著者の所属・活動拠点の国は、メキシコです。

掲載誌:Revista Científica de Salud y Desarrollo Humano

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

「トレーニング後は糖質」という常識を問い直す

筋力トレーニングを続けると筋肉が太くなります。これを筋肥大と呼びます。筋肥大は、筋肉にかかる機械的な刺激、栄養の供給、そして細胞の中で筋肉づくりを指示するさまざまな信号の働きが組み合わさって起こると考えられています。

かつては、トレーニング直後に糖質をとることが筋肉の成長に欠かせないと広く信じられていました。糖質をとると血中のインスリンが増えます。インスリンは筋肉に糖やアミノ酸を取り込ませ、筋肉のたんぱく質が分解されるのを抑える働きを持つホルモンです。こうした働きから、運動後およそ30〜60分の間に吸収の速い糖質をとるべきだという「アナボリック・ウィンドウ(筋肉づくりの好機)」の考え方が、競技者やボディビルダーの間に定着しました。

その後、筋肉の一部を採取して調べる方法や、目印をつけたアミノ酸で筋たんぱく質がつくられる速さを測る方法などが発達しました。その結果、筋たんぱく質の合成を主に左右するのは必須アミノ酸、とくにロイシンの量と、細胞内で筋肉づくりの司令塔役を担うmTORC1という分子の活性化であることが分かってきました。一方で、糖質を大幅に減らすケトジェニック食などの食事法も広まり、糖質が筋肥大にどう関わるのかが改めて問われるようになりました。

著者らはこうした状況を踏まえ、筋力トレーニングによる筋肥大に糖質摂取がどのような影響を与えるのかを、体の働き、生化学、分子のしくみを結びつけて分析することを目的としました。

既存の研究をどのように集めて整理したか

この研究は、新たに実験を行うものではなく、これまでに発表された研究を集めて内容を整理・比較する「ナラティブレビュー」です。著者らは複数の医学・スポーツ科学の文献データベースで、2013年から2026年までに英語またはスペイン語で発表された論文を検索しました。

対象としたのは、糖質摂取が筋肥大、筋たんぱく質の合成、筋肉に蓄えられた糖(筋グリコーゲン)、運動能力、筋肉の成長に関わる信号経路に与える影響を調べた臨床試験、実験研究、複数の研究結果をまとめた系統的レビューやメタ分析、専門団体の見解文書などです。動物だけを対象にした研究や、持久系競技だけを扱った研究などは除外されました。

論文によると、分析の中心となったのは15件の主要な研究で、その内訳は系統的レビュー3件、メタ分析2件、ナラティブレビュー7件、実験研究1件、見解文書2件でした。著者らは、研究ごとに対象者、期間、糖質の量、評価方法などがかなり異なっていたとしたうえで、共通して見られる傾向を読み取っています。

糖質の役割は「筋肉の材料」ではなく「練習を支える燃料」

著者らがまとめた研究結果では、十分な糖質摂取がグリコーゲンの再補充を助け、筋肉が収縮するためのエネルギー源であるATPの産生を保ち、疲労を減らし、より多くのトレーニング量をこなせるようにする、という点で多くの研究が一致していました。論文によれば、鍛えた人の筋グリコーゲンは300〜700グラムほどあり、量の多い筋力トレーニングではこれが24〜40%減ることがあるため、補充が不十分だと運動能力が損なわれうるとされています。

一方で、たんぱく質とエネルギー(総カロリー)が十分にとれている場合には、糖質を上乗せしても、それだけで筋たんぱく質の合成や筋肉量の増加が高まるわけではない、という点でも多くの研究の結果がそろっていました。著者らはその理由として、mTORC1の活性化が主に必須アミノ酸、とくにロイシンの量に左右されることを挙げています。インスリンの役割は、筋肉の分解を抑え糖の取り込みを助けるという、いわば「お膳立て」にとどまると説明されています。

状況による違いも紹介されています。引用された系統的レビューでは、食事をとった状態で一つの筋肉群あたり10セット程度までのトレーニングでは、糖質を増やしても筋力面の成績が一貫して向上するとはいえない一方、それより量の多い練習や、空腹時の練習、繰り返し行う練習では役立つ可能性があるとされました。また、2026年のメタ分析では糖質を増やしても筋肥大が単独で高まる様子は見られませんでしたが、根拠の確かさは低いと評価されていたことにも著者らは触れています。

糖質を大きく制限する食事については、たんぱく質とエネルギーが十分であれば筋肉量を保てる場合があるものの、グリコーゲンが減ることで高強度の運動能力が下がる可能性があると整理されています。その結果、トレーニング量が落ち、筋肥大に必要な刺激が減るおそれがあると著者らは指摘しています。

研究チームは、筋肥大を主に支える要素を、十分な機械的刺激、必須アミノ酸の確保、そして不足のないエネルギー収支の三つとして整理し、糖質は主に三つ目の要素に関わると位置づけています。

このレビューが示すこと

著者らの結論は、糖質は筋肥大を直接引き起こす刺激ではないものの、エネルギーを確保し、グリコーゲンを回復させ、トレーニング中の力を保つうえで重要だというものです。糖質の筋肥大への貢献は、より多く、より強く練習できるようにすることを通じた間接的なものだと論文は述べています。

そのため著者らは、糖質のとり方は一律に決めるのではなく、トレーニングの量や強度、頻度、目的、栄養状態に合わせて個別に考えるべきだとしています。参考として、筋力系の競技者向けの推奨量は練習の量と強度に応じて体重1キログラムあたり1日3〜7グラムの範囲にあることも紹介されています。「糖質が筋肉をつくる」から「糖質が筋肉づくりのための練習を支える」へと、見方の重心が移ってきたことを整理した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Yared Hernández Herández(Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo)、José Alberto Ariza Ortega(Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo)、Nelly del Socorro Cruz Cansino(Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yared Hernández Herández, José Alberto Ariza Ortega, Nelly del Socorro Cruz Cansino. Evaluación de carbohidratos sobre la hipertrofia muscular inducida por el entrenamiento de fuerza: una revisión narrativa de la evidencia científica. Revista Científica de Salud y Desarrollo Humano 2026-08-14. DOI: 10.61368/r.s.d.h.v7i3.1111. 原著ライセンス:CC BY.