日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:npj Science of Food
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
近年、農場動物の福祉(アニマルウェルフェア)は、持続可能なタンパク質生産を考えるうえで重要な要素として注目されています。採卵鶏の飼育方法についても、ケージ飼育からケージフリー飼育への移行が進みつつあります。ケージフリー飼育は、鶏がより広いスペースや設備を利用でき、自然な行動を取りやすくなる一方で、生産コストや卵の価格が上がる傾向があります。しかし、こうした飼育環境の違いが、卵の味や栄養面での付加価値につながるのかどうかはこれまで明らかになっておらず、そのことがアニマルウェルフェアに配慮した飼育方法の普及を妨げる一因になっている可能性があるといいます。今回紹介する研究は、飼育環境の違いが採卵鶏の代謝を通じて卵の味にどのような差を生むのかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、人による官能評価(味の感じ方を評価する手法)と、メタボロミクス(体内の代謝物を網羅的に調べる手法)、トランスクリプトミクス(遺伝子の発現状況を網羅的に調べる手法)を組み合わせ、卵と鶏の肝臓を対象に、ケージ飼育とケージフリー飼育の卵を比較しました。
その結果、ケージ飼育の卵は、脂質に関連した代謝プロファイルを反映しているとみられる「クリーミーさ」が強く感じられる特徴があったと報告されています。一方、ケージフリー飼育の卵は、アミノ酸代謝と関連する「うま味」や「甘み」に関する特徴がより強く感じられたとされています。これらの結果から、飼料の組成とは独立して、飼育環境という物理的な条件そのものが、採卵鶏の体内の代謝を変化させ、卵の成分ひいては味の違いにつながっている可能性が示唆されています。さらに、こうした味の違いは調理の過程によっても変化することが示され、飼育方法の異なる卵は、それぞれ異なるタイプの料理に向いている可能性があるとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、卵の味の違いを飼育環境という切り口から捉えた一つの研究であり、これによって「どちらの卵がよい」といった結論が確定したわけではありません。味の感じ方には個人差があり、また今回の結果が他の鶏の品種や飼育条件、地域でも同様に見られるかどうかは、この要旨の範囲では述べられていません。研究には日本の研究機関に所属する著者が含まれており、東京農工大学をはじめ、長崎県農林技術開発センター、京都大学、日本獣医生命科学大学、麻布大学、鹿児島大学の研究者が参加しています。
まとめ
今回の研究では、採卵鶏の飼育環境(ケージ飼育かケージフリー飼育か)が、鶏自身の代謝の変化を介して卵の味の特徴に影響を与える可能性があると報告されました。ケージ卵ではクリーミーさ、ケージフリー卵ではうま味や甘みがそれぞれ強く感じられる傾向があるとされ、飼料が同じであっても飼育環境そのものが卵の風味に関わりうることが示唆されています。今後、さらなる研究によって、こうした違いがどのような条件で見られるのか、料理への活用も含めて明らかにされていくことが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):飼育環境は採卵鶏の代謝変化を通じて卵の味を左右する(npjサイエンス・オブ・フード・2026年08月)
著者:N. Shimura(Department of Biological Production, Tokyo University of Agriculture and Technology, Fuchu, Japan)、Eiki Asagi(Department of Biological Production, Tokyo University of Agriculture and Technology, Fuchu, Japan)、Shogo Matsunaga(Nagasaki Agricultural and Forestry Technical Development Center, Shimabara, Japan)、Shozo Tomonaga(Division of Applied Biosciences, Graduate School of Agriculture, Kyoto University, Kyoto, Japan)、Yuito Kamiyama(Department of Biological Production, Tokyo University of Agriculture and Technology, Fuchu, Japan)、Tadahiro Matsubara(Department of Biological Production, Tokyo University of Agriculture and Technology, Fuchu, Japan)、Jun‐ichi Shiraishi(Faculty of Applied Life Science, Nippon Veterinary and Life Science University, Musashino, Japan)、Chihiro Kase(School of Veterinary Medicine, Azabu University, Sagamihara, Japan)、Daichi Ijiri(The United Graduate School of Agriculture, Forestry and Fisheries, Kagoshima University, Kagoshima, Japan)、Tsuyoshi Shimmura(Department of Biological Production, Tokyo University of Agriculture and Technology, Fuchu, Japan)