日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行期、日本では病床が不足したため、症状の軽い患者がホテルに滞在して療養する仕組みがとられました。しかし、そこで提供される食事の栄養価が乏しいという報告がありました。ホテルの従業員は、回復期にある人に向けて栄養バランスを考えた食事を用意した経験がなかったためです。

研究チームはこうした状況をふまえ、栄養バランスと従業員が担える業務の両方に配慮した「モデル献立」を作ることを目的として、この研究を行いました。対象としたのは、宿泊療養施設として運用されていた東京のホテルB(論文中の呼称)の事例です。

何をどのように調べたか

研究チームは、まずホテルで実際に出されていた献立を評価しました。患者に提供されていた弁当の栄養価を調べたところ、揚げ物が多すぎること、ビタミンCが不足していること、塩分が多いこと、野菜が少ないことが明らかになったと報告しています。

次に、栄養計算にもとづいてモデル献立案を作成しました。そのうえで、ホテルBで意思決定に関わる3名――総支配人と料理長2名――に対し、半構造化インタビュー(あらかじめ大枠の質問を決めつつ、話の流れに応じて掘り下げる聞き取り方法)を2回実施し、モデル献立案と、それを修正した献立が実際に運用できるかどうかを検討しました。

報告された結果

ホテルの従業員は、修正後のモデル献立について実行可能だと認めたと報告されています。最終的に提案された献立は、消化がよく調理しやすい料理で構成され、主菜に揚げ物を使わず、果物と野菜を豊富に含むものでした。

この献立は、費用や人員といった利用可能な資源も考慮しており、衛生面への懸念や、主菜の見た目の良さにも対応していました。さらに、食品の保管や配膳といった現場の制約、また人と人との距離を保つ方針に伴う動線の問題――感染した患者や職員の配置換え、エレベーター利用の制限といった対応――も考慮に入れられています。

この研究が示すこと

研究チームは結論として、感染症の流行下では患者への栄養管理を迅速かつ適切に行うことが重要だと述べています。そして、療養中の人に食事を提供する際、栄養士は栄養バランスだけでなく、安全性と食品衛生、効率、感覚的な魅力(おいしさや見た目)といった要素もあわせて考える必要があるとしています。

非常時の食事は、栄養の計算だけでは成り立ちません。誰がどんな条件で作り、どう届けるのかという現場の事情まで含めて設計することの意味を、この事例研究は示しています。

著者:Nazuki Takahashi(Faculty of Life Sciences, Ochanomizu University)、Noriko Sudo(Natural Science Division, Faculty of Core Research, Ochanomizu University)、Gengaku Mashiro(Corporate Affairs Group, Corporate Affairs Division, TOKYU CORPORATION)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nazuki Takahashi, Noriko Sudo, Gengaku Mashiro. A nutritionally balanced menu for emergencies: beyond the COVID-19 pandemic. Frontiers in Nutrition 2026-09-17. DOI: 10.3389/fnut.2026.1855250. 原著ライセンス:CC BY.