この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

野菜はビタミンやミネラル、食物繊維などを多く含み、各国の食事指針で摂取が広くすすめられてきました。研究チームは、野菜の摂取が少ない食事に関連する健康上の負担が、世界全体でどれくらいの大きさなのか、そして1990年から2021年にかけてどのように変化したのかを、体系的に整理することを目的としました。

著者らによれば、これまでの研究は果物と野菜をまとめて扱ったものや、心血管疾患など特定の病気だけに絞ったものが中心で、野菜の摂取不足そのものに焦点を当てた包括的な評価は不足していました。そこで本研究では、曝露の長期的な傾向、疾患別の内訳、社会経済的な格差、地域ごとのばらつきを合わせて記述することを目指しています。

何を、どのように調べたか

研究チームは、世界の病気や危険因子を推計する国際的な研究プロジェクト「世界疾病負担研究(GBD)2021」の推計値を用いました。GBD 2021は204の国と地域を対象に、369の疾病・傷害と88の危険因子を評価しています。本研究はその公開された推計値を二次的に分析したものです。

本研究で「野菜の摂取が少ない食事」とは、1日あたりの平均摂取量が306〜372グラム未満の状態を指します。ここでいう野菜には生・冷凍・調理済み・缶詰・乾燥した野菜が含まれ、豆類、塩蔵や漬物にした野菜、ジュース、ナッツや種子、じゃがいもやとうもろこしのようなでんぷん質の野菜は除かれます。この範囲は、GBDの枠組みで病気のリスクが最も低いとされる摂取水準にあたります。

評価には主に三つの指標が使われました。一つは「要約曝露値(SEV)」で、集団全体がどの程度この危険因子にさらされているかを0から100の尺度で表します。二つ目は死亡数、三つ目は「障害調整生存年(DALY)」で、早すぎる死によって失われた年数と、障害を抱えて生きた年数を合わせた健康損失の指標です。年齢構成の違いによる影響を取り除くため年齢標準化した比率も算出し、さらに社会人口統計指数(SDI、各国の社会経済的な発展度合いを示す指標)に基づく5区分や21の地域区分ごとに比較しました。加えて、時系列の変化の転換点を探すジョインポイント回帰と、同程度の発展水準で実際に達成されている最も低い負担を基準線とするフロンティア分析が行われました。

報告された主な結果

著者らの報告によると、2021年の時点で、野菜の摂取が少ない食事に起因するとされた死亡は世界全体で861,480件(95%不確実性区間 541,278〜1,189,503)、DALYは20,655,691年(同 12,448,914〜28,673,802)と推計されました。1990年と比べると死亡数は25.57%、DALYは16.33%増加しています。

一方で、年齢構成の影響を除いた年齢標準化死亡率は、1990年の10万人あたり18.96から2021年には10.35へ低下し、年齢標準化DALY率も442.84から241.70へ低下していました。曝露の指標であるSEVも世界全体では30年間で低下傾向を示しています。研究チームは、絶対数が増える一方で標準化した比率が下がるという一見矛盾する動きについて、人口の増加と高齢化によってリスクにさらされる人の総数が増えたためだと説明しています。

地域差は大きく、SEVが最も高かったのは中部サハラ以南アフリカ、最も低かったのは東アジアでした。低下幅が最も大きかったのも東アジアです。ただしオセアニア、東ヨーロッパ、オーストラレーシア、西ヨーロッパ、高所得北米では、この期間にSEVがむしろ上昇する傾向がみられたと報告されています。社会人口統計指数と健康負担の関係を調べたところ、地域レベルで強い逆の相関がみられ(順位相関係数はいずれも−0.86)、発展水準が低い地域ほど負担が重いという分布でした。フロンティア分析では、低SDIおよび低中SDI地域で、同程度の発展水準で達成されうる水準との差が最も大きいという結果が示されています。

疾患別にみると、死亡でもDALYでも心血管疾患が最大の割合を占め、次いで糖尿病・腎疾患が続きました。2021年の心血管疾患について、著者らは死亡率が8.65、DALY率が202.77と報告しています。ただし悪性新生物(がん)については、高SDI地域で死亡率・DALY率がともに最も高いという対照的なパターンが報告されています。年齢別では、死亡率もDALY率も高齢になるほど上昇し、80歳を超えると急激に高くなり、いずれも95歳以上で最も高くなっていました。

この研究が示すもの

著者らは、この研究が生態学的な記述分析であり、因果関係を証明したり特定の対策の効果を判定したりできるものではないと明記しています。また、GBDの枠組みでは「野菜の摂取が少ない食事」を単一の曝露としてまとめて扱うため、野菜の種類や調理法、食事全体の組み合わせの違いは反映されないこと、国や地域によってもとになるデータの質や入手しやすさに差があることも限界として挙げられています。

そのうえで本研究が描き出したのは、年齢構成を揃えて比べた負担は30年間で着実に下がってきた一方、死亡やDALYの実数としてはなお大きく、その重さが地域や発展水準によって大きく偏っているという構図です。研究チームは、こうした地理的・人口統計学的な差が、負担の重い集団がどこにいるのかを浮かび上がらせ、今後の個人単位の疫学研究の設計や、公衆衛生上の議論の出発点になりうると述べています。

著者:Xindi Wei(College of Stomatology Shanghai Jiao Tong University Shanghai China)、Xiaomeng Zhang(College of Stomatology Shanghai Jiao Tong University Shanghai China)、Xiaolei Lv(College of Stomatology Shanghai Jiao Tong University Shanghai China)、Hongchang Lai(College of Stomatology Shanghai Jiao Tong University Shanghai China)、Zhuoli Huang(College of Stomatology Shanghai Jiao Tong University Shanghai China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xindi Wei, Xiaomeng Zhang, Xiaolei Lv, et al. The Burden of Disease Attributable to Diet Low in Vegetables From 1990 to 2021: A Global Analysis. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72298. 原著ライセンス:CC BY.