この研究は、アルゼンチン、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:ACS Omega

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目指した研究か

水素は燃やしても二酸化炭素を出さないため、化石燃料からの転換を支える有力なエネルギー候補とされています。ただし現在広く使われている製造法は天然ガスの改質など化石資源を原料とするもので、有機廃棄物を微生物に分解させて水素を得る方法はまだ開発途上だと論文は整理しています。

この研究では、ブラジルで多く発生する農産加工の副産物であるりんごの搾りかすとカシューの搾りかすを原料に、水素を多く含むバイオガスをつくることを目的としました。廃棄物として扱われてきた材料を資源として活用する「循環型バイオエコノミー」の考え方を、実験で確かめようという試みです。加えて、生成したガスを安価な方法できれいにする工夫と、実験手順そのものの環境負荷を評価する指標の適用も、研究の目的に含まれています。

どのように調べたか

著者らは、カンピーナス市で集めたりんごとカシューの搾りかすを60度で72時間乾かし、約1ミリの粉末に粉砕して原料としました。微生物のもとになる種菌(しゅきん)には、ビール工場から提供された排水処理由来の微生物の集まりをそのまま使っています。

実験装置は、容量4.3リットルのリアクター(反応槽)を2つ直列につないだものです。1つ目は「加水分解リアクター」と呼ばれ、複雑な有機物をこわして溶けやすい形に変える前処理の役割を担います。2つ目は「暗発酵リアクター」で、光を使わない発酵によって水素を生み出す部分です。1つ目から取り出した消化液を2つ目に送り込む形で、39日間、週3回の給餌を続けて半連続運転しました。温度は36度に保ち、水素が出やすい条件を維持するため、1つ目はpH5.0〜6.5、2つ目はpH6.0〜8.0に水酸化ナトリウムで調整しています。

発生したガスは毎日専用の袋に集めて量を測り、ガスクロマトグラフィーで水素・メタン・二酸化炭素・硫化水素の割合を分析しました。また、りんごの搾りかすを400度で4時間炭にしたものを筒に詰め、暗発酵リアクターの出口に取り付けてガスの精製を試みています。あわせて、Eco-Scale、Path2Green、AGREE、GAPIという4つの評価指標を用いて、この工程の持続可能性を他の研究と比べる形で検討しました。これらの指標はもともと分析化学の手法を評価するために作られたものですが、著者らは適切に読み替えれば嫌気性消化のような工程にも応用できると述べています。

主な報告結果

論文が報告した運転条件は、水力学的滞留時間(原料が槽内にとどまる平均時間)が48.16日、有機物負荷率が595.85 mg 揮発性固形物/L・日でした。バイオガスの発生量は加水分解リアクターのほうが多く、39日間の合計で約6.49×10⁻²立方メートル、暗発酵リアクターでは約4.09×10⁻²立方メートルでした(実験室条件、25度・1気圧)。

一方、ガスに含まれる水素の割合は暗発酵リアクターのほうが高く、1つ目の槽が前処理として機能したことを示すと著者らは解釈しています。日ごとの水素濃度の最高値は、加水分解で77.48パーセント(1日目)、暗発酵で76.45パーセント(3日目)、精製後のガスで86.47パーセント(39日目)でした。2つの槽を合わせた水素の収量は、投入バイオマス1トンあたり93.40立方メートル(揮発性固形物あたりでは107.36立方メートル)と報告されています。著者らはこれを、ジャガイモくずの85立方メートル、厨房ごみの72立方メートルといった既報値と並べ、直列配置のほうが水素の回収量が多くなるという見方を示しています。

有機物の分解の様子も追跡されました。加水分解リアクターでは固形分が最初の14日で大きく減る一方、化学的酸素要求量(水中の有機物量の指標)は当初約148 g O₂/Lで大きく変わらず、物質は溶け出すもののこの槽ではあまり消費されていないことがうかがえます。暗発酵リアクターでは35日目までに約52 g O₂/Lまで低下し、溶けた有機物が実際に使われる主な場所だったと報告されています。炭にしたりんご搾りかすについては、電子顕微鏡で使用前に見られた多数の細孔が使用後には減っていたことが観察されました。ただし著者らは、ガスの精製は本研究の中心的な目的ではなく、これは今後の検討につながる予備的な結果だと明記しています。

著者らは、限界についても率直に触れています。三重測定は分析操作の繰り返しであってリアクター自体を独立に複数用意したものではなく、水素を消費してしまうメタン生成菌が抑えられていたという判断も、メタンが少なかったことと酸性が続いたことからの間接的な推測にとどまります。有機酸の詳しい組成分析や微生物群集の解析は行われていません。

この報告が示すもの

この研究は、廃棄されがちな果実の搾りかすから、水素を多く含むガスを実験室規模の装置で取り出せることを示した報告です。前処理の槽と発酵の槽を直列にするという比較的単純な構成でも、有機物の分解と水素の回収を両立させられたという点が、著者らの強調するところです。

また、生成物の量だけでなく、工程そのものの持続可能性を既存の評価指標で測るという姿勢も特徴といえます。農産加工の現場で厄介者だった残渣を、その場でエネルギーに変える道筋があるかどうかを、数値で語れる形にしようとした試みとして読むことができます。

著者:Larissa Castro Ampese(University of Campinas (UNICAMP) , , Rua Monteiro Lobato, n.80 , , ,)、Henrique Di Domenico Ziero(University of Campinas (UNICAMP) , , Rua Monteiro Lobato, n.80 , , ,)、Julián M. Nannini(National University of Rosario , , Suipacha 531 , ,)、Leonardo de Freitas Marinho(University of Campinas (UNICAMP) , , Rua Monteiro Lobato, n.80 , , ,)、Gilberto Martins(Center for Information Technology Renato Archer , Rua Dom Pedro I , , ,)、Tânia Forster‐Carneiro(University of Campinas (UNICAMP) , , Rua Monteiro Lobato, n.80 , , ,)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Larissa Castro Ampese, Henrique Di Domenico Ziero, Julián M. Nannini, et al. Evaluating Energy Efficiency in Biohydrogen Production and Sustainability Assessment. ACS Omega 2026-09-10. DOI: 10.1021/acsomega.6c03520. 原著ライセンス:CC BY.