この研究は、イタリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of the Science of Food and Agriculture

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

イチゴは収穫後の劣化がとても速い果実です。呼吸が活発で、水分の蒸散を防ぐ外皮を持たず、機械的な損傷にも弱いため、0〜4℃で保存しても日持ちはおよそ5日程度とされています。この短さが品質の低下と販売機会の損失につながっている、と研究チームは背景を説明しています。

こうした劣化を抑える方法の一つが「食用コーティング」です。これは、タンパク質・多糖類・脂質といった天然の高分子から作った薄い膜を果実の表面に形成する技術で、水分やにおいの損失を防ぎ、呼吸に関わるガス(二酸化炭素、酸素、エチレン)のやりとりを調整する働きが期待されます。膜を2層重ねる方式は1層のみの場合より保護効果が高いと報告されてきましたが、著者らは、これまでの研究の多くが外見上の品質に注目しており、二層膜が果実内部の酸化ストレスをどのように調節しているのかは十分に解明されていない、と指摘しています。

そこで本研究は、カルボキシメチルセルロース(CMC)とアルギン酸ナトリウムを組み合わせた二層の食用コーティングが、冷蔵保存中のイチゴの品質をどの程度保てるかを、物理化学的・生化学的な測定と多変量統計解析を組み合わせて総合的に評価することを目的としました。

何を調べたか

著者らはイタリア国内の農場で収穫した'Rossetta'品種のイチゴを用い、大きさ・色・形がそろい、傷のないものを選びました。果実は2つのグループに分けられます。処理区は、塩化カルシウム(2%)、CMC(1%)、アルギン酸ナトリウム(1%)、再び塩化カルシウム(2%)の順に各2分間浸し、その都度室温で約1時間乾燥させました。対照区には同じ手順を行いましたが、浸す液はすべて滅菌蒸留水に置き換えています。

両グループとも約100g(およそ4個)ずつ容器に入れ、4℃・相対湿度95%の条件で8日間保存しました。測定は0日目、1日目、3日目、6日目、8日目に実施し、各時点で処理区・対照区それぞれ3箱ずつを用いています。全体では30箱、120個のイチゴが用いられました。

測定項目は多岐にわたります。重量減少率、果肉の硬さ、果皮の色、糖度(可溶性固形分)、pH、酸度といった品質指標に加え、ポリフェノール・フラボノイド・アントシアニンなどの機能性成分量と抗酸化活性を調べました。さらに、活性酸素を分解する酵素(スーパーオキシドジスムターゼ=SOD、カタラーゼ=CAT、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ=APX)の活性と、褐変に関わるポリフェノールオキシダーゼ(PPO)、膜脂質の酸化を引き起こすリポキシゲナーゼ(LOX)、そして膜の損傷の指標となるマロンジアルデヒド(MDA)の量も測定しています。これらのデータは分散分析に加え、ASCA(ANOVA-同時主成分分析)という手法で、保存日数・処理・両者の組み合わせがどれだけ全体の変化に寄与したかを分解して解析されました。

主な報告結果

まず品質面では、コーティングした果実の重量減少が抑えられました。8日後、対照区の重量減少が4.62%だったのに対し、処理区はおよそ25%低い値にとどまったと報告されています。硬さは両区とも時間とともに低下しましたが、保存終了時にはコーティング区のほうが高い硬さを保っていました。糖度は両区で上昇したものの対照区でより顕著で、著者らはこれを水分が失われたことによる濃縮効果と説明しています。酸度の低下も対照区でより大きく、pHには処理間で有意な差が見られませんでした。果皮の明るさ(L*値)の低下もコーティング区で緩やかで、表面の褐変が遅れたことを示すとされています。

機能性成分については、両区とも保存中に増加傾向を示しましたが、1日目以降はコーティング区のほうが高い値を示しました。最も含量が高かった6日目には、総ポリフェノール、フラボノイド、抗酸化活性のいずれでもコーティング区が対照区を有意に上回っています。著者らは、この増加が低温保存による代謝反応と、コーティングが果実の防御応答を活性化する働きの両方に関連しうると述べています。

生理面の結果はより踏み込んだものです。活性酸素を除去する3種の酵素(SOD、CAT、APX)の活性は保存中に上昇し、いずれもコーティング区でより高い値が記録されました。一方、褐変に関わるPPO、脂質の酸化を進めるLOX、そして膜の損傷指標であるMDAは、コーティング区で有意に低い水準にとどまりました。著者らはこれを、細胞膜の健全性が保たれ、老化(senescence)の進行が遅れたことを示すものと解釈しています。

多変量解析では、保存日数・処理・両者の相互作用のすべてが有意な影響を持つと確認されました。その中でも保存日数が最も大きな変動要因で、全体のばらつきの61.99%を説明しています。処理の効果は8.52%、処理と時間の相互作用は10.22%で、日数ほど大きくはないものの有意な寄与を示しました。また相関行列の階層的クラスタリングにより、抗酸化酵素、酸化障害の指標、機能性成分、品質特性の間に協調した関係があることが示されています。

この研究が示すこと

この研究は、CMCとアルギン酸による二層の食用コーティングが、単に水分の蒸発を物理的に防ぐだけでなく、果実内部の酸化代謝そのものに働きかけることで老化を遅らせている、という描像を示しました。膜が酸素の拡散を妨げることで脂質の酸化や褐変の反応が抑えられる一方、果実自身の抗酸化酵素の働きは高まる、という二つの側面が同時に観察された点が特徴です。

もう一つの意義は、方法論の面にあります。従来の個別測定に多変量統計解析を組み合わせることで、数多くの指標が同時に変化していく過程を切り分け、食用コーティングがどのような仕組みで効果を発揮しているのかを統合的に理解する枠組みが得られた、と著者らは述べています。

著者:Ilenia Pellicano(Department for Innovation of Biological, Agrofood and Forest Systems (DIBAF) University of Tuscia Viterbo Italy)、Riccardo Riggi(Department for Innovation of Biological, Agrofood and Forest Systems (DIBAF) University of Tuscia Viterbo Italy)、Elvira Ferrara(CREA‐Research Centre for Olive Fruit and Citrus Crops (CREA‐OFA) Caserta Italy)、Danilo Cice(CREA‐Research Centre for Olive Fruit and Citrus Crops (CREA‐OFA) Caserta Italy)、Margherita Modesti(Department for Innovation of Biological, Agrofood and Forest Systems (DIBAF) University of Tuscia Viterbo Italy)、Milena Petriccione(CREA‐Research Centre for Olive Fruit and Citrus Crops (CREA‐OFA) Caserta Italy)、Andrea Bellincontro(Department for Innovation of Biological, Agrofood and Forest Systems (DIBAF) University of Tuscia Viterbo Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ilenia Pellicano, Riccardo Riggi, Elvira Ferrara, et al. Modulation of oxidative metabolism and quality preservation of strawberries by a CMC –alginate bilayer edible coating during cold storage. Journal of the Science of Food and Agriculture 2026-09-03. DOI: 10.1002/jsfa.71048. 原著ライセンス:CC BY.