大規模な地震は住まいや暮らしを一変させますが、被災した人たちの「食」がどう変化するのかは、意外と見過ごされがちなテーマです。住み慣れた土地を離れて別の地域へ移り住むと、手に入る食材や食文化そのものが変わり、慣れない環境での「食」への適応が新たな課題になります。今回紹介するのは、2023年2月6日に発生したトルコの地震後、強制的に移住することになった人々の食習慣と心理的な状態を調べた研究です。
どんな研究か
この研究では、地震後にトラブゾンおよびその周辺の県へ移住した18〜65歳の30名を対象に調査が行われました。方法としては、食事の摂取頻度を尋ねる調査票や3日間の食事記録、摂食行動の傾向を測るEDE-Q-13という質問紙、心理社会的な影響を測る尺度を用いた量的な調査に加え、詳しい聞き取りによる質的な調査も組み合わされています。量的データはSPSSと栄養計算ソフト(BEBIS)で、質的データは内容分析という手法で分析されました。
わかったこと
参加者の平均エネルギー摂取量は1日あたり1916kcalで、推奨されている量よりもやや少なめだったと報告されています。一方で、炭水化物・タンパク質・脂質の摂取量は基準値を上回っていたとのことです。また、食物繊維やビタミンE、葉酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムといった微量栄養素については、明らかに不足している傾向が見られたとされています。
さらに、摂食行動の傾向を示すEDE-Q-13のスコアは、コレステロールや飽和脂肪、葉酸の摂取量と正の関連があったことが示されています。聞き取り調査からは、移住先の郷土料理になじむことに難しさを感じていた参加者が多かったことも語られています。実際によく食べられていた地元の料理を尋ねると、クイマック(トウモロコシ粉のチーズがゆ)やスュトラチ(ライスプディング)など、比較的なじみのある料理に人気が集まっていたことがわかったとされています。加えて、社会的な健康状態を示すスコアと、情緒的な理由で食べてしまう傾向や自分の体型への不満との間にも、関連が見られたと報告されています。
この研究を読むうえで気をつけたいこと
この研究は、特定の地域に移住した30名という限られた人数を対象にしたものであり、得られた結果がすべての被災者や移住者に当てはまるとは限りません。あくまで一つの研究として位置づけられるものであり、これによって地震による強制移住が食生活や心理面に与える影響のすべてが解明されたわけではない点には注意が必要です。また、要旨からは、栄養摂取の変化と摂食行動の傾向との間に関連が見られたことが示されていますが、これは相関関係であり、どちらが原因でどちらが結果なのかを直接示すものではありません。
まとめ
今回の研究では、地震による強制移住を経験した人々において、エネルギー摂取はやや少なめである一方、炭水化物・タンパク質・脂質は基準を上回り、食物繊維やビタミンE、葉酸などの微量栄養素は不足している傾向がみられたことが示されました。また、慣れ親しんだ食べ物への志向や、情緒的な摂食、体型への不満といった心理的な側面との関連もうかがえたとされています。論文の著者らは、災害後の栄養面での支援においては、文化的になじみのある食品の提供と心理社会的な支援をあわせて行うことが、より健やかな食習慣や適応の後押しにつながる可能性があると述べています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:地震による強制移住が食習慣と心理的影響に及ぼす影響:混合研究法による検討(移住研究誌・2026年08月)