この研究は、インド、イギリスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Antibiotics
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的と背景
インドは鶏肉と鶏由来製品の一大生産国です。鶏肉の消費が増えるなかで、生産の集約化にともなう人獣共通感染症(動物から人へうつる感染症)のリスクをどう抑えるかが課題になっています。研究チームは、グジャラート州を対象に、この課題に取り組むための基礎データがこれまで乏しかった点に注目しました。
著者らによれば、同州のこれまでの調査は流行の発生時に限られていたり、単一の病原体だけを扱っていたり、入院患者から分離された菌に限定されていたりして、農場や市場といった現場の状況を体系的に押さえたものは少なかったといいます。そこで本研究は、鶏の流通経路にそって三つの食品由来病原菌の保有率を推定すること、それらの抗菌薬への耐性の様子(AMR:抗菌薬が効きにくくなる性質)を調べること、そして地域に即した監視や対策の土台となる基礎的な証拠を作ることを目的として行われました。著者らは、この三つの菌を同じ調査枠組みのなかで同時に評価した研究はグジャラート州では初めてだとしています。
何をどのように調べたか
調査地としては、養鶏の密度と流通網をもとに、アーメダバード、バルーチ、ブジ、ゴードラー、ヒンマトナガル、ラージコート、スーラト、バドダラの八都市が選ばれました。協力の得られた養鶏場50か所と生鳥市場の店舗65か所から、2021年8月から2022年3月にかけて試料が集められています。対象となったのはブロイラー(食肉用に改良された品種)と、デシと呼ばれる在来種の鶏です。
鶏からは盲腸と総排泄腔(消化管や排泄などの出口にあたる部分)の試料を採り、カンピロバクター属菌と大腸菌を調べました。非チフス性サルモネラについては、養鶏場や店舗の敷料や土壌といった環境の拭き取り試料を用いています。カンピロバクター用に750検体、大腸菌用と非チフス性サルモネラ用にそれぞれ150検体が集められました。菌の特定は、培養や生化学的な検査に加えて、質量分析装置による同定、遺伝子を増幅して種を見分けるPCR、16S rRNA遺伝子の配列解読といった複数の方法を組み合わせて確認されています。
薬剤耐性については、抗菌薬をしみこませた小さな紙の円板を寒天培地に置き、菌が育たない範囲の広さを測るディスク拡散法という標準的な手法が使われました。カンピロバクター属菌には34種類、大腸菌には35種類の抗菌薬が用いられ、いずれも9つの系統にまたがるものでした。判定はCLSIという臨床検査の指針にそって、感受性・中間・耐性に分類されています。
報告された主な結果
論文によれば、カンピロバクター属菌は調べた鶏の10.26%から、大腸菌は51.33%から検出されました。一方、非チフス性サルモネラは環境試料からは一つも検出されなかったと報告されています。カンピロバクター属菌の内訳は、C. coli が7.46%、C. jejuni が2.8%でした。
検出のされ方は都市・季節・品種によって異なっていました。C. coli が最も多かったのはスーラトの店舗のブロイラー試料(17.5%)と、ブジの店舗のデシ鶏(16.7%)で、C. jejuni はブジの店舗のブロイラー試料で最も高い13.3%という値を示しています。注目すべき点として、デシ鶏からは C. jejuni が一例も検出されませんでした。著者らは、都市とC. coli の検出率のあいだに統計的に意味のある関連があったこと、また鶏の品種とC. jejuni の検出のあいだにも関連が見られたことを報告しています。ただしこれは関連が観察されたということであり、原因と結果が確定したという意味ではありません。
薬剤耐性については、カンピロバクター属菌のほうが高い耐性を示し、とくにフルオロキノロン系、マクロライド系、ベータラクタム系に対して顕著でした。複数の系統の薬が効かない菌の割合も報告されており、ほぼすべての系統に耐性を示す「広範囲薬剤耐性」はカンピロバクター属菌の39.34%、大腸菌の61.03%、試験したすべての薬に耐性を示す「汎薬剤耐性」はそれぞれ4.92%と9.09%でした。大腸菌では、77株すべてがバンコマイシンに耐性を示したことも報告されています。
著者らは本研究の限界もあげています。協力が任意だったことによる偏りの可能性、病気の兆候がある鶏を除外したことで保有率が低く見積もられた可能性、調査期間が限られ季節変動を十分に捉えられていないこと、環境試料が表面の拭き取りに限られ、水や飼料、空気を介した経路を含んでいないことなどです。
この研究が伝えること
この研究は、グジャラート州の鶏の流通網に、食品を介して人に感染しうる細菌がどの程度いるのか、そしてそれらが抗菌薬にどれだけ耐性を持っているのかを、同じ枠組みのなかで初めて描き出したものです。著者らは、生や加熱不十分な肉がこれらの菌の伝播経路になりうると述べ、農場での衛生管理の実践と、抗菌薬の使用を監視・規制していく必要性を強調しています。
地域によって菌の検出のされ方が違っていたという結果は、対策を一律にではなく、その土地の事情に合わせて組み立てる必要があることを示しています。人と動物と環境をひとつながりのものとして捉える「ワンヘルス」の視点から、基礎となる数字を地域ごとに積み上げていくことの意味を、この研究は具体的に示しているといえます。
著者:Sadik Dantroliya(Gujarat Biotechnology Research Centre, Department of Science and Technology, Government of Gujarat)、Monica Chavan(Gujarat Biotechnology Research Centre, Department of Science and Technology, Government of Gujarat)、Debashrita Mittra(Gujarat Biotechnology Research Centre, Department of Science and Technology, Government of Gujarat)、Rameshchandra Pandit(Gujarat Biotechnology Research Centre, Department of Science and Technology, Government of Gujarat)、Fiona M. Tomley(The Royal Veterinary College)、Damer Blake(The Royal Veterinary College)、Prakash Koringa(Department of Veterinary Biotechnology, College of Veterinary Science and Animal Husbandry, Kamdhenu University)、C. K. Joshi(Gujarat Biotechnology Research Centre, Department of Science and Technology, Government of Gujarat)、C. K. Joshi(Gujarat Biotechnology Research Centre, Department of Science and Technology, Government of Gujarat)、Satyamitra Shekh(Gujarat Biotechnology Research Centre, Department of Science and Technology, Government of Gujarat)、Chinmayi Joshi(Gujarat Biotechnology Research Centre, Department of Science and Technology, Government of Gujarat)、Chinmayi Joshi(Gujarat Biotechnology Research Centre, Department of Science and Technology, Government of Gujarat)、Madhvi N. Joshi(Gujarat Biotechnology Research Centre, Department of Science and Technology, Government of Gujarat)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sadik Dantroliya, Monica Chavan, Debashrita Mittra, et al. Prevalence and antimicrobial resistance profiles of Campylobacter coli, Campylobacter jejuni, and Escherichia coli in the poultry distribution network. Frontiers in Antibiotics 2026-09-22. DOI: 10.3389/frabi.2026.1875259. 原著ライセンス:CC BY.