この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

年齢を重ねると、動脈の壁は弾力を失って硬くなっていきます。この「血管の硬さ(血管スティフネス)」は血管の老化を示す代表的な特徴で、高齢者の心血管病の大きな危険因子とされています。

近年、腸内細菌の構成の乱れが血管の働きに関わる可能性が指摘されてきました。しかし、血管の硬さとどのような腸内細菌の特徴が結びつくのかについて、これまでの研究結果は一致していません。研究チームは、血管が硬くなった高齢者とそうでない高齢者の腸内細菌を比較し、その特徴を明らかにすることと、血管の硬さに関連する目印となりうる細菌を探すことを目的としました。

どのように調べたか

対象は、高齢者施設で募集した60歳以上の110人です。血管の硬さは、腕と足首の間を脈の波が伝わる速さ(baPWV)で評価しました。血管が硬いほど脈の波は速く伝わります。著者らは、baPWVが毎秒1800センチメートル以上の91人を「血管が硬いグループ」、それ未満の19人を「対照グループ」に分けました。

参加者の便から細菌のDNAを取り出し、含まれる遺伝子をまとめて読み取る方法(ショットガン・メタゲノム解析)で、どの細菌がどれだけいるか、細菌全体がどのような働きを担う遺伝子を持っているかを調べました。あわせて血圧や血中脂質などを測定し、細菌との関連を分析しました。さらに、年齢や性別、血中脂質の影響を考慮した統計モデルでも、個々の細菌と血管の硬さの関係を検討しました。

主な結果

血管が硬いグループは、対照グループより年齢が高く、収縮期血圧や中性脂肪が高く、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)が低いという特徴がありました。また、血管が硬いグループの中では、女性の割合が男性より高かったと報告されています。

腸内細菌の種類の豊富さや偏りを表す「多様性」の指標には、両グループで差がみられませんでした。一方、細菌の構成には違いがあり、血管が硬いグループではデスルフォビブリオ目やリケネラ科、アリスティペス属などが多く、対照グループではホルデマネラ・ビフォルミスやベイヨネラ・トベツエンシスといった種が多いと報告されています。

細菌全体の働きについては、血管が硬いグループで脂質代謝などに関わる経路が多く、アミノ酸代謝に関わる経路が少ないという違いがみられました。また、アリスティペス・プトレディニスという種は収縮期血圧と、ベイヨネラ・トベツエンシスはbaPWVと、それぞれ弱めから中程度の関連(前者は多いほど血圧が高い、後者は多いほどbaPWVが低い)を示しました。

ただし、年齢や性別、血中脂質の影響を考慮して分析し直すと、個々の細菌と血管の硬さの関連は弱まりました。多数の比較を同時に行うことによる偶然の差を補正すると、統計的に意味があると言える細菌は残りませんでした。

研究が示すこと

著者らは、血管が硬くなった高齢者では腸内細菌の構成と働きに違いがみられる一方、その違いは特定の細菌単独によるものというより、加齢や代謝の状態と結びついた、腸内細菌の集団全体の変化を反映している可能性が高いとまとめています。

この研究は一時点の観察にもとづくもので、腸内細菌の違いが血管を硬くする原因なのかどうかは分かりません。グループの人数に差があり、食事の情報も得られていないことも、著者ら自身が限界として挙げています。それでも、血管の老化と腸内細菌の関係を考えるうえで、個々の細菌よりも細菌全体のバランスや働きに目を向ける必要があることを示した報告といえます。

著者:Pan-Yue Wang(Department of Sports and Military Teaching, Anhui University, No. 111 Jiulong Road, Hefei, 230601, Anhui, China)、Yifan Lu(Key Laboratory of Sports Stress and Adaptation of General Administration of Sport, Beijing Sport University, Xinxi Road, No. 48, Haidian District, Beijing, 100084, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Pan-Yue Wang, Yifan Lu. Characterization of the gut microbiota in older adults with vascular stiffness. Scientific Reports 2026-10-01. DOI: 10.1038/s41598-026-72851-x. 原著ライセンス:CC BY.