著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food science & nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
きのこの一種として知られる霊芝(れいし・ガノデルマ・ルキダム)。古くから東アジアで食用・薬用に用いられてきたこの菌類が、発酵技術と組み合わせることで新たな注目を集めています。2026年6月、学術誌「フード・サイエンス・アンド・ニュートリション」に掲載された研究が、そのしくみの一端を明らかにしつつあります。
発酵で引き出す、霊芝の成分
霊芝には「トリテルペノイド」と呼ばれる成分群が含まれており、なかでも「ガノデリック酸」類がその主要な活性成分とされています。今回の研究では、乳酸菌の一種(ラクトバチルス・ラムノサス)と酵素を組み合わせた「菌・酵素の協働発酵」という手法を採用し、霊芝から抽出した発酵液(FBG)を調製。この処理により、ガノデリック酸Fという成分の含有量が最も高くなる条件が最適化されました。
従来の水による抽出(WEG)と比較したとき、この発酵液はどのような違いをもたらすのでしょうか。研究チームは細胞レベルの実験を通じて、FBGを投与した系では脂質(中性脂肪・LDLコレステロールなど)の蓄積が顕著に減少し、一方で抗酸化に関わる酵素の活性や、HDLコレステロールの値が高まる傾向が見られたと報告しています。
カギを握るとみられる経路とは
研究ではさらに、ガノデリック酸Fが体内でどのターゲットに働きかけているかを「ネットワーク薬理学」と「分子ドッキング」という解析手法で調べています。ネットワーク薬理学とは、成分と体内の複数の分子との相互作用を網の目のように解析する手法のこと。その結果、ガノデリック酸Fは特定のタンパク質(EEF1A2)や細胞のエネルギーセンサーとして知られる分子(AMPK)、脂質代謝に関わる受容体(PPAR-α)といった一連の経路と関連している可能性が示唆されました。
この経路をひと言でたとえるなら、「細胞がエネルギー不足を感知すると、脂質の燃焼・処理モードに切り替わるスイッチ」のようなものです。研究では、ガノデリック酸Fがこのスイッチを通じて肝細胞への脂質蓄積を和らげる可能性があると結論づけています。
ただし、これはあくまで細胞を用いた実験での報告です。ヒトへの効果や安全性については、今後さらなる研究の積み重ねが必要な段階にあります。霊芝や発酵食品を摂ることで、同様の作用が人体で生じるとは現時点では言えません。
身近なきのこ類と食物繊維
今回の研究の主役は霊芝という特殊なきのこですが、きのこ類は日本の食卓にも身近な存在です。特定のきのこが肝臓の脂質に影響するものではありませんが、日々の食事としてきのこ類を取り入れることは、食物繊維の摂取という観点から食事全体のバランスを整えるうえで一助となります。
まいたけ(生)は1パック(石づきなし・約100g)で食物繊維3.5g、女性30〜49歳の1日の目標量(18g)の19%に相当します。ぶなしめじ(生)は1パック(約100g)で食物繊維3g(同17%)、えのきたけ(生)は1袋(約100g)で3.9g(同22%)です。
食物繊維のうち「不溶性食物繊維」は水分を吸収して便をやわらかく大きくし、腸を刺激して便通をスムーズにするとともに、有害物質の吸着・排出を助けると言われています。きのこ類はこの不溶性食物繊維を多く含む食品群に位置づけられています。
なお、乾しいたけ(乾)は食物繊維が100gあたり46.7gと非常に高い値ですが、これは乾燥品100gあたりの数値です。実際には1個(約4g)を使うことが多く、一度に100g摂ることはまずありません。使う量と数値の関係を混同しないようご注意ください。
日々の食事に取り入れるヒント
霊芝はサプリメントや特定の食品として流通していますが、今回の研究は細胞実験の段階であり、食品・サプリメントとしての摂取で同様の作用が得られることを示したものではありません。一方、まいたけ・しめじ・えのきたけといった身近なきのこ類は、炒め物・汁物・鍋料理など幅広い料理に使いやすく、食物繊維を日常的に補える食品として活用できます。加熱しても食物繊維はほぼ損なわれないため、調理方法を問わず気軽に取り入れられます。
食事の工夫は「特定の成分を狙う」よりも、さまざまな食品を組み合わせてバランスよく食べることが基本です。きのこ類も、野菜・豆類・魚介・乳製品などとともに、食事全体の一部として位置づけることが大切です。日本人の食事摂取基準も、特定の食品ではなく食事パターン全体で栄養バランスを整えることを推奨しています。
霊芝の発酵技術をめぐる研究は、まだ緒についたばかりです。「なぜ発酵でこの成分が増えるのか」「どの経路が実際に働くのか」——そうした問いに答えが積み重なるたびに、きのこ類が秘める可能性の輪郭が少しずつ鮮明になっていきます。研究の続報が楽しみな分野のひとつです。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。出典(原著論文):The Potential Alleviating Property Against NAFLD by Ganoderma lucidum With Bacteria-Enzyme Synergistic Fermentation(フード・サイエンス・アンド・ニュートリション(2026-06-02))
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準・文部科学省 食品成分データベース・消費者庁
原著論文の著者・所属:Manhui Sun(School of Biological and Chemical Engineering, Zhejiang University of Science and Technology Hangzhou China)、Kecheng Li(School of Biological and Chemical Engineering, Zhejiang University of Science and Technology Hangzhou China)、Zi Wang(School of Biological and Chemical Engineering, Zhejiang University of Science and Technology Hangzhou China)、Jing Dai(School of Biological and Chemical Engineering, Zhejiang University of Science and Technology Hangzhou China)、Jianwei Mao(School of Biological and Chemical Engineering, Zhejiang University of Science and Technology Hangzhou China)、Min Cai(School of Biological and Chemical Engineering, Zhejiang University of Science and Technology Hangzhou China)、Ruyi Sha(School of Biological and Chemical Engineering, Zhejiang University of Science and Technology Hangzhou China)