著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:農場の「ちょうどよい規模」をどう捉えるか
持続可能な食料システムへの転換では、生産の効率や供給の安定と、小規模農家の暮らしを守ることを両立させる必要があります。研究チームは、人口が多く耕地が限られる経済では、この両立が家族農場の経営規模をどう理解し、どう組み立てるかに大きく左右されると指摘しています。
この論文は、データを集めて統計的に検証する実証研究ではなく、理論を組み立てる概念的な研究です。著者らによると、既存研究では、適度な規模とは何か、それをどう実現するか、時間とともにどう調整されるかという三つの論点で見解が分かれていました。また、中国国内の関連研究は経営者が現在直面している生産要素の制約に主に注目しており、世代交代や家族の生活段階(ライフサイクル)を、規模の判断を内側から左右する要因として分析の枠組みに組み込むことはまれだったといいます。そこで研究チームは、中国の農業転換の制度的背景を踏まえ、家族農場の適度な規模を説明する新しい分析枠組みの構築を目指しました。
三つの制約が形づくる「動く範囲」
研究チームは、取引にかかる費用や制度の働きに注目する新制度派経済学と、経済活動が人間関係や地域社会に組み込まれている点に注目する経済社会学の視点を統合しました。そのうえで、世代を超えた持続性という時間の視点を加え、「三重制約の動的均衡」と呼ぶ枠組みを提案しています。
この枠組みでは、適度な規模を、政策が外から決める固定的な面積の基準ではなく、条件に応じて動く「実現可能な範囲」として捉えます。範囲の下限は経済効率の制約で決まり、土地の貸し借りや融資を利用できるかといった生産要素の市場の状況に左右されます。上限は社会への埋め込みの制約で決まり、農村の社会組織や農業サービスの提供体制に関係します。さらに、範囲がどこに位置するかは、家族の構成や後継ぎの取り決めといった世代継承の制約によって変わるとされます。
著者らは、効率を重視する従来の研究が示してきた「経済的に成り立つ規模」の存在は否定していません。ただし、それは範囲の下限にすぎず、それだけで適度な規模を定めることはできないと位置づけています。また、すべての地域に当てはまる共通の規模基準は存在しないという先行研究の指摘を受け入れたうえで、そうした違いがどこから生じるのかを具体的に示そうとしています。
論文が示す課題と道筋
論文は、家族農場が適度な規模の経営を実現しにくい理由を、土地や資金など単一の要素の不足には求めていません。生産要素の市場がうまく機能しないこと、組織間の調整がうまくいかないこと、時間軸の上で経営の継続がうまくいかないことという三つの構造的な問題が重なった結果だと論じています。具体的には、細分化された農地という制度的な遺産、農村金融での情報の偏りや融資の制限、農業の公共財の供給の偏り、農業サービス体制の組織化の遅れが絡み合っていると指摘しています。
このため著者らは、土地を集めることだけに頼るのではなく、三つの方向から制度を整える必要があると論じています。土地の権利制度を明確にして土地の貸し借りにかかる費用を下げること、協同組合などの中間的な組織や農業サービスを通じて規模拡大の調整費用を下げること、人材育成や農場運営の仕組みを整えて世代交代を円滑にすることです。
とりわけ人口が多く土地が限られる経済では、農作業の支援や加工・流通などを外部の組織が担う「農業社会化サービス」の規模によって、土地規模の拡大を補う道が、生産効率、農家の暮らし、農村社会の安定のバランスを取るうえでより現実的だと論文は述べています。
この研究が伝えること
著者らは、この枠組みが農場単位の調査データに基づいて統計的に検証された測定手段ではなく、理論に基づく説明モデルであると明記しています。三つの問題の大きさや地域ごとの分布も、現時点では正確に数値化できていないとしています。そのうえで、今後の検証に向けて四つの命題を示しています。
この研究は、家族農場の適度な規模を「一律の最適な面積」として探すのではなく、制度や市場、家族の事情に応じて動く範囲として捉え直すことを提案するものです。農場の規模を考える際には、効率だけでなく、地域社会とのつながりや世代の継承まで含めて見る必要があるという視点を示しています。
原著論文の著者・所属:Ning Ding(College of Economics and Management, Xinjiang Agricultural University)、Jingjing Wang(College of Economics and Management, Xinjiang Agricultural University)、Yong Xia(College of Economics and Management, Xinjiang Agricultural University)、Fuhong Wang(College of Agricultural and Forestry Economics and Management, Lanzhou University of Finance and Economics)、Guirong Wang(College of Economics and Management, Xinjiang Agricultural University; Tianjin Survey Office of the National Bureau of Statistics)、Yi Lyu(College of Economics and Management, Xinjiang Agricultural University)、Ziyang Wang(College of Economics and Management, Xinjiang Agricultural University)、Yijuan Yang(Agriculture and Rural Affairs Bureau of Zhang County, Dingxi, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ning Ding, Jingjing Wang, Yong Xia, et al. Moderate-scale operation of family farms in China: underlying logic, practical constraints, and optimization pathways for sustainable food systems. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-05. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1937247. 原著ライセンス:CC BY.