この研究は、ポーランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

アスパラガスは栄養に富む野菜ですが、どのような細菌が一緒に存在しているかによって日持ち(棚持ち)や食品としての安全性が左右されます。それにもかかわらず、病気の症状が出ていない健全なアスパラガスにどんな細菌がすみついているのかについては、これまで情報が限られていました。

そこで研究チームは、ポーランドの商業栽培地で収穫された緑アスパラガスの若い茎(スピア)から細菌を分離し、その種類を明らかにすることを目的としました。とくに、植物の成長を助ける可能性のある細菌、条件によってヒトに感染しうる細菌(日和見病原菌)、そして腐敗に関わる細菌が含まれているかどうかに注目しています。

何をどう調べたか

調べたのは、2024年4月にポーランド・下シレジア地方で収穫され、見た目に病気の症状がないアスパラガスです。収穫直後のもの(新鮮)と、2℃で3週間保存したもの(低温保存)を用意し、さらに表面処理の違いで3つのグループに分けました。すなわち、新鮮なスピアを次亜塩素酸ナトリウム(0.5%、15分)で表面消毒したもの、低温保存後に同じ消毒をしたもの、低温保存後に滅菌水ですすいだだけのものです。表面を消毒すると、表面にいる細菌は減るため、そこから出てくる細菌は組織の内部にすんでいた(内生細菌)か、消毒に耐える性質をもつと考えられる、という仕組みです。

茎の先端部と基部の断片を培地にのせて培養し、生えたコロニーを純粋培養にしてから、細菌の分類に広く使われる16S rRNA遺伝子の塩基配列を読み、データベースの基準株と比較して属を特定しました。配列がよく似た種が複数あって種まで絞り込めない場合は、属のレベルで示しています。特定の分離株については、より識別力の高い rpoB 遺伝子の配列も解析しました。群集の多様さは、属の数(richness)やシャノン指数、シンプソン指数といった指標で記述的に比較しています。

主な報告結果

研究チームは合計60株の細菌を分離し、18の属に分類したと報告しています。全体としてはガンマプロテオバクテリア綱とバシラス綱が多数を占め、属のレベルでは Bacillus(バチルス)、Pseudomonas(シュードモナス)、Acinetobacter(アシネトバクター)が最も多く見られました。消毒した試料では Pseudomonas と Bacillus が多く、水ですすいだだけの低温保存スピアでは低温でも増えやすい性質をもつ Acinetobacter が優勢でした。

見つかった細菌群には性質の異なるものが混在していました。論文は、植物の成長を促す働きが知られる属(Rahnella、Flavobacterium、Curtobacterium)、植物の病原菌とされる属(Pantoea、Erwinia)、腐敗に関わる低温性の属(Lelliottia、Paenarthrobacter)、そして条件によってヒトに感染しうる日和見的な属(Kluyvera、Serratia、Ewingella、Massilia)が含まれていたとしています。多様性の指標は、新鮮・消毒で属数9・シャノン指数1.863、低温保存・消毒で属数7・同1.772、低温保存・水すすぎで属数9・同2.046でした。ただし著者らは、試料数が限られているため、これらの数値の違いは統計的に検証された処理の効果ではなく記述的な傾向として慎重に解釈すべきだと述べています。

とくに注目される結果として、消毒した新鮮なスピアから得られた5株の Pseudomonas のうち3株(AFO 242、AFO 244、AFO 245)が Pseudomonas gorinensis と同定されました。この種は2025年に、アルゼンチンのトマトの葉から得られた内生細菌として正式に記載されたものです。3株は基準株 NT2 に対して16S rRNA遺伝子で99.60〜99.86%、rpoB 遺伝子で99.30〜99.38%の配列一致を示し、rpoB にもとづく系統樹では高い支持値(99〜100%)で基準株と同じまとまりに位置づけられました。これが、ヨーロッパの新鮮なアスパラガスからこの種が報告された最初の例だと著者らは述べています。

研究が示す意味

この研究は、健全に見える緑アスパラガスにも、植物の成長を助けうる細菌から腐敗や食品衛生に関わる細菌まで、分類学的に幅の広い細菌が共存していることを具体的な属の一覧として示しました。また、低温保存では低温に適応した細菌が相対的に目立つようになり、表面消毒をしても組織の内部にいる細菌や芽胞をつくる細菌は残ることが示されました。著者らは、こうした結果が収穫後の衛生管理が食品安全と日持ちの両面で重要であることを裏づけるとしています。

また、これまでアルゼンチン、日本、ニュージーランドから知られていた P. gorinensis がヨーロッパのアスパラガスでも見つかったことは、この種が地理的に広く分布している可能性を示す所見です。あわせて著者らは、本研究が培養できる細菌だけを対象としている点を限界として明記しており、アスパラガスの細菌群集の全体像を描くには培養に依存しない手法も必要だとしています。

著者:Małgorzata P. Oksińska(Department of Plant Protection, Laboratory of Biogeochemistry and Environmental Microbiology, Wrocław University of Environmental and Life Sciences, Grunwaldzka 53, 50-357, Wrocław, Poland)、Elżbieta Gębarowska(Department of Plant Protection, Laboratory of Biogeochemistry and Environmental Microbiology, Wrocław University of Environmental and Life Sciences, Grunwaldzka 53, 50-357, Wrocław, Poland)、Anna Kmieć(Department of Plant Protection, Laboratory of Biogeochemistry and Environmental Microbiology, Wrocław University of Environmental and Life Sciences, Grunwaldzka 53, 50-357, Wrocław, Poland)、Karolina Budek(Department of Plant Protection, Laboratory of Biogeochemistry and Environmental Microbiology, Wrocław University of Environmental and Life Sciences, Grunwaldzka 53, 50-357, Wrocław, Poland)、Elżbieta G. Magnucka(Department of Plant Protection, Laboratory of Biogeochemistry and Environmental Microbiology, Wrocław University of Environmental and Life Sciences, Grunwaldzka 53, 50-357, Wrocław, Poland)、Elżbieta Pląskowska(Department of Plant Protection, Division of Phytopathology and Mycology, Wrocław University of Environmental and Life Sciences, Plac Grunwaldzki 24a, 50-363, Wrocław, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Małgorzata P. Oksińska, Elżbieta Gębarowska, Anna Kmieć, et al. Identification of bacteria associated with green asparagus (Asparagus officinalis L.) and the first report of Pseudomonas gorinensis in Europe. Scientific Reports 2026-09-29. DOI: 10.1038/s41598-026-73899-5. 原著ライセンス:CC BY.