スーパーでよく見かけるカット済みの野菜や芋類は便利な反面、切り口から傷みやすく、カビや変色が起きやすいという弱点があります。中国・湖北中医薬大学のHubei Shizhen Laboratoryなどの研究グループは、花として利用されたあとに廃棄されるキク(Chrysanthemum morifolium)の葉、つまり食品や園芸の副産物に着目し、そこから作った炭素ナノ粒子を使ってカット紫ヤムイモの品質保持ができないかを調べました。

キクの葉から作った炭素ナノ粒子とは

研究チームは、キクの葉を原料として「グリーン水熱法」と呼ばれる手法で炭素ナノ粒子(論文中ではCs-CNsと表記)を合成しました。水と熱を使う比較的環境負荷の低い合成方法で、廃棄されるはずだった植物素材を新しい機能性材料に変える試みといえます。

研究でわかったこと

まず研究チームは、腐敗した紫ヤムイモから傷みの原因となる菌を分離し、形態的な特徴と複数の遺伝子領域を用いた系統解析によって、Fusarium asiaticumおよびFusarium oxysporumという2種類のカビであることを突き止めました。

次に、このCs-CNsをこれらのカビに作用させたところ、濃度が高いほど菌糸の伸長を強く抑える効果が確認されました。さらに顕微鏡レベルの観察では、Cs-CNsによって菌糸の形態に著しい損傷が生じ、細胞膜の状態が乱れ、細胞の生存率が低下したことも報告されています。

実際にカット紫ヤムイモへCs-CNsを処理して保存する実験も行われました。その結果、保存中の微生物数の増加が抑えられ、切り口の褐変(茶色く変色すること)が遅くなり、機能性成分の保持にもつながったとされています。加えて、褐変に関わるフェニルプロパノイド経路の酵素と、酸化ストレスに関わる抗酸化酵素の両方の働きが調整されていたことも観察されました。この結果から研究チームは、Cs-CNsがカビに直接作用する効果と、ヤムイモ自身の代謝反応に働きかける効果という、二つの経路を介して品質保持に寄与している可能性を示唆しています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、キクの葉由来の炭素ナノ粒子がカット紫ヤムイモの保存性を高める可能性を示した一つの研究であり、これによって効果が確定したわけではありません。実験で示されたのはカビの増殖抑制や品質保持に関わる指標の変化であり、ヒトが食べた際の安全性や、実際の流通・販売現場での有効性については、この要旨の範囲では触れられていません。また、対象となったカビの種類や紫ヤムイモという特定の食材での結果であるため、他の野菜や果物、他の腐敗原因菌にそのまま当てはまるとは限りません。

まとめ

本研究は、通常は廃棄されるキクの葉を原料に炭素ナノ粒子を作り、カット紫ヤムイモの腐敗原因菌であるFusarium asiaticumとFusarium oxysporumの増殖を抑えつつ、褐変や品質劣化を遅らせる可能性を示した基礎研究です。食品副産物の新たな活用法として、そして収穫後の食品ロス低減に向けた研究の一例として注目されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Leilei Wu, Fan Yinyin, Jieni Liu, et al. Carbon nanoparticles from chrysanthemum morifolium by-products: A novel strategy for controlling postharvest decay and quality deterioration of fresh-cut purple yam. ジャーナル・オブ・フューチャー・フーズ (2026). DOI: 10.1016/j.jfutfo.2026.08.023. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.