パンは私たちの食生活に欠かせない、炭水化物を多く含むエネルギー源です。炭水化物が豊富な食品は血糖値に影響を与えやすいと考えられていますが、実は「どんなパンか」によってその影響は異なるかもしれない、という指摘があります。中でも注目されてきたのが、パン酵母(イースト)ではなく乳酸菌などを使って長時間発酵させる「サワードウ(発酵種)パン」です。発酵の過程で食品中の成分が変化することから、血糖値への影響がイースト発酵パンとは違うのではないか、という仮説が以前から議論されてきました。今回紹介する論文は、この「サワードウパンは血糖に有利なのか」という問いについて、これまでに行われた人を対象にした研究を集めて整理した、システマティックレビューと呼ばれるタイプの研究です。
研究でわかったこと
研究チームは、健康な成人を対象に、サワードウ発酵パンやイースト発酵パンの摂取が血糖値やインスリン値にどのような影響を与えるかを調べた、これまでの人での介入研究を対象に文献を収集しました。あわせて、対象となったパンの特徴の整理や、考えられる作用メカニズムについての検討も行われています。この分析は、欧州食品安全機関(EFSA)が科学的根拠を評価する際に用いる枠組みに沿って進められたとされています。
その結果、選定基準を満たした研究は27件見つかりました。研究チームはこれらの研究について、バイアス(偏り)のリスク、報告されている効果の一貫性、そしてパンの特性やメカニズムから見た生物学的な妥当性を総合的に検討しました。その結果として導かれた結論は、「健康な人において、サワードウパンがイースト発酵パンと比べて血糖やインスリンの恒常性に良い影響を与えるという根拠は、十分でも説得力のあるものでもない」というものでした。さらに、発酵という工程そのものが血糖・インスリンの恒常性に与える効果全般についても、現時点でのエビデンスの質は「非常に低い」と評価されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文は、新たに人を対象とした実験を行ったものではなく、既存の研究27件をまとめて評価したレビュー研究です。要旨からは、対象とした研究同士で実験デザインや対象集団にばらつきがあったこと、またサワードウ発酵の効果だけに注目してイースト発酵との比較を行っていない研究もあったことが、これまでの研究結果が一貫しない一因として挙げられています。今回のレビューの結論も、あくまで現時点で集められた研究の質と一貫性を踏まえたものであり、「サワードウパンが血糖に良い」とも「良くない」とも断定するものではありません。一つのレビュー研究であり、この分野の結論が確定したわけではない点に留意して読む必要があります。
まとめ
今回のシステマティックレビューでは、健康な成人においてサワードウ発酵パンがイースト発酵パンと比べて血糖・インスリン恒常性に有益であるという十分な根拠は、現時点では見当たらなかったと報告されています。また、発酵という工程全般が血糖・インスリンに与える影響についても、エビデンスの質は非常に低いとされました。パンの発酵方法と健康効果の関係は今後も研究が続けられていくテーマといえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:健康な集団における血糖値へのサワードウおよびイースト発酵パンの摂取の影響:システマティックレビュー(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)