日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Biomedicines

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

何を確かめようとしたのか

ビタミンDは骨の健康に関わる栄養素として知られていますが、著者らによれば、その不足は骨や筋肉の病気だけでなく、心血管疾患、感染症、自己免疫疾患、うつ、不妊など幅広い状態と関連が報告されてきました。ビタミンDを受け取る受容体が体の多くの臓器にあることから、体内のビタミンDの状態を正確に測ることが臨床で重要になっていると論文は説明しています。

従来は血液中の「25水酸化ビタミンD(25(OH)D)」という物質の濃度が指標に使われてきました。ただし著者らは、この濃度が遺伝的な個人差の影響を受けることを指摘しています。そこで近年注目されているのが「ビタミンD代謝物比(VMR)」です。これは、余ったビタミンDが分解されてできる「24,25ジヒドロキシビタミンD(24,25(OH)2D)」が、25(OH)Dに対してどれくらいの割合あるかを示す数値で、論文は、人種による違いの影響を受けにくく、骨折リスクなどの臨床結果とより強く相関することが報告されていると紹介しています。

一方で、健康な人の集団での疫学データが乏しく、VMRの基準となる値はまだ定まっていません。年齢や性別を問わず同じ基準でよいのかも分かっていない、と著者らは述べています。この研究の目的は、比較的健康な日本の成人を対象にVMRを測定し、その分布が性別などの属性によってどの程度ばらつくのかを調べることでした。

どのように調べたか

研究チームは、2019年4月から2020年3月にかけて日本の健診センターで健康診断を受けた人の残余血清と検査データを利用しました。妊娠中・授乳中の女性は除外し、原則として毎月60検体を無作為に集め、最終的に650検体(男性375人、女性275人)を分析対象としています。

測定には、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC-MS/MS)という、物質を分離してから精密に種類と量を判定する装置を用い、25(OH)D3と24,25(OH)2D3を同時に測りました。VMRは、24,25(OH)2D3を25(OH)D3で割って100を掛けた値(%)として計算しています。

基準となる値の範囲を求める際には、腎機能の指標(eGFR)や肝機能、血糖、血圧、BMIなどが日本の臨床検査標準協議会が定める一般的な基準範囲に収まっている人のデータに限定し、549人分を使いました。さらに、年齢や腎機能、糖尿病の状態といった背景の違いが結果に影響しうるため、重回帰分析に加え、背景条件をそろえて比較する「安定化逆確率重み付け」という統計手法も用いています。

報告された主な結果

24,25(OH)2D3の暫定的な基準範囲は、男性で0.3〜3.0 ng/mL、女性で0.2〜2.3 ng/mLでした。VMRについては男性3.0〜11.8%、女性2.5〜10.4%で、いずれも男性のほうが高く、統計的に有意な差がありました。ただし著者らは、この差の大きさを表す指標(標準偏差比)が0.5未満にとどまったことから、差は「中程度」であり、性別ごとに別の基準範囲を設けることが厳密に必要とまでは言えないと述べています。

この男女差は、25(OH)D3の濃度をはじめとする背景要因をそろえて比べた後も残りました。また、腎機能の指標であるeGFRが高いことと、50歳以上であることは24,25(OH)2D3とVMRの高さと結びついており、逆に糖尿病に相当する状態(HbA1c 6.5%以上)は両者の低さと結びついていました。性別ごとに分けた解析では、糖尿病の状態とこれらの指標の負の関連は女性で認められ、男性では認められませんでした。

なお、この集団ではビタミンDの不足・欠乏に該当する人が全体の97.4%を占め、欠乏だけでも72.5%(男性63.2%、女性85.1%)でした。著者らは、以前の研究で骨折リスクの上昇が報告された7%を下回るVMRを「低VMR」と定めており、これに該当したのは全体の65.5%でした。

この報告が示すこと

論文は、これが健康な日本の成人で性別ごとのVMRの基準範囲を推定した初めての横断研究だとしています。示されたのは、ビタミンDの代謝を表す指標に中程度の男女差があり、その指標に関わる要因も性別によって異なりうる、という点です。

著者らは、こうした差が他の集団でも一貫して見られるかはさらなる研究が必要だとしつつ、今後の疫学研究や臨床での介入を考えるうえでは、ビタミンD代謝の男女差を考慮に入れるべきだと述べています。検査値の「正常」をひとつの範囲で語れるのかという問いを、ビタミンDの領域で具体的な数値とともに提示した研究といえます。

著者:Hiroyasu Miyamoto(Department of Central Laboratory, The Jikei University Western Medical Center, Tokyo 2018601, Japan)、Reiko Kisugi(Department of Laboratory Medicine, The Jikei University School of Medicine, Tokyo 1050003, Japan)、Ayasa Tajima(Department of Laboratory Medicine, The Jikei University School of Medicine, Tokyo 1050003, Japan)、Masaki Miyasaka(Department of Laboratory Medicine, The Jikei University School of Medicine, Tokyo 1050003, Japan)、Tomokazu Matsuura(Shonan Health Checkup Centre, Kanagawa 2540034, Japan)、Tamayo Sano(Analytical and Measuring Instruments Division, Shimadzu Corporation, Kyoto 604-8511, Japan)、Akihiro Kunisawa(Analytical and Measuring Instruments Division, Shimadzu Corporation, Kyoto 604-8511, Japan)、Daisuke Kawakami(Analytical and Measuring Instruments Division, Shimadzu Corporation, Kyoto 604-8511, Japan)、Tsuyoshi Nakanishi(Analytical and Measuring Instruments Division, Shimadzu Corporation, Kyoto 604-8511, Japan)、Nobuhiro Hanafusa(Analytical and Measuring Instruments Division, Shimadzu Corporation, Kyoto 604-8511, Japan)、Yutaka Furutani(Department of Laboratory Medicine, The Jikei University School of Medicine, Tokyo 1050003, Japan)、Sae Ochi(Department of Laboratory Medicine, The Jikei University School of Medicine, Tokyo 1050003, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hiroyasu Miyamoto, Reiko Kisugi, Ayasa Tajima, et al. Sex-Based Differences in the Vitamin D Metabolite Ratio and Its Associated Factors Among Healthy Japanese Adults: A Cross-Sectional Study. Biomedicines 2026-09-01. DOI: 10.3390/biomedicines14091993. 原著ライセンス:CC BY.