モリンガ(Moringa oleifera)は葉だけでなく種子も栄養価の高い食材として注目されていますが、種子粉末を食品原料として活用する際には大きな壁があります。種子に多く含まれるグルコシノレートという成分が、強い苦味の原因になっているのです。この苦味を抑えつつ栄養価の高い粉末として利用できないか、タイのキングモンクット工科大学ラカバン校の研究グループらが、発芽と固体発酵を組み合わせた加工方法の最適化に取り組みました。

研究チームは、モリンガ種子を発芽させた後、Aspergillus oryzae(ニホンコウジカビ)とAspergillus niger(クロコウジカビ)という2種類のカビを同時に使う共培養固体発酵を行うという方法を検討しました。発芽日数、発酵日数、そして2種のカビの配合比率という3つの条件を、実験計画法の一種であるBox-Behnken計画と応答曲面法を用いて系統的に組み合わせ、グルコシノレートの分解度合いと、グルコシノレートを分解する酵素であるミロシナーゼの活性を指標に、最適な条件を探索しています。なお、Aspergillus oryzaeは日本酒や味噌、醤油などの発酵食品づくりに古くから使われてきたコウジカビの一種であり、今回の研究でも発酵を担う主要な微生物として用いられています。

最適な条件と成分変化

構築されたモデルは高い予測性能(決定係数R2で98〜99%、自由度調整済みでも96〜97%)を示し、解析の結果、8日間の発芽の後に4日間発酵させ、Aspergillus oryzaeとAspergillus nigerの比率を2対1にする条件が最も望ましいと判定されました(総合的な望ましさの指標で最大値の1を記録)。この条件下では、グルコシノレート含有量が約62.9%減少し、同時にミロシナーゼの活性は5.53倍に上昇したと報告されています。

さらに研究チームは、質量分析を用いた非標的(未知の成分も含めて網羅的に調べる)代謝物解析(LC-MS分析)も実施し、データを絞り込んだ結果67種類の代謝物を同定しています。その結果、発芽の工程は主にアミノ酸の蓄積を促す一方、発酵の工程は脂質や二次代謝物(植物が作る、成長に直接関わらない多様な化合物群)に大きな変化をもたらし、発芽単独や発酵単独とは異なる独自の成分プロファイルが形成されたことが示されています。

この研究の位置づけ

この研究は、あくまで実験室レベルでの加工条件の最適化と成分解析を行ったものであり、加工後のモリンガ種子粉末を実際に食べた場合の風味や安全性、栄養面での効果を直接検証したものではありません。グルコシノレートの減少や酵素活性の上昇、代謝物組成の変化が確認されたことは、モリンガ種子粉末を機能性食品の原料として活用する可能性を示唆するものと位置づけられていますが、一つの研究であり、実用化に向けてはさらなる検証が必要と考えられます。

まとめ

この研究では、モリンガ種子粉末の苦味の原因となるグルコシノレートを、発芽と2種のコウジカビによる共培養発酵を組み合わせることで大幅に減らせる可能性が示されました。同時に、加工工程によってアミノ酸や脂質、二次代謝物の組成も変化することが明らかになり、今後モリンガ種子を食品原料として活用する上での基礎的な知見になると考えられます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Candytias Puspitasari, Praphan Pinsirodom, Analdi Farniga, et al. Optimization of combined germination and co-culture solid-state fermentation for glucosinolate reduction and metabolomic profiling of moringa seed flour. エルダブリューティー(LWT) (2026). DOI: 10.1016/j.lwt.2026.119846. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.