この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Quality and Safety
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
アプリコットプラム(Prunus domestica × armeniaca、供試品種は‘Konglongdan’)は、鮮やかな果皮色とさくさくした食感、甘酸っぱい味わい、特徴的な香りをもつ核果類です。一方で収穫後の傷みが早く、変色や軟化、水分の減少、酸味の低下、風味の変化が短期間で進むことが知られています。
研究チームは、こうした劣化を抑える手段として「氷結点近傍温度(NFT)貯蔵」に注目しました。これは、果実が実際に凍る温度(氷結点)よりわずかに高い温度で貯蔵し、凍結を避けながら代謝活動をできるだけ抑える方法です。ただし、この方法がアプリコットプラムに適しているかどうか、また品質が保たれる仕組みについては十分に分かっていませんでした。そこで著者らは、常温・一般的な低温・氷結点近傍温度の三条件を比べ、品質と香り成分の変化、さらにその背景にある代謝の動きを調べています。
調べた方法
まず果実をすりつぶした試料を−40 °Cで冷却し、温度変化の記録から氷結点を求めました。凍結が始まると温度が一時的に横ばいになる区間が現れ、その温度は約−3.1 °Cでした。これを踏まえ、氷結点より高い−1.0 °CをNFT貯蔵の温度として設定しています。
比較したのは、常温貯蔵(20.0 °C)、一般的な低温貯蔵(4.0 °C)、氷結点近傍温度貯蔵(−1.0 °C)の三条件です。7日ごとに試料を取り、見た目から判断した商品として売れる果実の割合、果皮の色の変化、重量の減少、果肉の硬さ、呼吸量とエチレンの発生量、可溶性固形分(主に糖分の目安)と滴定酸度を測定しました。
香りについては、ガスクロマトグラフィー・イオンモビリティ分析法(GC-IMS)という、揮発性成分の組み合わせを指紋のように可視化できる手法を用いました。さらに、差の大きかった常温区と氷結点近傍温度区については、電子顕微鏡による細胞の微細構造の観察、デンプンやショ糖に関わる成分と酵素の測定、遺伝子の働き方を網羅的に調べる解析(トランスクリプトーム解析)を行っています。
報告された主な結果
常温貯蔵の果実は14日目までに果皮と果肉の褐変、水浸状の病斑、果肉の腐敗といった著しい劣化を示し、売れる果実の割合は57.78%まで低下、21日目には0%となりました。これに対し氷結点近傍温度の果実は28日目でも見た目が比較的そろっており、目に見える腐敗は認められなかったと報告されています。一般的な低温貯蔵の果実は28日目の時点で氷結点近傍温度の果実より褐変が目立ち、35日目には売れる割合が22.22%まで下がりました。
数値でも差が現れています。14日目の果肉の硬さは、氷結点近傍温度で8.85 Nだったのに対し、一般的な低温では6.32 N、常温では1.28 Nでした。同じ14日目の重量減少は氷結点近傍温度が0.14%、常温が0.65%です。可溶性固形分と酸度も氷結点近傍温度でもっとも高く保たれ(18.37 °Brix、1.41%)、常温(17.17 °Brix、1.31%)や一般的な低温(17.60 °Brix、1.32%)を上回りました。呼吸とエチレンの発生は、常温では7日目に最も高くなったのに対し、二つの低温条件では14日目まで遅れて現れました。
香り成分の分析では、貯蔵の違いが明確に現れました。主成分分析で常温貯蔵の試料は他と離れた位置に分布し、14日目には低温の二条件と明瞭に分かれました。GC-IMSでは22種類の揮発性成分が暫定的に同定されています。収穫直後にはほとんど検出されなかった成分のうち、硫黄様・刺激的・麦芽様・焙煎様といった香りに結びつくものを含む一群が、常温貯蔵で特に強く増加しました。一方、収穫直後から存在していたベンズアルデヒドやヘキサナール、2-ヘキサノールなどは常温貯蔵で大きく減少しています。氷結点近傍温度では、こうした香り成分の変化が常温より小さく抑えられ、一般的な低温はその中間的な傾向を示しました。
さらに著者らは、氷結点近傍温度では常温に比べて細胞壁と細胞膜の構造がよりよく保たれ、デンプンの消費とショ糖の減少が遅くなり、ショ糖合成酵素(スクロースシンターゼ)とショ糖リン酸合成酵素の活性が高く維持されたと報告しています。遺伝子発現の解析でも、デンプン・ショ糖代謝や植物ホルモンの情報伝達に関わる遺伝子の発現に差が認められました。
この研究が示すこと
著者らは、アプリコットプラムの商品価値と香り成分の組成を保つうえで、氷結点近傍温度貯蔵が有効な温度管理の方法であると結論づけています。その効果は、細胞の構造が保たれること、そしてデンプンとショ糖がより多く残ることと関連していると述べられています。
この研究は、品目ごとの氷結点を実際に測り、それを手がかりに貯蔵温度を決めるという考え方が、見た目の品質だけでなく味や香りにも関わりうることを、生理的・分子的な観察とあわせて示した報告といえます。
著者:Xiuhu Xiong(College of Food Science, Shenyang Agricultural University , Shenyang ,)、Shutong Wu(College of Food Science, Shenyang Agricultural University , Shenyang ,)、Peng Zhang(Institute of Agricultural Products Preservation and Processing Technology, Tianjin Academy of Agricultural Sciences , Tianjin ,)、Jiangong Wang(Jiaxing Academy of Agricultural Sciences , Jiaxing ,)、Haifang Hu(Xinjiang Academy of Forestry Sciences , Urumqi ,)、Baodong Wei(College of Food Science, Shenyang Agricultural University , Shenyang ,)、Jiangkuo Li(Institute of Agricultural Products Preservation and Processing Technology, Tianjin Academy of Agricultural Sciences , Tianjin ,)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiuhu Xiong, Shutong Wu, Peng Zhang, et al. Near-freezing temperature storage maintains apricot plum quality and aroma-related volatile profiles associated with retained starch and sucrose. Food Quality and Safety 2026-09-08. DOI: 10.1093/fqsafe/fyag073. 原著ライセンス:CC BY.