日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Microorganisms
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
近年、腸内細菌のなかでも「Akkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ)」という菌が注目されています。腸の粘膜を覆う粘液(ムチン)を分解して暮らす菌で、海外の研究では健康との関連が話題になることが多い菌です。ただし、その存在量は人種や地域によって差があることが知られており、日本人ではもともと検出量が少ない、あるいは検出されないケースが多いとも言われています。今回紹介する研究は、日本人の高齢者を対象に、このAkkermansia属菌が実際にどれくらい検出されるのか、そして食生活や身体機能とどう関わっているのかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、地域で生活する65歳以上の日本人高齢者786人を対象に調査を行いました。参加者の食事内容を31の食品グループに分類し、主成分分析という統計手法を用いて、どのような食べ方の傾向(食事パターン)があるかを抽出しました。また、便に含まれる腸内細菌のDNAを解析する「16S rRNA遺伝子シークエンシング」という手法で、Akkermansia属菌の量を調べています。
その結果、参加者786人のうち356人(45.3%)ではAkkermansia属菌がそもそも検出されませんでした。検出された人でも、その量は腸内細菌全体のなかでごくわずか(中央値でおよそ0.35%程度)にとどまっていました。つまり、この集団全体としてAkkermansia属菌は「もともと少ない、あるいは無い人が多い」菌であることが確認されました。
食事パターンとの関連を調べたところ、「麺類を中心とした食事パターン」が、Akkermansia属菌の量と逆の関連を示すことがわかりました。年齢、性別、BMI(体格指数)、生活習慣や持病の有無などの影響を統計的に調整したうえでも、この関連は統計的に有意でした(β = −0.125、p = 0.0007)。さらに、麺類中心の食事の傾向が強い人ほどAkkermansia属菌が少なくなるという、量に応じた関係(用量反応関係、傾向性のp = 0.004)も見られています。
詳しく分析すると、この関連は「菌がそもそも検出されるかどうか」という点に限られていました。麺類中心の食事パターンが強い人ほど、Akkermansia属菌が検出される確率が下がる一方(標準偏差1つ分あたりの調整オッズ比0.80、95%信頼区間0.69〜0.93)、すでに菌を持っている人の中では、食事パターンと菌の量との間に明確な関連は見られませんでした(p = 0.25)。つまり、麺類中心の食生活は「菌の量を減らす」というより「菌がいるかいないか」に関わっている可能性が示唆される結果でした。
また、身体機能との関連も調べられましたが、Akkermansia属菌の有無や量は、握力、筋肉量、フレイル(虚弱)の状態とは、はっきりした関連を示しませんでした。菌を保有している人に限定した分析では弱い関連の兆候が見られたものの、多重比較の補正(偽発見率補正)後には統計的な有意性を保てず(p = 0.056)、この結果は探索的なもの、つまり今後さらに検証が必要な段階の知見として位置づけられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、あくまで一時点での食事や腸内細菌の状態を調べた観察研究であり、麺類を食べることがAkkermansia属菌を減らす「原因」であると証明したものではありません。相関関係が確認されたに過ぎず、因果関係については今後さらなる研究が必要です。また、対象は日本人の地域在住高齢者に限られており、他の年代や集団にそのまま当てはまるとは限りません。身体機能との関連についても、明確な結果は得られておらず、探索的な位置づけの知見にとどまる点にも注意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。
まとめ
今回の研究では、日本人高齢者の多くでAkkermansia属菌がもともと少ない、あるいは検出されないという実態が確認されるとともに、麺類中心の食事パターンがこの菌の「検出されやすさ」と逆の関連を示すことが報告されました。一方で、身体機能との明確な関連は認められませんでした。腸内細菌と食生活の関係はまだ解明途上の分野であり、今後の研究の積み重ねが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):日本人高齢者におけるAkkermansiaの低い検出率と存在量:麺類中心の食事パターンとの逆相関、身体機能とは無関係(マイクロオーガニズムズ・2026年08月)
著者:Yuji Naito(Department of Human Immunology and Nutrition Science, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto 602-8566, Japan)、Hiroaki Kitae(Department of Human Immunology and Nutrition Science, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto 602-8566, Japan)、Katsura Mizushima(Department of Human Immunology and Nutrition Science, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto 602-8566, Japan)、Norihiro Ouchi(Department of Internal Medicine, Kyotango Municipal Yasaka Hospital, Kyoto 627-0111, Japan)、Atsuo Adachi(Department of Internal Medicine, Kyotango Municipal Yasaka Hospital, Kyoto 627-0111, Japan)、Tadaaki Kamitani(Department of Internal Medicine, Kyotango Municipal Yasaka Hospital, Kyoto 627-0111, Japan)、Jin Narumoto(Department of Psychiatry, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto 602-8566, Japan)、Tomoya Kitani(Department of Cardiovascular Medicine, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto 602-8566, Japan)、Satoaki Matoba(Department of Cardiovascular Medicine, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto 602-8566, Japan)、Ryo Inoue(Laboratory of Animal Science, Department of Applied Biological Sciences, Faculty of Agriculture, Setsunan University, Osaka 573-0101, Japan)、Tomohisa Takagi(Molecular Gastroenterology and Hepatology, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto 602-8566, Japan)