著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。

掲載誌:Brazilian Journal of Animal and Environmental Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

研究チームが注目したのは、エルサルバドル東部シウダー・バリオスにあるカカワティケ山地のコーヒー栽培です。この地域では、高い木の陰でコーヒーを育てる「日陰栽培」が長く続いてきました。論文によると、エルサルバドル産のコーヒーはすべて日陰で栽培されており、この方法は日なたで育てる方式よりも多くの生物多様性を保つとされています。カカワティケ地域のコーヒーは原産地呼称を持ち、標高800〜1,660メートルの範囲で栽培されています。

国連食糧農業機関(FAO)は、世界的に重要な伝統的農業を「世界農業遺産(GIAHS)」として認定する制度を運営しています。著者らはこの農林複合システム(樹木と作物を組み合わせた農業)が、世界農業遺産の候補として提案できる特徴を備えているかを確かめようとしました。あわせて、景観の構造、農業に関わる生物多様性、伝統的な農林業の営みが互いにどう結びついているかも調べています。

どのように調べたか

調査の対象は、シウダー・バリオスのコーヒー生産者協同組合に属する組合員の農園です。農園数は1,512、総面積は8,180ヘクタールにのぼります。

著者らは、世界農業遺産の5つの認定基準に沿ってこのシステムを記述しました。5つの基準とは、食料と生計の安全保障、農業生物多様性、地域の伝統的な知識体系、文化・価値観・社会組織、景観の特徴です。根拠としたのは、文献調査、公的な統計データ、それに著者ら自身の現地調査と観察です。

主な報告結果

生計の面について、論文は地域の計画書と農業センサスをもとに、自治体内の生産者2,269人のうち約8割が小規模生産者であると報告しています。小規模生産者は収穫の多くを自家消費に回し、余った分を売って暮らしを支えています。コーヒー生産者は387人で、地元関係者はコーヒー栽培を地域の商業活動を支える基盤だと述べています。トウモロコシや豆などの食用作物、家畜の飼育も、コーヒーと組み合わせて営まれています。協同組合の2019年の生産量は4万5千キンタルで、そのおよそ8割が輸出されました。

生物多様性の面では、コーヒーが単一作物として育てられていない点が報告されています。コーヒーの木はインガ属の樹木、バナナの仲間、カシ類、柑橘類、マンゴーなど、さまざまな日陰樹と常に組み合わされています。伝統的な知識については、有機物を使う手入れや剪定などの技術が受け継がれていると著者らは述べています。こうした方法はコーヒー栽培が国に伝わって以来ほとんど変わっておらず、変化といえばさび病に強い品種の導入などの技術面にとどまるとしています。

文化と社会組織の面では、しっかりした生産者協同組合の存在、守護聖人の祭り、植民地時代から残る教会や家並みが紹介されています。景観の面では、展望台や高さ40メートルを超える滝など、山地の自然と農園が織りなす風景が挙げられています。

一方で、著者らは脅威も指摘しています。日陰樹の多くを占めていたマツが害虫被害で伐採され、コーヒー園が日差しにさらされた例があるほか、輸出価格の下落も生産を難しくしています。さらに若者の国外流出、農家の高齢化、単一栽培の拡大、土地利用の変化、都市化も挙げられました。このシステムはこれまで記録されず、認定や保護も受けてこなかったため、とりわけ弱い立場にあると論文は述べています。

研究が示すこと

著者らは、カカワティケの日陰栽培コーヒーは樹木、野生の生物、栽培する人々が世代を重ねて作り上げてきたシステムであり、世界農業遺産の5つの基準に照らして重要な特徴を備えていると結論づけています。ただし、評価は主に質的な方法によるもので、生物多様性や社会経済面への貢献などを数値で示したものではない点を、著者ら自身が限界として挙げています。

この研究は、これまで十分に記録されてこなかった地域の伝統的なコーヒー栽培を、国際的な農業遺産の枠組みで整理して描き出しました。その価値と、それを取り巻く脅威の両方を示した点に意味があります。

原著論文の著者・所属:Blanca Isolina Guzmán- Cruz、Ever Alexis Martínez- Aguilar、Antonio Santoro(PhD in Forest and Environmental Management Sciences and Technologies Institution : Department of Agriculture, Food, Environment and Forestry (DAGRI) , University of Florence Address: Florence , Tuscany , Italy)、Mauro Agnoletti(Master of Science in Forestry Institution : Department of Agriculture, Food, Environment and Forestry (DAGRI) , University of Florence Address: Florence , Tuscany , Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Blanca Isolina Guzmán- Cruz, Ever Alexis Martínez- Aguilar, Antonio Santoro, et al. Potential GIAHS proposal of the Agroforestry System of coffee crops in the Cordillera del Cacahuatique, Ciudad Barrios, El Salvador. Brazilian Journal of Animal and Environmental Research 2026-10-14. DOI: 10.34188/bjaerv9n4-064. 原著ライセンス:CC BY.