著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Antioxidants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

肌の健康や見た目は、塗るスキンケアだけでなく、栄養、体内の酸化と抗酸化のバランス(酸化還元バランス)、免疫の状態、腸と肌の関わりにも左右されると考えられるようになっています。そのため、食品から肌を支えようとする取り組みが広がっています。著者らは、この中で食用きのこが独特の位置にありながら十分に検討されていないと指摘しています。きのこは日常的に食べられている食品で、エルゴチオネイン、多糖類やβ-グルカン、コルジセピン、フェノール類、トリテルペノイドといった、肌の生物学と関わりうる成分を多く含みます。

一方、これまでの研究の多くは、きのこを肌に塗る化粧品素材として扱うか、成分を取り出した単一化合物として扱ってきました。著者らによると、きのこを「食べる食品」として捉え、栽培や加工で成分がどう変わり、消化・吸収を経て肌に関係する部位まで届くのかという視点は、ほとんど検討されていません。この総説は、成分がきのこの中でつくられる段階から、加工、口からの摂取、肌に関する証拠、安全性、実用面の課題までを一つの流れとして整理し、証拠の空白をはっきりさせることを目的としています。

どのように調べたか

著者らは、Web of Science、Scopus、PubMedを用いて、2000年1月から2026年6月29日までに発表された文献を検索しました。さらに、引用文献をさかのぼる方法や、加工、現実的な摂取量、口からの摂取、安全性などに絞った追加検索も行いました。最終的に106件の文献をもとに議論しています。ただし、決められた手順で網羅的に集める系統的レビューやメタ解析とは異なる、構造化された文献整理であると論文は明記しています。

整理の軸として、著者らは「経路の規律」という原則を掲げています。細胞や動物で作用の仕組みがもっともらしく見えても、それは人が食べて効果があることと同じではありません。また、肌に塗った研究の結果を、そのまま食べた場合に当てはめることはできません。食べて肌によいと言うには、消化、吸収、全身への分布、腸を介した働きといった経路に沿った証拠が必要だという考え方です。この原則を具体的な評価に落とし込むため、著者らは証拠を5段階に分けています。順位づけの基準は、成分をどの経路で摂取・適用したか(口から摂ったのか、肌に塗ったのかなど)、素材がどれだけ明確に定義されているか、評価項目の確かさ、そして実際に体に取り込まれたことが確認されているかです。

主な報告内容

成分ごとに見ると、著者らはエルゴチオネインを、化学的な正体がはっきりした単一の化合物で、品質管理や規格化に向いた成分として位置づけています。この成分には、体内で運ぶ専用の輸送体(OCTN1)があり、肌に関係する細胞にもたまりうるとされます。総説では、乾燥重量1グラムあたりの含有量として、シイタケとヒラタケでおよそ0.4〜2.7ミリグラム、ヤマドリタケ(ポルチーニ)で最大約7ミリグラムという報告が紹介されています。マッシュルームではかなり低く、白キクラゲでは1グラムあたり数十マイクログラムにとどまります。ただし著者らは、ふだんの食事できのこを食べた量が臨床試験で使われる量に届くことを意味するわけではない、と注意を加えています。

多糖類やβ-グルカンは、ほとんどがそのままの形では吸収されません。腸内細菌による発酵や、腸の免疫による認識を介して働く可能性がある、という見方が示されています。その働きは、分子の大きさ、枝分かれ、電荷などの構造によって変わりうるとされます。冬虫夏草の一種サナギタケに由来するコルジセピンや、霊芝などのトリテルペノイドについては、細胞や動物での作用の仕組みを示す研究はあるものの、口から摂った場合の肌への効果を示す人での証拠は乏しいか、ほぼないと著者らは評価しています。フェノール類は含有量が比較的少なく、細胞壁に結びついた分もあるため、測定方法によって値が変わりやすい成分とされています。

著者らがとくに強調しているのは、きのこの成分量が固定された値ではないという点です。種や系統、栽培の基材、乾燥、加熱調理、抽出、保存によって成分の量は変わります。たとえばエルゴチオネインは、適切な乾燥ではヒラタケで高い量が保たれる一方、マッシュルームの缶詰加工では大きく失われたという報告が紹介されています。著者らは、「きのこ抽出物」は加工の経路と指標成分の回収率を明示して初めて再現できる単位になる、と述べています。

供給の面では、遺伝子を改変した微生物でエルゴチオネインをつくる研究も整理されています。大腸菌で1リットルあたり7.2グラム、酵母の一種ヤロウイア・リポリティカで7.3グラムといった、グラム単位の生産量の報告があります。ただし著者らは、生産量が高いことと、食品素材として受け入れられることは別の問題だとしています。規制上の承認、不純物の管理、消費者の受け止め方などを、個別に評価する必要があるといいます。

この総説が示すこと

この総説から見えてくるのは、食用きのこには肌に関係しうる多様な成分が含まれる一方で、「食べて肌に効く」と言えるだけの人での証拠はまだ少ない、という現状です。著者らは、この証拠の不足そのものを整理の出発点に据えました。そのうえで、成分がどう加工され、どれだけ体に取り込まれ、肌のどの指標に結びつくのかを順に確かめるための、加工と摂取経路を意識した枠組みを提示しています。

原著論文の著者・所属:Caizhen Wang(National Engineering Research Center of Edible Fungi, Key Laboratory of Applied Mycological Resources and Utilization, Ministry of Agriculture, Institute of Edible Fungi, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Ying Wang(National Engineering Research Center of Edible Fungi, Key Laboratory of Applied Mycological Resources and Utilization, Ministry of Agriculture, Institute of Edible Fungi, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Hongyu Chen(National Engineering Research Center of Edible Fungi, Key Laboratory of Applied Mycological Resources and Utilization, Ministry of Agriculture, Institute of Edible Fungi, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Bing Li(National Engineering Research Center of Edible Fungi, Key Laboratory of Applied Mycological Resources and Utilization, Ministry of Agriculture, Institute of Edible Fungi, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Youran Shao(National Engineering Research Center of Edible Fungi, Key Laboratory of Applied Mycological Resources and Utilization, Ministry of Agriculture, Institute of Edible Fungi, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Gen Zou(National Engineering Research Center of Edible Fungi, Key Laboratory of Applied Mycological Resources and Utilization, Ministry of Agriculture, Institute of Edible Fungi, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Caizhen Wang, Ying Wang, Hongyu Chen, et al. Edible Fungi and Skin Redox Homeostasis: Bioactive Diversity, Processing, Oral Exposure, and Evidence Gaps. Antioxidants 2026-09-02. DOI: 10.3390/antiox15091111. 原著ライセンス:CC BY.