にんじんやほうれん草といった緑黄色野菜には、ルテインやβ-カロテンなどのカロテノイドが豊富に含まれています。カロテノイドは強い抗酸化作用を持つ色素成分で、がんの発生リスクとの関連が示唆されているほか、体内でビタミンAに変換されることから視覚機能の維持や免疫機能の調節にも関わるとされています。こうした成分を食事からどれだけ摂れているかを知る手がかりとして、血液中のカロテノイド濃度を測定する研究が行われてきました。
ただし、これまでの測定法には実施上のハードルがありました。多くの研究では看護師が数十mL単位の静脈血を採取する方法が用いられており、被験者にとって負担が大きいうえ、採血には資格を持つ看護師の確保が欠かせません。この体制上の制約が、研究を進めるうえでのボトルネックになっていたといいます。
指先からの微量採血で測れるか
そこで研究グループが目指したのは、指先に穿刺器具を刺して自己採血する程度の、ごく少量の血液でカロテノイドを測定できる方法の開発です。実験では-75℃で保存していた血漿サンプルを常温で解凍し、内部標準としてβ-アポ-8'-カロテナールを加えたうえで、クロロホルムとメタノールを2対1で混合した溶液を加えてボルテック混合し、1時間静置しました。続いて生理食塩水(0.9%)を加えて遠心分離し、下層のクロロホルム層を回収。残った試料にもクロロホルムを加えて同じ操作を2回繰り返し、抽出液を合わせています。抽出液はN₂ガスで乾燥させたのち、KOHでけん化処理を行い、再び乾燥・再溶解してから逆相クロマトグラフィーで分離・定量する、という手順が取られました。
50マイクロリットルでピークを検出
使用する血漿量を検討した結果、わずか50μL(マイクロリットル、1mLの20分の1程度)の血漿サンプルから、ルテインやβ-カロテンをはじめとするカロテノイドのピークを検出できたと報告されています。検出されたピークは明確で、適切な標準品と組み合わせることで血中カロテノイド濃度を定量できたとされています。穿刺具を用いた自己採血でも50μLほどの血液を得ることは可能であることから、この方法は従来の静脈血採取に比べて被験者の負担を軽減しつつ、簡便かつ効率的に血中カロテノイドを測定できる可能性を示すものだと位置づけられています。
この研究の位置づけ
この発表は日本食品科学工学会大会講演要旨集に掲載予定のもので、著者にはUtane Tsuji氏、Hikari Sakuta氏、Yuichi Ishizaki氏、Yoshimasa Sasahara氏、Yukako Hayashi氏の名が挙がっており、日本の研究機関に所属する著者が含まれています。要旨からは、測定手法の開発とその技術的な有効性の確認が主眼であることがうかがえ、この方法を用いた大規模な集団調査や、実際の健康影響についての結論までは示されていません。一つの研究発表として得られた知見であり、今後さらなる検証が必要な段階だと捉えるのが妥当でしょう。
まとめ
今回の研究では、わずか50μLという微量の血漿サンプルからでも、ルテインやβ-カロテンといったカロテノイドを検出・定量できる可能性が示されました。指先からの自己採血レベルの少量の血液で測定できれば、被験者の負担や看護師確保といった従来の制約を減らしながら、食生活と血中カロテノイド濃度の関係を調べる研究がより行いやすくなることが期待されます。とはいえ、これは技術面での一つの検討結果であり、健康効果そのものを証明するものではない点には注意が必要です。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Utane Tsuji, Hikari Sakuta, Yuichi Ishizaki, et al. 微少量の血漿サンプルからのカロテノイド定量法. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_256.