著者の所属・活動拠点の国は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦です。
掲載誌:Nutrition and Metabolic Insights
ライセンス: CC BY-NC 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
近年、私たちの体の中からごく小さなプラスチックの破片が見つかるという報告が増えています。「マイクロプラスチック」や、さらに小さな「ナノプラスチック」と呼ばれるこれらの粒子は、環境中だけでなく、実は人の体の組織からも検出されるようになってきました。今回紹介するのは、こうしたヒト組織中のマイクロ・ナノプラスチックに関するこれまでの研究を整理し、食事や栄養の観点から曝露(ばくろ)を減らす方法について論じた総説論文です。ニュートリション・アンド・メタボリック・インサイツ誌に2026年07月に掲載予定です。
何を、どのように調べたのか
この研究は、新たに実験を行ったものではなく、2000年から2025年にかけて発表された査読済みの論文を対象にした「ナラティブレビュー(物語的総説)」です。具体的には、ヒトの体内でマイクロ・ナノプラスチックを検出したバイオモニタリング研究や組織検出研究、健康アウトカムとの関連を調べた観察研究、さらに心臓代謝系・生殖系・神経炎症系の経路と曝露を結びつける可能性のあるメカニズム研究を優先的に取り上げています。また、GRADEという手法を用いてエビデンス(科学的根拠)の確実性を評価し、あくまで「メカニズム的にありそうな話」と「実際に確認された事実」を区別して整理している点が特徴です。
研究でわかったこと
この総説によれば、マイクロ・ナノプラスチックはこれまでに血液、肺、胎盤、動脈硬化のプラーク(血管壁にたまった脂質などの塊)、脳、肝臓、精巣の組織から報告されているとされています。
中でも現時点で最も臨床的に注目される人での関連として紹介されているのが、ある観察研究(コホート研究)の結果です。動脈硬化プラーク中にマイクロプラスチックが検出された人では、その後の主要な心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)の発生リスクが高いという関連が報告されており、ハザード比は4.53(95%信頼区間2.00〜10.27)とされています。これは、プラーク中にマイクロプラスチックがあったグループでは、なかったグループに比べて将来の重大な心血管イベントの発生が起こりやすい傾向が観察された、ということを意味します。
ただし論文は、こうした結果を読み解く上での注意点も指摘しています。研究によってプラスチックの量を「粒子の数」で数えるか「ポリマー(高分子)の重さ」で測るかが異なっていること、実験時に外部からの混入(コンタミネーション)を防ぐ管理方法も研究ごとにまちまちであること、そのため研究同士を単純に比較することには限界があることが述べられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文はあくまで既存文献を整理した総説であり、新たな臨床試験を行ったものではありません。著者らは、現時点でのエビデンスの積み重ねから導かれる最も妥当な対策は、まずプラスチックへの曝露そのものを積極的に減らすことだとしています。一方で、食物繊維の摂取や腸のバリア機能を支えること、腸内マイクロバイオーム(腸内細菌叢)への働きかけといった栄養学的なアプローチについては、あくまで補助的な位置づけであり、メカニズム的にはもっともらしいリスク低減策として考えられる、という表現にとどめられています。
重要な点として、こうした栄養的アプローチが体内に既に取り込まれたプラスチックを取り除く「デトックス」効果を持つと実証されたわけではない、と論文は明言しています。心血管イベントとの関連を示した研究も含め、人での用量反応関係(どれくらいの曝露でどの程度の影響が出るかという関係)を示すデータはまだ限られており、よく設計されたヒト対象の臨床試験や、測定方法の標準化が今後必要だとされています。
まとめ
マイクロ・ナノプラスチックが人の様々な組織から検出されるようになってきたこと、そして動脈硬化プラーク中のマイクロプラスチックが心血管イベントのリスク上昇と関連していた可能性が報告されていることは、興味深く、また注視すべき知見です。ただし、この総説自体が強調しているように、現時点での対応としてまず重視されるべきは曝露を減らすことであり、食物繊維や腸内環境を意識した食事は補助的な位置づけの一つの視点として紹介されているにすぎません。体内のプラスチックを取り除く方法として確立されたものではなく、今後さらに質の高い研究が積み重ねられることが期待される分野だと言えそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):体内に潜むプラスチック:ヒト組織中のマイクロ・ナノプラスチックと曝露軽減のための栄養学的視点(ニュートリション・アンド・メタボリック・インサイツ・2026年07月)
著者:Sara Alotaishan(Clinical Nutrition Department, Imam Abdulrahman Bin Faisal University, Saudi Arabia)、Manal Ahmad(Nutrition Department, Suliman Alhabib Hospital, Dubai, United Arab Emirates)、Khaled Sewify(Critical Care Department, King Fahd Military Medical Complex, Dhahran, Saudi Arabia)