チョコレートは甘いお菓子というだけでなく、実は発酵食品でもあります。原料のカカオ豆は収穫後に酵母や乳酸菌、酢酸菌によって発酵させられ、その後焙煎・摩砕を経てチョコレートになります。カカオには血圧に関わる働きが報告されているカカオポリフェノールや、テオブロミンという成分が豊富に含まれており、こうした機能性の高さが近年注目されています。今回紹介する研究は、この発酵工程に着目し、通常の酵母や乳酸菌ではなく「担子菌」と呼ばれるきのこの仲間を使ってカカオ豆を発酵させたらどうなるかを調べたものです。

担子菌はきのこを含むグループで、さまざまな酵素を持つことが知られており、その酵素の働きを利用したワインなどの発酵食品もすでに開発されています。担子菌で発酵させることで抗酸化作用などの機能性が新たに加わり、より優れた食品になる可能性があると考えられていますが、カカオ豆を担子菌で発酵させた食品はこれまで存在しなかったといいます。そこでこの研究では、カカオ豆を担子菌で発酵させることで、機能性に優れた発酵チョコレートを作れるかどうかを検証しています。

どのように調べたのか

研究ではまずカカオ豆を滅菌したうえで、1%グルコースと0.5%ペプトンを含む滅菌済みの溶液に浸しました。発酵には48種類の担子菌が用いられ、それぞれを平板培地の上で生育させ、その上に浸漬後のカカオ豆を置いて25℃で培養するという方法がとられています。培養を終えたカカオ豆は110℃で40分間焙煎したのち摩砕してチョコレートに加工され、できあがったチョコレートについてテオブロミン量、総ポリフェノール量、そして抗酸化活性が測定されました。

担子菌の種類によって効果に差があった

48種類の担子菌のうち、カカオ豆の表面に8割以上菌糸を生育させることができたのは35種で、菌糸が育つまでにかかる時間は担子菌の種類によって異なっていたということです。テオブロミン量については、担子菌を生育させていないチョコレート(Blank)と比べて、23種類の担子菌で発酵させたチョコレートに増加する傾向が見られました。

さらに、このテオブロミン量の増加傾向が見られたチョコレートは、総ポリフェノール量もBlank(20.6 mg/g)と比べて増加しており、なかでもオオチャワンタケ(55.8 mg/g)、アミスギタケ(40.7 mg/g)、エツキクロコップタケ(28.1 mg/g)という3種の担子菌で発酵させたチョコレートは高い数値を示したと報告されています。そして総ポリフェノール量が増えるのに合わせて抗酸化活性も高まる傾向が確認されました。これらの結果から、担子菌でカカオ豆を発酵させることによってテオブロミン量や総ポリフェノール量を増やし、抗酸化活性に優れたチョコレートを作れる可能性が示唆されています。

この研究を読むうえで気をつけたいこと

この研究は、担子菌の種類によってカカオ豆の発酵のされ方や、できあがるチョコレートの成分量に違いが出ることを実験室レベルで確認したものです。研究にはShiori Fukuda氏、Momoka Nakata氏、Yuka Sameshima氏、Naomi Takemoto氏、Tokumitsu Matsui氏が携わっており、著者には日本の研究機関に所属する方が含まれています。ただし、要旨で示されているのはあくまでチョコレート中の成分量や抗酸化活性の測定結果であり、これを食べた人の体にどのような影響があるかを調べたものではありません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点には留意が必要です。

まとめ

今回の研究は、カカオ豆をきのこの仲間である担子菌で発酵させることで、テオブロミンやポリフェノールが増え、抗酸化活性に優れたチョコレートを作れる可能性を示したものです。使用する担子菌の種類によって効果に違いがあることも分かっており、今後どのような形で応用されていくのか、発酵食品としてのチョコレートの新しい可能性に注目が集まる研究といえそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Shiori Fukuda, Momoka Nakata, Yuka Sameshima, et al. 担子菌の発酵能を利用した機能性チョコレートの開発. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_293.