この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Bioscience

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

輸出用のテーブルグレープ(生食用ブドウ)は、大きさや色つき、傷の有無などの厳しい基準で選別されます。基準を満たさなかった果粒は「規格外」とされ、一部は国内向けに安く売られたり加工に回されたりしますが、それでも引き取り先のない分は廃棄され、収穫後の損失になります。著者らは、この規格外ブドウに新たな用途を与えられないかという問題意識から研究を行いました。

対象としたのは、種なし白ブドウの品種ARRA 15™です。著者らによると、ブラジルではこの品種が輸出向けに強く位置づけられている一方、厳しい商業規格と季節ごとのばらつきのため、生産量の最大40%が輸出基準に届かない場合があるとされています。そこで研究チームは、この規格外ブドウからワイン系飲料をつくり、そこに観賞用植物ブーゲンビリア(Bougainvillea glabra)の苞(ほう)を加えるという方法を提案しました。苞とは花のように見える色づいた葉のことで、非伝統的な食用植物素材として扱われています。苞にはベタレインという赤紫系の色素や、テルペノイド、ポリフェノール類が含まれることが知られています。

研究の狙いは、この苞を加えることが飲料の化学組成、機能性、官能(味や香りの感じ方)にどう影響するかを、フレーバロミクスという統合的な手法で包括的に評価することでした。フレーバロミクスとは、香気成分やポリフェノールなどの化学データと、抗酸化性や人による官能評価のデータを結びつけて解析し、品質や受容性に関わる要因を探るアプローチです。

何をどう調べたか

著者らは2023年6月にブラジル・ペトロリーナの商業用ブドウ園でARRA 15™を収穫し、選果場で輸出基準に適合しなかった果粒を用いました。同じ時期に同地域で採取した、完全に展開したマゼンタ色のブーゲンビリアの苞を、花を取り除いて生のまま使用しました。

仕込みは180kgのブドウをまとめて処理し、清澄した果汁を3つの区に分けて、それぞれ独立した3回の発酵で行っています。区分は、苞を加えない対照ワイン、苞を発酵前の低温浸漬(6±2℃で72時間)で加えたもの、苞をアルコール発酵中(15±2℃で72時間)に加えたものの3種類です。苞の添加量はいずれも1Lあたり10g(生重量)で、これは予備試験で5、10、20g/Lを比べ、色の出方と官能面の釣り合いが最も良かった濃度として選ばれました。苞は72時間後に取り除かれ、圧搾はしていません。

分析は複数の側面から行われました。pHや酸度、アルコール分などの一般成分、色の測定、ポリフェノールとベタレインの組成(高速液体クロマトグラフィーと質量分析による分析)、香気成分のプロファイル、4種類の方法による抗酸化性の評価です。官能評価では、倫理審査の承認を得たうえで、18歳以上の96名の参加者が、外観・香り・風味・口当たりに関する15の用語について当てはまるものを選び強さを評価するRATA法と、好ましさおよび購入意向を答える消費者テストを行いました。

報告された主な結果

著者らの報告によると、苞を加えた飲料は色の強さと抗酸化性がより高く、ベタレイン色素はこれらの試料でのみ検出されました。つまり、この色素は苞に由来するものだと位置づけられています。また、アルコール発酵中に浸漬した場合のベタレイン濃度は、低温浸漬の場合のおよそ2〜3倍高かったと報告されています。

官能評価では、アルコール発酵中に苞を浸漬した飲料について、香りの強さ、フレッシュさ、果実感と甘い印象がより際立ち、一方で苦味とアルコール感の知覚は抑えられたと報告されています。消費者の反応も苞を加えた飲料に対してより好意的で、購入意向は対照の27%に対し、低温浸漬で57%、アルコール発酵中の浸漬で65%でした。

フレーバロミクス解析では、エステル類、ノルイソプレノイド類、そして色が消費者の受容と関連づけられました。エステル類は果実を思わせる香りに寄与する成分群、ノルイソプレノイド類は花や果実の香りに関わる成分群です。ここで示されているのは化学データと嗜好データの関連であり、因果関係の証明ではありません。

この研究が示すこと

著者らは、フレーバロミクスが化学組成と官能知覚の関係を解き明かす有効な手段であることを示すとともに、ブーゲンビリアの苞を加えることが、循環型経済の枠組みのなかで規格外ブドウに価値を与える方策になりうると位置づけています。

廃棄されてきた果粒と、身近にありながら食品にはあまり使われてこなかった植物素材を組み合わせるという発想が、色や香り、抗酸化性、そして飲む人の受け止め方にどう作用するのかを、ひとつの研究のなかで丁寧に確かめた報告と言えます。

著者:Thais Sampaio Marques(Instituto de Ciência e Tecnologia de Alimentos, Universidade Federal do Rio Grande do Sul (UFRGS), Avenida Bento Gonçalves, 9500, Porto Alegre, RS, Brasil)、Laura Oliveira Lago(Instituto de Ciência e Tecnologia de Alimentos, Universidade Federal do Rio Grande do Sul (UFRGS), Avenida Bento Gonçalves, 9500, Porto Alegre, RS, Brasil)、Rafaela Diogo Silveira(Instituto de Ciência e Tecnologia de Alimentos, Universidade Federal do Rio Grande do Sul (UFRGS), Avenida Bento Gonçalves, 9500, Porto Alegre, RS, Brasil)、Islaine Santos Silva(Federal Institute of Education, Science and Technology of Sertão Pernambucano, Campus Petrolina Zona Rural, Petrolina 56302-970, Brazil)、Ana Paula André Barros(Federal Institute of Education, Science and Technology of Sertão Pernambucano, Campus Petrolina Zona Rural, Petrolina 56302-970, Brazil)、A. C. T. Biasoto(Empresa Brasileira de Pesquisa Agropecuária, Embrapa Meio Ambiente, SP-340, KM 127, s/n, Jaguariúna, SP, Brasil)、Juliane Elisa Welke(Instituto de Ciência e Tecnologia de Alimentos, Universidade Federal do Rio Grande do Sul (UFRGS), Avenida Bento Gonçalves, 9500, Porto Alegre, RS, Brasil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Thais Sampaio Marques, Laura Oliveira Lago, Rafaela Diogo Silveira, et al. Upcycling substandard table grapes into value-added wine-based beverages: Bougainvillea bracts as natural enhancers of color, antioxidant capacity and sensory profile unveiled by a flavoromics approach. Food Bioscience 2026-09-22. DOI: 10.1016/j.fbio.2026.110073. 原著ライセンス:CC BY.