生後間もない赤ちゃんに母乳だけを与える「完全母乳育児」は、子どもの成長や生存、そして母親自身の健康にとっても重要とされる育児習慣です。しかし発展途上国の多くでは、その実施率が十分ではないと指摘されており、乳幼児の病気や死亡のリスクにも関わる課題とされています。今回紹介するのは、ネパールのビラトナガル都市部で、母乳育児の実態とそれに関連する要因を調べた研究です。

どんな研究だったのか

この研究では、ネパールのビラトナガル都市部に住む、生後6~23か月の子どもを持つ母親202人を対象に、横断研究という方法で調査が行われました。対象者の選び方には「人口規模に比例した抽出(PPS)」という手法が用いられています。調査員が対面で面談を行い、構造化された質問票を使って、出産後から現在までの授乳の実態について尋ねました。なお、調査に先立ち、参加者一人ひとりから書面による同意が得られています。

研究でわかったこと

対象となった母親202人の平均年齢は25.65歳(標準偏差4.15)でした。このうち、出産後早い時期に母乳育児を始めていたと回答した母親はおよそ4分の1にとどまりました。また、生後早い時期に母乳以外のものを与えていたケースでは、「白湯と母乳」の組み合わせが53.5%と最も多く、次いで「乳児用ミルク(人工乳)」が35.6%を占めていたと報告されています。

完全母乳育児に関する知識が十分にあると判定された母親は、全体の21.8%にとどまりました。実際に完全母乳育児を実施していたと報告した母親は37.6%で、その期間の中央値は4か月だったとされています。混合栄養(母乳以外のものも併用する育児)を選んだ主な理由としては、「母乳の量が足りないと感じたこと」が最も多く、次いで「仕事」が挙げられました。

さらに詳しい分析(多変量解析)の結果、大家族・拡大家族で暮らす母親(オッズ比1.95)、非識字の母親(オッズ比2.90)、そして授乳に関するトラブルを経験していない母親(オッズ比8.23)で、完全母乳育児を行っている割合が統計的に有意に高いという関連が示されました。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、ネパールの一都市における202人の母親を対象とした横断研究であり、ある一時点での状況を捉えたものです。そのため、ここで示された関連が因果関係を意味するとは限らず、他の地域や集団にそのまま当てはまるとも限りません。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。研究チームは、国や地域レベルでの栄養改善の取り組みが行われているにもかかわらず、完全母乳育児の実施率や関連知識が低い水準にとどまっていたことから、妊婦健診(ANC)や産後健診(PNC)の機会を通じた母親への相談支援の必要性、また授乳トラブルへの対応支援が実施率の向上につながる可能性を指摘しています。

まとめ

今回紹介した研究では、ネパールのビラトナガル都市部において、生後6~23か月の子どもを持つ母親のうち完全母乳育児を実施していたのは37.6%であり、大家族での同居、非識字、そして授乳トラブルの有無が実施率と関連していたことが示されました。母乳育児をめぐる状況は地域や家庭環境によってさまざまであり、こうした調査結果は、母親への支援のあり方を考える上での一つの手がかりになると言えそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ネパール、ビラトナガル都市部における生後6~23か月児の母親における完全母乳育児とその関連要因(プロス・ワン・2026年08月)