プラスチックごみが川や湖に流れ込み、細かく砕けて「マイクロプラスチック」になる問題は世界各地で報告されています。同時に、工業排水や生活排水に含まれる重金属も水環境を汚染することがあります。この二つの汚染物質が、実際に食用魚の体内でどのように分布しているのかを同時に調べた研究は、意外と多くありません。今回紹介するのは、ナイジェリアのエレイェレ貯水池に生息するアフリカナマズ(Clarias gariepinus)を対象に、マイクロプラスチックと重金属の両方を測定した研究です。ナイジェリア・イバダン大学の研究者らによって行われ、キュアラス・ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・アンド・フード・サイエンス誌に2026年7月に掲載予定です。
エレイェレ貯水池は、もともと生活用水の供給を目的に作られた人工の水がめですが、現在は漁業や灌漑、レクリエーションにも利用されている水域です。周辺の河川や生活排水、小規模な農産物加工の排水が流れ込む場所でもあります。研究チームは、雨が多く地表からの流出物が河川や貯水池に運ばれやすくなる6月から9月(ナイジェリア南西部の雨季のピーク)に、地元の漁業者から2週間おきにアフリカナマズを購入し、4か月間で計80匹を集めました。体長は25.00〜37.00センチ、体重は150.23〜380.74グラムの範囲で、月を追うごとに体重は有意に増加していたとされています。
魚のどこに、どんなマイクロプラスチックがあったのか
研究チームは魚のえら・肝臓・筋肉(可食部)の3つの組織を取り出し、過酸化水素を使って組織を分解したうえでマイクロプラスチックを取り出し、赤外分光法(ATR-FTIR)という手法で種類を特定しました。60匹分の組織から合計490個のマイクロプラスチック粒子が検出され、1匹あたりの平均個数は、えらで6.25個、肝臓で3.16個、筋肉で2.23個と、えらが最も多い結果でした。検出された粒子の形は繊維状・破片状・発泡体・フィルム状の4種類で、いずれもえらに最も多く見られました。大きさでは100〜500マイクロメートルの粒子が最も多く、色では透明な粒子が最も多く見つかっています。
成分の分析では、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)の5種類のプラスチックが確認され、どの組織でもポリアミドの割合が最も高く、ポリスチレンが最も低いという結果でした。論文では、ポリアミドが釣り糸や漁網、ロープなどに使われる素材であることから、貯水池での漁業活動がマイクロプラスチックの発生源の一つになっている可能性が指摘されています。また、体が大きく重い個体ほどマイクロプラスチックの検出数が多いという正の関係も見られ、長く生きた個体ほど蓄積が進んでいる可能性が示唆されています。なお、可食部である筋肉に含まれる量は、えらや肝臓に比べると少なめでした。
重金属の濃度と、健康リスクの目安
重金属については、20匹の魚から採取した肝臓・えら・筋肉の組織を酸で分解し、原子吸光分光法で濃度を測定しました。カドミウムはすべての組織で検出限界以下でした。鉛の濃度は肝臓で0.02mg/kg、筋肉で0.60mg/kgと、筋肉での値が許容基準を上回っていたと報告されています。クロムはえらで0.39mg/kg、肝臓で1.17mg/kg、筋肉で2.64mg/kgと、組織によって差が見られました。ニッケルはすべての組織で6.83〜10.34mg/kgと高めの値でした。一方、亜鉛は最も多く検出された金属でしたが、基準値の範囲内にとどまっていました。
研究チームはさらに、魚を日常的に食べた場合の健康リスクの目安として「ハザード指数(HQ)」と「発がんリスク」を計算しています。その結果、筋肉(可食部)を食べることによるリスクはHQの基準では問題ないとされた一方、えらに含まれるニッケル、肝臓に含まれるクロムとニッケルについては、安全とされる基準を超えていました。また、鉛とクロムについて計算した発がんリスクの値は、許容範囲とされる基準を上回っており、長期間にわたって魚を継続的に食べ続けた場合の公衆衛生上の懸念として言及されています。
この研究をどう受け止めるか
この研究は、雨季という特定の期間に、ナイジェリアの一つの貯水池で採取された魚を対象にしたものです。マイクロプラスチックの評価は光学顕微鏡による目視観察と赤外分光法を組み合わせた方法によっており、研究チームは実験の各段階で空試験(何も入れずに同じ処理をする対照実験)や認証標準物質を用いた精度管理を行ったとしています。ただし、これは特定の場所・季節・魚種における結果であり、他の水域や乾季の状況、あるいは他の魚種に同じ傾向が当てはまるとは限りません。マイクロプラスチックと重金属が魚の体内でどのように相互作用するかについても、まだ研究が進んでいる段階とされています。
今回の結果は、可食部である筋肉のマイクロプラスチック量やハザード指数は比較的低めだった一方で、鉛やクロムなど一部の重金属については基準を超える値が見られたことを示すものです。これは特定の食品を避けるべきという結論を出すものではなく、水環境における汚染物質の由来や魚を通じた曝露経路を理解するための基礎的なデータを提供する研究だと位置づけられます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Oluwafemi Olowojuni, Deborah B Ajayi, Grace B Ogundeyi, et al. Microplastics and Heavy Metals Contamination in Clarias gariepinus from Eleyele Reservoir, Nigeria, During Rainy Season: A Public Health Concern. キュアラス・ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・アンド・フード・サイエンス (2026). DOI: 10.7759/s44497-026-00189-3.