著者の所属・活動拠点の国は、バングラデシュです。

掲載誌:American Journal of Entomology

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

貯蔵中の穀物や豆類を食べる害虫は、主に化学薬剤で防除されています。しかし、主要な貯穀害虫では燻蒸剤ホスフィンへの抵抗性が各地で報告されており、代わりの手段として、虫を寄せつけない植物抽出物(忌避剤)が研究されてきました。研究チームによると、これまでの研究の多くは1種類の害虫だけを対象とし、虫が逃げるかどうかしか見ていませんでした。また、虫が逆に処理側へ集まる結果は「効果なし」として扱われがちでした。

そこで研究チームは、同じ植物抽出物が、ある害虫を遠ざける一方で別の害虫を引き寄せることがあるのかを調べました。題材には、観葉植物として広く栽培されるサトイモ科のシンゴニウム(Syngonium podophyllum)を用いました。主な問いは三つです。この植物の抽出物が害虫を遠ざけるかどうかと、その効き方が量によってどう変わるか。反応が害虫の種類や抽出物の種類で異なるか。そして、虫の行動への作用が殺虫作用と結びついているかどうかです。

どのように調べたか

研究チームは植物全体を乾燥させて粉末にし、石油エーテル、クロロホルム、メタノールという性質の異なる3種類の溶媒で順番に成分を取り出しました。溶媒を変えると溶け出す成分のグループが変わるため、どの抽出物が行動に作用するのかを区別できます。

対象にした害虫は、小麦粉などにつくコクヌストモドキ、豆類の中で育つアズキゾウムシの仲間(Callosobruchus chinensis)、米などの穀粒に穴をあけて入り込むココクゾウムシの3種です。実験では、皿の片側に抽出物で処理したろ紙や餌を置き、反対側には未処理のものを置きました。成虫10匹を中央に放し、5時間にわたって1時間ごとに、それぞれの側にいる虫の数を数えました。抽出物の量は5段階とし、各段階で3皿ずつ試しました。

結果は「忌避率」という指標で示されています。忌避率は、処理していない側に虫がどれだけ偏ったかを表す数値です。プラスなら処理側を避けたこと(忌避)、マイナスなら処理側に集まったこと(誘引)、ゼロなら両側に均等に分かれたことを意味します。

主な結果

コクヌストモドキとアズキゾウムシの仲間は、3種類の抽出物をすべて避けました。この2種を試した計90皿の全てで、忌避率はプラスでした。平均の忌避率は、石油エーテル抽出物で約55%、クロロホルム抽出物で44〜51%、メタノール抽出物で22〜25%と報告されています。この2種では、試した中で最も少ない量でもすでにはっきり避けていました。そのため、効果が現れる最小量は今回の試験範囲より下にあると著者らは述べています。反応は観察した5時間を通じて安定していました。

ココクゾウムシの反応は異なりました。クロロホルム抽出物では平均の忌避率が約マイナス16%となり、15皿すべてで、処理した側により多くの虫が集まりました。石油エーテル抽出物ではわずかに避ける傾向が見られましたが、より厳しい統計的な確認には耐えなかったため、著者らはこれを示唆にとどまる結果としています。メタノール抽出物では、はっきりした効果は検出されませんでした。

研究チームは、同じ抽出物を使った別の殺虫性試験の結果とも比べています。その試験でクロロホルム抽出物は3種とも死なせませんでした。それにもかかわらず、今回の実験では2種を強く遠ざけ、残る1種を引き寄せました。反対に、メタノール抽出物は3種すべてに殺虫作用を示しましたが、遠ざける力は最も弱いものでした。著者らは、虫を殺す成分と虫を動かす成分は同じではないと結論づけています。

この研究が示すこと

この研究は、一つの植物抽出物が、同じ貯蔵庫にいる害虫に対して正反対の作用を持ちうることを示しました。著者らは、豆類や小麦粉を守るための処理が、近くに保管された穀物へココクゾウムシを集めてしまうおそれがあると指摘しています。一方で、ココクゾウムシを引き寄せる抽出物は、わなに使う誘引餌の候補になりうるとも述べています。ただし、そのためには製剤化やわなでの検証が必要で、今回の研究はそこまでは行っていません。

限界も報告されています。溶媒だけを塗った対照の皿を記録していないこと、観察が5時間に限られること、抽出物の成分を分析していないこと、虫が遠くから引き寄せられたのか、処理側に着いてから動かなくなったのかを区別できないことです。こうした限界を踏まえたうえで、著者らは、植物由来の忌避剤を調べる際には複数の害虫で試し、虫が集まる結果も一つの成果として報告すべきだと提言しています。

原著論文の著者・所属:Nazmul Hoque(Department of Zoology, University of Rajshahi, Rajshahi, Bangladesh;Institute of Environmental Science, University of Rajshahi, Rajshahi, Bangladesh)、Tandid Kamal(Institute of Environmental Science, University of Rajshahi, Rajshahi, Bangladesh)、M. Rahman(Department of Zoology, University of Rajshahi, Rajshahi, Bangladesh)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nazmul Hoque, Tandid Kamal, M. Rahman. Repellent and Attractant Activity of Syngonium Podophyllum Schott (Araceae) Plant Extracts Against Three Stored-product Pests: Species-specific Responses of Tribolium Castaneum , Callosobruchus Chinensis , and Sitophilus Oryzae. American Journal of Entomology 2026-10-28. DOI: 10.11648/j.aje.20261004.11. 原著ライセンス:CC BY.