「塩分の摂りすぎは体によくない」という話は、健康に関心のある人なら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。実は塩分の摂りすぎ(食事性高ナトリウム)は血圧を上げたり血管を傷つけたりすることを通じて、心臓の血管が詰まったり狭くなったりする「虚血性心疾患(IHD)」の一因になると考えられています。また、腎臓の働きが低下すること(腎機能障害)も同様に虚血性心疾患のリスクに関わるとされています。今回紹介する論文は、こうした食事や腎臓の状態が、世界の主要20か国・地域(G20)における虚血性心疾患の負担にどのような影響を与えているのかを、1990年から2021年までのデータをもとに調べ、さらに2050年までの将来予測を行ったものです。

研究でわかったこと

この研究では、世界の疾病負担に関する大規模データベース「GBD 2021」を用いて、G20諸国における虚血性心疾患のうち、食事性高ナトリウムと腎機能障害が関係すると考えられる死亡数や、病気による生活への影響を示す指標であるDALY(障害調整生命年)を、1990年と2021年で比較する形で分析しています。あわせて、男女差や年齢層、地域・国ごとの分布や年ごとの変化率、さらに高齢化・人口増加・病気の起こりやすさの変化がそれぞれどの程度影響しているかを分解して評価しました。将来予測には、ARIMA(自己回帰和分移動平均)モデルや指数平滑モデルといった統計的な予測手法に加え、ベイズ流の年齢・時代・出生コホートモデルが用いられ、2050年までの見通しが示されています。

その結果、2021年時点でG20諸国において、食事性高ナトリウムおよび腎機能障害に起因する虚血性心疾患は大きな疾病負担を生じさせていたと報告されています。1990年から2021年にかけて、食事性高ナトリウムに起因する死亡数は83.8%、DALYは71.4%増加し、腎機能障害に起因する死亡数は61.8%、DALYは52.3%増加したとされています。一方で、人口構成の違いを調整した「年齢調整死亡率」や「年齢調整DALY率」自体は低下傾向にあったものの、地域差や男女差は依然として残っており、男性や社会開発指数(SDI)が低い地域でより負担が大きい傾向がみられたとのことです。増加の主な要因としては、高齢化と人口増加が挙げられています。将来予測では、2050年に向けて死亡数やDALYの実数は増加が続く一方で、年齢調整率については引き続き低下していくと見込まれています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、GBD 2021という大規模な統計データベースを用いた分析であり、G20諸国全体の傾向をとらえたものです。あくまで一つの研究であり、これをもって結論が確定したわけではありません。また、将来予測はあくまで統計モデルに基づく見通しであり、実際の将来がその通りになるとは限らない点にも留意が必要です。個人の食生活や腎臓の状態と虚血性心疾患リスクとの関係を直接示すものではなく、国・地域レベルの疫学的な傾向を扱った研究である点も踏まえて読むとよいでしょう。

まとめ

この研究では、G20諸国において食事性高ナトリウムおよび腎機能障害に起因する虚血性心疾患による死亡数やDALYが1990年から2021年にかけて大きく増加しており、高齢化と人口増加がその主な要因であることが示唆されています。年齢調整率自体は低下傾向にあるものの、地域差や性差は残っており、著者らは的を絞った予防策や公平な医療の提供などが重要になると述べています。塩分摂取や腎臓の健康と心疾患との関係を考えるうえで、参考になる知見の一つといえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:G20諸国における食事性高ナトリウムおよび腎機能障害に起因する虚血性心疾患負担の傾向と将来予測、1990〜2050年(プロス・ワン・2026年08月)