海外で暮らす移民が新しい社会に溶け込んでいく過程というと、言語習得や就労、地域行事への参加といった場面が思い浮かびやすいかもしれません。しかし、日々の食卓を支える『食材の調達』もまた、暮らしの土台を形づくる重要な営みです。今回紹介する研究は、日本で暮らす中国人住民を対象に、なじみのある食材をどのように手に入れているかを調べ、その過程で育まれる人間関係や地域とのつながりに注目したものです。

この研究では、住み慣れた土地を離れた人が『ホーム(home)』という感覚を新しい場所で少しずつ作り上げていく過程の一部として、食材の調達を位置づけています。食に対するこだわりは、それまでの生活の中で身につけた習慣や感覚(ハビトゥス)の表れであり、異なる社会や環境に身を置くことで、その習慣が調整され、新しい調達の工夫が生まれていく、という考え方が背景にあります。

調査でわかったこと

研究チームは、日本在住の中国人住民317名を対象にアンケート調査を実施しました。その結果、特に新鮮な野菜や果物について、望むものを手に入れにくいと感じている人が多いことが明らかになりました。こうした状況に対応するため、一部の住民は自宅での家庭菜園、知人との分け合いや交換、さらには小規模な販売といった、多様な調達の工夫を行っていることが示されました。

さらに研究チームは、実際に家庭菜園や小規模な商業的な畑を営む中国人住民の事例を掘り下げて調べています。そこでは、どの作物を育てるか、どのような栽培方法をとるか、収穫物をどう分けたり売ったりするか、そして畑の規模をどうするかといった判断が、家族の食のニーズ、顧客からの需要、利用できる土地、割ける労力、季節の変化などに応じて柔軟に調整されている様子が確認されました。

こうした畑を介した実践は、単になじみの食材を確保する手段にとどまらず、日々の暮らしを組み立てる基盤となり、同じ中国出身の住民同士のつながりだけでなく、地域社会のより広い人々との関係づくりにもつながっていると報告されています。研究チームは、こうした畑を通じた食材調達の営みが、公式な制度や組織を介さない、日本での生活の物質的・社会的条件に根ざした『日常レベルでの統合の一つの経路』になりうると述べています。

この研究を読むうえで

この研究は、農業科学分野の学術誌に掲載予定のもので、鹿児島大学および佐賀大学の研究者によってまとめられました。あくまで日本国内の中国人住民という特定の対象を通じた調査であり、対象者の食材調達の実態や畑をめぐる工夫を明らかにした一つの研究です。他の出身国の移民や、日本以外の受け入れ社会にそのまま当てはまるとは限らない点には注意が必要です。

本研究はアンケート調査と、家庭菜園・小規模な商業的な畑の事例を組み合わせた分析にもとづいており、統計的に効果や因果関係を証明するものではなく、実際にどのような工夫や関係づくりが行われているかを描き出すことに主眼が置かれている点も踏まえて読むとよいでしょう。

まとめ

この研究は、日本で暮らす中国人住民が、なじみのある野菜や果物を手に入れにくいという課題に直面しながらも、家庭菜園や分け合い、交換、小規模な販売といった多様な工夫でそれを補っている様子を明らかにしました。そして、そうした日々の食材調達の営みが、地域の人々との関係づくりや暮らしの基盤づくりにもつながっている可能性が示唆されています。食という身近な切り口から、移民の暮らしと地域社会とのつながりを考えるきっかけになる研究といえるでしょう。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Kemeng Chen, Miho Fujimura, Shinsuke Nakai. Everyday Food Provisioning and Immigrant Integration: Garden-Based Practices and Social Relations Among Chinese Residents in Japan. ソーシャル・サイエンシズ (2026). DOI: 10.3390/socsci15080522. 原著ライセンス: cc-by.