玉ねぎを刻んで涙が出るとき、私たちが覚えているのは辛みのほうです。けれど玉ねぎは、れっきとした甘い野菜でもあります。

8月のいま、店頭の玉ねぎは春先の新たまねぎから切り替わり、夏から秋冬にかけて出回る北海道産の貯蔵たまねぎが主流になる時期です。農林水産省の作物統計によれば、2024年産の収穫量は全国108万2,480tのうち北海道が75万2,600t。およそ7割をひとつの産地が担っている計算で、まさに食卓の玉ねぎの顔といえる存在です。

その甘さの正体を成分表でたどると、意外な主役が見えてきます。たまねぎ(生)の100gに含まれる糖は、ぶどう糖2.7g、果糖2.6g、しょ糖0.9g。北海道産として個別の収載はないので、一般的なたまねぎの値です。いちばん少ないのが、しょ糖——つまり砂糖の主成分でした。甘みといえばまず砂糖を思い浮かべますが、玉ねぎの甘さを支えている最も多い糖は、ぶどう糖だったのです。

砂糖ほど甘くない糖が、主役を張る

ぶどう糖は、脳など特定の組織が主なエネルギー源として使う単糖です。甘さの強さでいえば砂糖の60%程度とされ、それ単体を取り出せば、決して強烈な甘みではありません。それでいて浸透率が高く、砂糖漬けなどに使われる糖でもあります。

しかも玉ねぎは、100gのうち水分が90.1g。糖をたっぷり抱えた野菜というわけでもありません。強くない甘さの糖が、多くない量で、それでも辛みの奥から立ちのぼってきます。玉ねぎの甘さは、そんな控えめな成り立ちの上にあります。

甘みを引き出す、切り方と火の入れ方

じっくり加熱すると辛みがとんで甘みが引き立つといわれるのが、この野菜の面白いところです。繊維を断つように切ってから炒めると甘みが増すともいわれ、くし切りでも薄切りでも、まずは焦らず火を入れるのがこつになります。スープや煮込みに加えれば、砂糖を控えめにしても満足感のある味わいになります。反対に、薄切りにして水にさらしたサラダなら、甘さと辛みのコントラストをそのまま楽しめます。

貯蔵性の高い北海道産は、皮がしっかりしていて日持ちがよいのも魅力です。丸ごと皮つきのままポリ袋に入れて冷蔵しておけば常備野菜として長く使えますし、使い切れないぶんは切って冷凍しておくと火の通りが早まり、あめ色に炒めるときの時短にもつながります。

甘さは、火を入れた分だけ出てくる

スーパーでよく見かける1個あたりの目安は約200gです。その1個の中には、砂糖ほど甘くはない糖が、果糖やしょ糖を抑えて甘さの主役として入っています。ただし切った直後に前へ出てくるのは、やはり辛みのほうです。甘みははじめから入っているのに、火が通って辛みが抜けるまで表に出てきません。あめ色になるまで炒めるのが面倒に思える日でも、あと数分だけ火にかける価値があるのは、そのためです。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらきの記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省