両立したのは30%添加でした。この水準では酵母と乳酸菌が互いに支え合う関係が成り立ちやすく、冷凍というストレス下でも菌数と群集構成が比較的安定に保たれ、その結果として白度・比容積・弾力の維持や硬化の遅延につながったと考察されています。

同時に著者らは、種の活性、小麦粉の特性、活性化条件のいずれもがサワードウの調製に影響するため、工業的な応用にはさらなる検証が必要だという限界も明記しています。伝統的な発酵種と市販酵母の組み合わせを、量の設計という観点から捉え直した点に、この研究の意義があります。

著者:Xiaoling Zhou(Chen Ke Ming Food Manufacturing Co., Ltd., No. 1 Xing Sheng Avenue, Industrial Park, Nanxian, Yiyang 413200, China)、Dongsheng Zhang(Chen Ke Ming Food Manufacturing Co., Ltd., No. 1 Xing Sheng Avenue, Industrial Park, Nanxian, Yiyang 413200, China)、Sinan Xu(Chen Ke Ming Food Manufacturing Co., Ltd., No. 1 Xing Sheng Avenue, Industrial Park, Nanxian, Yiyang 413200, China)、Yanju Hu(Chen Ke Ming Food Manufacturing Co., Ltd., No. 1 Xing Sheng Avenue, Industrial Park, Nanxian, Yiyang 413200, China)、Bin Xu(School of Food Science and Engineering, Jiangsu University, Zhenjiang 212013, China)、Zhihua Li(School of Food Science and Engineering, Jiangsu University, Zhenjiang 212013, China)、Xiaobo Zou(School of Food Science and Engineering, Jiangsu University, Zhenjiang 212013, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiaoling Zhou, Dongsheng Zhang, Sinan Xu, et al. Sourdough-Yeast Co-Fermentation Preserves Frozen Raw Stuffed-Bun Quality. Foods 2026-08-30. DOI: 10.3390/foods15173074. 原著ライセンス:CC BY.