妊娠中の貧血(妊娠期貧血)は、世界の多くの国で公衆衛生上の課題とされています。貧血というと「鉄分の摂取不足」がまず思い浮かびますが、実際には食生活以外にもさまざまな要因が関わっている可能性があります。今回紹介するのは、ガーナのボノ東部州で行われた、妊婦を対象にした大規模な調査です。この地域はさまざまな妊産婦の健康問題が知られている一方で、鉄分を多く含む食品の摂取不足と妊娠期貧血との関連はこれまで十分に調べられていなかったといいます。

どのように調べたのか

研究チームは、病院を受診した妊婦1430人を対象に横断研究(ある一時点での状況を調べる研究)を実施しました。血液検査でヘモグロビン値を測定するとともに、構造化された質問票を使って食生活や生活習慣などの情報を集めています。貧血の判定には、妊娠の時期(妊娠週数の区分)ごとに異なる基準値が使われ、妊娠初期と後期では11.0 g/dL未満、妊娠中期では10.5 g/dL未満を貧血としました。集めたデータは、統計的な手法(記述統計、カイ二乗検定、ロジスティック回帰分析)を用いて解析されています。

研究でわかったこと

調査の結果、対象となった妊婦の72.2%が妊娠期貧血に該当していたと報告されています。あわせて、63.8%の妊婦が「カオリン粘土」を摂取していたという結果も示されました。カオリン粘土とは食用に用いられることのある白い粘土の一種で、一部地域で妊婦が好んで口にする習慣が知られているものです。

貧血との関連を統計的に分析したところ、いくつかの鉄分を多く含む食品を摂取していないことが、貧血のリスクの高さと関連していました。具体的には、オクラを食べていない妊婦(調整オッズ比4.49)、魚を食べていない妊婦(調整オッズ比3.79)、発酵させたローカストビーンの種子を食べていない妊婦(調整オッズ比3.35)で、それぞれ貧血のオッズが高いという結果が示されています。

さらに、カオリン粘土を頻繁に食べる習慣も貧血と強く関連しており、「よく食べる」人では調整オッズ比9.04、「いつも食べる」人では調整オッズ比8.25と、いずれも高い値が示されました。このほか、家庭の衛生状態が悪いこと(調整オッズ比2.38)、妊娠前の月経過多(調整オッズ比1.82)、駆虫薬の服用頻度が少ないこと(調整オッズ比1.75)、鎌状赤血球形質(遺伝的な血液の特徴の一つ)を持っていること(調整オッズ比1.72)、そして前回の妊娠からの間隔が短いこと(調整オッズ比1.69)も、貧血のリスクの高さと関連する要因として挙げられています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、ガーナ・ボノ東部州の病院を受診した妊婦を対象にした一つの横断研究であり、得られた関連性が直接的な因果関係を示すものではない点に注意が必要です。横断研究は、ある一時点でのデータをもとに要因と結果の「関連」を調べる手法であり、「その食品を食べれば貧血が防げる」といった断定はできません。また、対象は特定の地域・病院を受診した妊婦であるため、結果がほかの地域や集団にそのまま当てはまるとは限りません。研究チームは、母親の栄養状態の改善や妊婦健診(антенатальケア)の充実が、この地域における妊娠期貧血の負担を軽減する可能性があると述べていますが、これも一つの研究から得られた示唆であり、結論が確定したものではありません。

まとめ

今回の研究では、ガーナ・ボノ東部州の妊婦の多くが貧血の基準に該当しており、その背景には鉄分を多く含む食品の摂取不足だけでなく、カオリン粘土の摂取習慣、家庭の衛生環境、月経過多の既往、駆虫の頻度、遺伝的な血液の特徴、妊娠間隔の短さなど、複数の要因が関連していることが示されました。妊娠期貧血が単一の原因ではなく、栄養面と非栄養面の両方が絡み合った課題であることを示すデータとして、興味深い報告といえるでしょう。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:妊娠期貧血の栄養的および非栄養的相関因子の評価:ガーナ・ボノ東部州における公衆衛生介入のための病院ベース横断研究(ヘルス・サイエンス・レポーツ・2026年08月)