著者の所属・活動拠点の国は、ノルウェー、ウガンダです。

掲載誌:MAST. Maritime studies/Maritime studies

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究のねらい

アフリカの内水面漁業では、成長が早く数も多い在来の小型魚が漁獲の大きな割合を占めています。ウガンダでも小魚は全漁獲の半分以上を占めるとされ、安価で地元の市場でも手に入りやすい食べ物です。これまでの研究では、小魚を頭や骨、内臓ごと丸ごと食べると、大きな魚の切り身よりも多くの微量栄養素をとれることが示されてきました。

一方で、小魚が実際に家庭でどのように下ごしらえされ、ほかの食材とどう組み合わされ、家族の中でどう配られているのかについては、ほとんど分かっていませんでした。研究チームは、この「家庭の台所で何が起きているか」を明らかにするため、北部ウガンダの一部地域で、女性が小魚をどう準備・調理し、家族に出しているかを調べました。

分析の枠組みとして著者らが用いたのが「栄養のゲートキーパー(門番)」という考え方です。これは、食料を買い、調理し、誰が何をどれだけ食べるかを左右する人を指す言葉です。この地域では調理は女性の仕事とされており、著者らは女性が魚を栄養のある食事に変え、家族の食生活に影響を与える存在だと位置づけました。

どのように調べたか

調査は2023年11月から12月にかけて、北部ウガンダのグル、ヌウォヤ、パクワチの3地区で行われました。地区は、大きな魚市場やアルバート湖の小規模漁業との距離が異なるように選ばれており、魚へのアクセスの違いを比べられるようになっています。パクワチには周辺国からも商人が集まる大きな魚市場があります。

研究チームは、小学生年齢の子どもがいる109世帯を対象に聞き取り調査を行い、過去7日間に家族の誰がどの魚をどのくらいの頻度で食べたか、また過去24時間にどんな食品グループを食べたかを尋ねました。後者からは、食べた食品グループの数で食事の多様さを示す「世帯食事多様性スコア」(0〜12点)を算出しています。

あわせて、女性を対象とした5回のグループ討論を行い、魚の買い方や調理法、家族への出し方を話し合ってもらいました。さらに、実際に女性たちが15品の小魚料理を作る様子を観察し、魚の種類、下処理、使った食材、配膳の仕方を記録しました。なお著者らは、この標本が北部ウガンダの世帯全体を統計的に代表するものではないと述べています。

主な結果

過去24時間の食事では、野菜や穀物、イモ類などが多くの世帯で食べられていた一方、肉・卵・乳製品・魚といった動物性食品は全体として最も食べられていない食品グループでした。その中で魚は最もよく食べられており、半数を超える世帯が魚を食べていたのに対し、肉は27%、乳製品は21%、卵は20%にとどまりました。漁場と大きな魚市場の両方に近いパクワチでは、65%の世帯が魚を食べていました。ビタミンAの主な供給源は植物性食品だったと報告されています。

食事多様性スコアの平均は7.5で、地区別ではパクワチが9.3と最も高く、グル周辺は6.7、ヌウォヤは6.4でした。

過去7日間で見ると、109世帯中105世帯、個人では約92%が魚を食べており、平均すると週に3回ほど、10%の人は毎日魚を食べていました。最もよく食べられていたのは、乾燥させた小魚「ムケネ」です。主な入手先は漁業を営む世帯も含めて地域の市場で、グループ討論では「本当はどの魚も好きだが、お金の事情でたいていムケネを買う」という声が聞かれました。

調理の観察では、女性たちはまず天日干しの小魚から石や砂、虫などを手で取り除き、その後、空炒りしたり湯や水に浸したりして砂や生臭さを落としていました。多くの小魚は頭や骨ごと丸ごと調理されましたが、料理によっては砂が混じりやすい頭や、硬くて食べにくい骨を取り除く場合もありました。小魚はササゲの葉やナス、オクラなどの野菜、すりごま、ピーナッツペーストと煮込まれることが多く、女性たちはその理由として、料理がおいしくなることや、量を増やして家族全員に行き渡らせられることを挙げています。

配膳については、母親や妻が誰に何をどれだけ出すかを決めるのが当然とされていました。ただし、その判断は性別や年齢、家長かどうかといった慣習に強く左右されていました。働いて家族を養う家長には敬意から多めに盛り、大きな魚の場合は頭の部分を家長に出すのがふさわしいとされていました。子どもには骨の少ない身の部分を食べきれる量だけ出し、年長者にも敬意を込めて多めに出していました。食べ物が足りないときには、夫や子どもが食べ終わってから母親が食べることもあったといいます。

研究が示すこと

著者らは、小魚が「十分に活用されていない」とするこれまでの見方とは異なり、北部ウガンダのこれらの地域では、安価で手に入りやすい小魚がすでに日常の食事にしっかり組み込まれていると論じています。こうした食べられ方が把握されてこなかった背景には、小魚の消費に関するデータ不足があるのではないか、とも指摘しています。

また、女性は小魚の品質を見分け、下処理や味付けを工夫し、家族への分配を決める「栄養のゲートキーパー」として中心的な役割を担っていました。一方で著者らは、女性が家庭の食料について自由に決められるわけではなく、文化的に定められた性別役割や社会的な期待の中で判断している点も強調しています。小魚の栄養上の価値が実際の食卓でどう生かされるかは、魚そのものだけでなく、それを調理し配る人と、その人を取り巻く慣習によって形づくられていることを、この研究は示しています。

原著論文の著者・所属:Fridah Siyanga(Department of Geography, University of Bergen, Bergen, Norway)、Ragnhild Overå(Department of Geography, University of Bergen, Bergen, Norway)、Marian Kjellevold(Institute of Marine Research, Bergen, Norway)、Anne Hatløy(FAFO Institute for Labour and Social Research, Oslo, Norway)、Jeppe Kolding(Department of Biological Sciences, University of Bergen, Bergen, Norway)、Peter Andersen(Department of Geography, University of Bergen, Bergen, Norway)、Godfrey Kawooya Kubiriza(Department of Zoology, Entomology and Fisheries Sciences, Makerere University, Kampala, Uganda)、Robinson Odong(Department of Zoology, Entomology and Fisheries Sciences, Makerere University, Kampala, Uganda)、Margaret Masette(Department of Zoology, Entomology and Fisheries Sciences, Makerere University, Kampala, Uganda)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fridah Siyanga, Ragnhild Overå, Marian Kjellevold, et al. Women’s preparation, cooking, and serving of small fish shape nutritional outcomes in Northern Ugandan households. MAST. Maritime studies/Maritime studies 2026-08-17. DOI: 10.1007/s40152-026-00511-x. 原著ライセンス:CC BY.