ヨーロッパの野山や道端に自生する野生果実「ブラックソーン(Prunus spinosa L.)」をご存じでしょうか。ルーマニアでは広く分布していながら、機能性食品の原料としての可能性はまだ十分に調べられていない果実です。今回紹介する研究は、ルーマイン・クルージュ地方の5つの採取地から得たブラックソーンの果実について、含まれる植物由来成分と、土壌や大気を通じて取り込まれうる汚染物質の両方を同時に分析し、その関係を調べたものです。
どこで採れた果実を、どう調べたのか
研究チームは、森林の縁、農村部、郊外、道路沿いなど、土地利用の条件が異なる5地点でブラックソーンの果実を採取しました。採取は2018年10月、2019年10月、2019年11月の3回に分けて行われています。分析した項目は、総ポリフェノール量、抗酸化能、脂肪酸メチルエステル(FAME、脂質組成を調べる指標)、食物繊維、クロロフィル、水分含有量、そして多環芳香族炭化水素(PAH、15種類の化合物群で主に燃焼由来の汚染物質)、さらに銅・亜鉛・マンガン・カルシウム・マグネシウム・ナトリウム・カリウムなどの金属濃度です。加えて、金属とPAHのデータを組み合わせた「生態毒性圧力指数(EPI)」という独自の指標を各採取地ごとに算出し、汚染の度合いを総合的に比較しています。
研究でわかったこと
総ポリフェノール量は採取地や時期によって124〜1172 mg GAE/kg(乾燥重量あたり)と大きな幅があり、抗酸化能も116〜1184 µg AAE/mgの範囲でばらつきが見られました。統計解析(一元配置分散分析)では、銅・亜鉛・マンガン・カルシウム・マグネシウム・ナトリウム・カリウムの濃度に採取地による有意な差があることが示されています。
さらに主成分分析(データのばらつきの65〜70%を説明)を行ったところ、農村部や森林の縁で採れた果実は、ポリフェノールが多く生態毒性圧力指数が低いグループに、都市部や道路沿いで採れた果実は、金属やPAHの濃度が高いグループに、それぞれ分かれる傾向が確認されました。また重回帰分析では、抗酸化能を最も強く後押しする要因はポリフェノール量であり(統計的な影響度を示す標準化係数でβ=+0.78)、一方で鉄分や総PAH濃度は抗酸化能とは逆方向に関連していました(それぞれβ=−0.31、−0.28)。これらの要因を合わせたモデルの説明力は80%(R²=0.80)に達したと報告されています。
この結果をどう受け止めるべきか
採取地の環境と成分・汚染物質のプロファイルには一定の対応関係が見られ、農村部や森林の縁の果実は、いくつかの生理活性に関わる指標について好ましい傾向を示しました。ただし著者ら自身が強調しているように、こうした関連を汚染への曝露だけが原因だと断定することはできません。土壌の性質や気候条件など、他の要因が影響している可能性も残されています。特定の産地の果実が機能性食品の原料として他より優れていると結論づけるには、より条件を制御した追加の研究が必要だと述べられています。
まとめ
今回の研究は、身近な野生果実であるブラックソーンの成分が、育つ場所の環境によって大きく変わりうることを、ポリフェノール・抗酸化能・金属・PAHという複数の指標を組み合わせて示したものです。野生の果実を機能性食品として活用する際には、味や見た目だけでなく、採取環境まで含めて考える必要があることを示すデータといえますが、これは一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Vanda Băbălău – Fuss, Lucian Dordai, Marius Roman, et al. Biochemical Profiling and Ecotoxicological Assessment of Prunus spinosa L. Fruits from the Cluj Region: Phytochemical Composition, Contaminant Load, and Antioxidant Potential. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15173135. 原著ライセンス: cc-by.