がん治療を受けている間、食欲不振や体重減少といった栄養面のトラブルに悩む患者は少なくありません。栄養状態の悪化は治療の続けやすさや体力、生活の質(QOL)、さらには家族など介護者の負担にも関わるとされています。近年はスマートフォンアプリやオンライン相談、遠隔モニタリングといった『デジタルツール』を使った栄養サポートが注目されていますが、実際にがん医療の現場でどこまで役立つのかは、これまで十分に整理されてきませんでした。今回紹介する論文は、こうしたデジタル栄養ケアに関するこれまでの研究を幅広く見渡した『ナラティブレビュー(総説)』です。

研究でわかったこと

この研究では、モバイルアプリ、ウェブ上のプラットフォーム、オンライン診療(テレコンサルテーション)、SMSやメールでのやり取り、遠隔モニタリングシステム、対面とデジタルを組み合わせたハイブリッド方式など、がん医療における様々なデジタル栄養・生活習慣介入に関する既存のエビデンスがレビューされました。対象となったのは、積極的な治療中の患者だけでなく、手術後の回復期や、治療を終えた後の生存期(サバイバーシップ)にある患者まで幅広い場面です。

その結果、こうしたデジタル介入はおおむね実施可能であり、栄養状態や食習慣、身体活動量の改善につながる可能性があると報告されています。一方で、QOLへの効果については研究ごとにばらつきが大きく、そもそもQOLを測定していない研究も多いなど、一貫した評価がなされていないことが指摘されました。ただし、デジタルツールに『個別化』『専門職からのフィードバック』『行動面のサポート』『臨床的に意味のあるモニタリング』などを組み合わせた介入では、患者にとって良好な結果が報告された例もあったとされています。もっとも、研究間のばらつきが大きいため、どのような要素が効果に結びつくのかを特定するのは難しいとも述べられています。さらに患者や介護者の声からは、使いやすさ、ツールへの信頼、信頼できる情報へのアクセス、医療者とのコミュニケーション、そして自宅での実際的なサポートといった点が重要視されていることが浮かび上がりました。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この論文は、これまでに行われた研究をまとめて概観したナラティブレビューであり、新たに患者を対象とした実験や調査を行ったものではありません。そのため、『デジタル栄養ケアがQOLを改善する』と断定するものではなく、あくまで既存研究の傾向として『改善の可能性が示唆されている』という位置づけです。また、研究間で対象や介入内容、評価方法にばらつきがあるため、どの要素が効果的かを一概に結論づけることは難しいとされています。著者らは、デジタルツールは従来の対面での栄養ケアを置き換えるものではなく、専門職の関与を伴い、公平なアクセスが確保された、医療と一体化したハイブリッドな形で導入されるべきだとしています。今後の研究では、QOLをはじめとする患者報告アウトカムをより一貫して評価すること、そして介護者のニーズやデジタル機器を使うこと自体の負担、心理的な安心感、そしてアクセス格差にも目を向ける必要があると述べられています。

まとめ

がん治療における栄養サポートに、アプリや遠隔モニタリングなどのデジタルツールを取り入れる動きが広がりつつあります。今回のレビューでは、こうした取り組みが栄養状態や食習慣、身体活動の改善に役立つ可能性が示された一方で、生活の質への効果は研究によってばらつきがあり、まだ結論が定まっていないことが確認されました。今後、患者や介護者の視点を踏まえたより一貫した検証が進むことが期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:腫瘍学におけるデジタル栄養ケア:QOL向上と患者中心ケア支援の機会(キャンサーズ・2026年07月)