著者の所属・活動拠点の国は、アメリカ、バングラデシュです。
掲載誌:Health Science Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
新型コロナウイルスの世界的流行は、バングラデシュのような低・中所得国の経済に大きな打撃を与えました。続いて起きたロシアとウクライナの戦争は、物流の混乱や食料価格の上昇を通じて、食料事情をさらに不安定にしたとされています。バングラデシュでは食品の物価上昇が続き、都市の低所得世帯に重い負担がかかっていると指摘されてきました。
研究チームによると、こうした二つの危機を経た時期に、首都ダッカのスラム(低所得者が密集して暮らす居住地区)に住む女性について、食料不安、食事の質、栄養状態の三つを総合的に調べた研究はこれまでありませんでした。そこでチームは、低所得の女性たちが現在どのような状況に置かれているのかを明らかにすることを目的に、この調査を行いました。ここでいう食料不安とは、健康で活動的な生活に必要な、十分で安全かつ栄養のある食べ物を安定して手に入れられない状態を指します。
どのように調べたか
調査は2023年9月1日から10月10日にかけて実施されました。ダッカ北市と南市にある10か所のスラムで、生後6〜59か月の子どもを持つ女性400人が参加しました。調査地は行きやすさや安全性、信頼できる人口データの有無を考慮して選ばれ、参加者も無作為ではなく、集めやすい方法で選ばれています。訓練を受けた調査員が家庭を訪問してベンガル語で対面の聞き取りを行い、身長と体重も測定しました。
食料不安は、国際的に使われている8つの質問からなる尺度で測りました。質問は、最初のものが軽い食料不安を、最後のものが重い食料不安を表すように並んでいます。参加者は各質問に「はい・いいえ」で答え、その合計点に基づいて、食料が確保できている状態、中程度の食料不安、重度の食料不安に分類されました。あわせて、食べ物が足りないときにどのような対処をしたかも尋ねています。
食事の質は、前日24時間にどの食品群を食べたかを尋ねる質問票で評価しました。10の食品群のうち5つ以上を食べていれば、女性として最低限の食事の多様性を満たしていると判断します。栄養状態は、体重と身長から計算する体格指数(BMI)を用い、アジア人向けの基準で低体重、標準、過体重、肥満に分けました。さらに、居住地、年齢、学歴、世帯の稼ぎ手の数、収入などと、食料不安や食事の多様性との関連を統計的に分析しています。
主な結果
論文によると、参加した女性の90%が中程度または重度の食料不安を経験しており、34.6%は重度の食料不安に分類されました。中程度以上の食料不安の割合は、ダッカ北市で79.2%、ダッカ南市で95.2%と、南市の方が高い結果でした。分析では、南市に住む人は北市に住む人よりも食料不安を抱える見込みが大きく、世帯に稼ぎ手が複数いる場合は、一人だけの場合より食料不安を抱える見込みが小さいことが示されました。
食料不足への対処としては、質の低い食べ物で済ませる(92.8%)、食事の量を減らす(90.3%)が特に多く、食べ物を借りる(60.3%)、お金を借りる(58%)が続きました。子どもを学校に通わせるのをやめた人も32.3%いました。
食事の質については、58.3%の女性が5つ未満の食品群しか食べておらず、食事の多様性が不十分でした。生活習慣病の予防に役立つとされる食品のうち、野菜(87.8%)や豆類(72.8%)は多くの人が食べていた一方で、果物は30.5%、全粒穀物は26.8%、ナッツ・種実類はわずか1.5%でした。反対に、生活習慣病のリスクと関連するとされる食品では、甘いもの(35.5%)と揚げ物(33.5%)がよく食べられていました。食事の多様性を満たしやすかったのは、25〜34歳の女性、学校教育を受けた女性、稼ぎ手が複数いる世帯、月収が比較的高い世帯、食費にある程度の額を充てている世帯でした。
栄養状態では、8.8%が低体重だった一方、42.3%が過体重または肥満に分類されました。研究チームは、やせと太りすぎが同じ集団の中に同時に存在する「栄養不良の二重負荷」が見られたと報告しています。
この研究が示すこと
この研究は、ダッカのスラムに暮らす女性の大多数が食料不安を抱え、食事の多様性も不足し、やせと太りすぎの両方の問題が併存している実態を描き出しました。食料が足りないときに量や質を落として乗り切る家庭が多いことも、その状況の厳しさを物語っています。
ただし、この調査はある時点の状況を調べた横断研究であり、見つかった関連が原因と結果の関係であるとは言えません。また、参加者は無作為に選ばれたわけではなく、食事内容は本人の申告に基づくため、結果をそのまま一般化するには注意が必要だと著者らは述べています。
著者らは、都市部のスラムを対象とした社会的な支援の拡充や、女性の収入機会の確保、食事の多様性を高めるための栄養教育などが必要だと提言しています。都市の低所得層の女性が、量だけでなく栄養の質の面でも厳しい状況に置かれていることを、具体的な数字で示した報告といえます。
原著論文の著者・所属:Afsana Rahaman Munmun(Department of Food, Bioprocessing and Nutrition Sciences North Carolina State University Raleigh NC USA)、Md. Shahadoth Hossain(Department of Nutrition and Food Engineering Daffodil International University Dhaka Bangladesh)、Sneha Sarwar(Institute of Nutrition and Food Science University of Dhaka Dhaka Bangladesh)、Md. Mahbub Alam(Institute of Nutrition and Food Science University of Dhaka Dhaka Bangladesh)、Md. Jarif Mahbub(Institute of Nutrition and Food Science University of Dhaka Dhaka Bangladesh)、Most Nishat Anam(Government College of Applied Human Science Dhaka Bangladesh)、Zinnia Tasnim(Government College of Applied Human Science Dhaka Bangladesh)、Farah Ahmed(Government College of Applied Human Science Dhaka Bangladesh)、Md. Ruhul Amin(Institute of Nutrition and Food Science University of Dhaka Dhaka Bangladesh)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Afsana Rahaman Munmun, Md. Shahadoth Hossain, Sneha Sarwar, et al. Food Insecurity and Diet Quality Among Low‐Income Women in Dhaka City Amidst COVID‐19 and the Ukraine Crisis: A Cross‐Sectional Study. Health Science Reports 2026-08-01. DOI: 10.1002/hsr2.72980. 原著ライセンス:CC BY.