日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Aquaculture Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

養殖現場では感染症による大量死が大きな課題であり、日本の重要な養殖魚であるブリでも、2023年の被害額は約500億円と見積もられていると著者らは紹介しています。感染症を防ぐ手段としてワクチン接種が広く使われていますが、魚では抗体応答の大きさや持続が哺乳類ほど強くないことが知られています。

研究チームはこれまでに、脱脂したカイコのさなぎ(DSP)を餌に加えるとブリの自然免疫(生まれつき備わる、病原体一般に素早く働く防御のしくみ)が高まり、寄生虫に対する生存率が改善することを報告してきました。ただし、ごく少量の添加がワクチン接種後の「液性免疫」(抗体をつくって病原体に対抗するしくみ)や炎症応答にどう働くかは分かっていませんでした。そこで本研究は、ブリに病原細菌ビブリオ・アンギラルムのホルマリン不活化菌(FKC、殺菌処理して増殖できなくした菌体。ワクチンの抗原として使われる)を接種し、DSPを加えた餌の影響を調べることを目的としました。

調べた方法

著者らは平均体重約74gのブリ112尾を用い、DSPを含まない対照飼料と、DSPを0.001%、0.01%、0.1%加えた飼料の4種類を与えました。2週間の給餌の後、各飼料区の一方の水槽の魚にFKCを腹腔内投与し、もう一方にはPBS(生理的な緩衝液)を投与して比較対象としました。接種から1週間後と2週間後に採血と組織採取を行っています。

抗体量を測るため、研究チームはまずブリの血清からIgM(魚の血中で主要な抗体)を精製し、それをマウスに免疫して専用の抗体を作製しました。これを用いて、抗原に結合するIgM量をELISA法で測定し、あわせて血清が細菌を凝集させる力(凝集抗体価)を調べています。また頭腎(魚で免疫細胞がつくられる主要な器官)の免疫関連遺伝子の発現をRT-qPCRで測定しました。さらに、DSPを与えた魚の脾臓から白血球を取り出してFKCで刺激し、0・1・3・6・12時間後のサイトカイン(免疫細胞どうしの情報伝達を担うタンパク質)遺伝子の発現の移り変わりを調べる、体外(ex vivo)での実験も行っています。

なお著者らは、飼料と接種条件の各組み合わせが1水槽ずつであったため、水槽ごとの影響と飼料の影響を統計的に切り分けられない点を本研究の限界として明記しています。

報告された主な結果

ワクチン接種1週間後には、どの群でも血清のIgM量が上昇し、群間の差はありませんでした。しかし2週間後には違いが現れ、対照群ではIgM量が減少傾向を示したのに対し、0.01%と0.1%のDSPを与えた群ではやや増加し、対照群より有意に高い値だったと報告されています。細菌を凝集させる抗体価も、2週間後にはDSP群のほうが対照群より高い傾向を示しましたが、統計的に有意な差ではありませんでした。

頭腎の遺伝子発現では、接種2週間後にDSPを与えた魚で、免疫グロブリン軽鎖(igl)と抗原提示に関わるmhc2βの発現が高まっていました。一方で、免疫細胞の分化に関わるtbx21やprdm1の発現は対照群より低下していました。著者らは、これらの変化が遺伝子ごと・時期ごとに異なるものであり、免疫関連遺伝子が一律に高まったわけではないと述べています。

脾臓白血球を用いた体外実験では、0.01%と0.1%のDSP群で刺激6時間後のil-1β(炎症を促すサイトカイン)の発現が対照群より有意に高くなりました。一方、同じく炎症を促すtnf-αは、対照群では12時間後に最も高くなったのに対し、DSP群では12時間後の発現が有意に低い値でした。また炎症を抑える働きを持つil-10は、0.1%DSP群で6時間後に対照群より有意に高い値を示しています。

この研究が示すこと

著者らは、これらの結果から、ごく少量のDSPを餌に加えることが、ワクチン接種後の液性免疫と炎症応答の両方を協調的に調節しうると考察しています。初期の免疫応答は素早く立ち上がる一方で、過剰な炎症の増幅は抑えられ、抗体産生に関わる応答は接種2週間後という後半の段階でより明確になる、という像が示されました。

昆虫由来の素材はこれまで飼料タンパク質源としての大量配合が主に検討されてきましたが、本研究は、微量添加が免疫の働き方そのものに与える影響を、生体内と体外の実験を組み合わせて分子レベルで捉えた報告といえます。

著者:Saita Akanuma(Graduate School of Agriculture, Ehime University, 3-5-7, Tarumi, Matsuyama, Ehime, 790-8566, Japan)、Ibnu Bangkit Bioshina Suryadi(Department of Fisheries, Faculty of Fisheries and Marine Sciences, Universitas Padjadjaran, Jalan Ir. Soekarno KM 21, Sumedang, 45363, Indonesia)、Chiemi Miura(Graduate School of Agriculture, Ehime University, 3-5-7, Tarumi, Matsuyama, Ehime, 790-8566, Japan)、Takeshi Miura(Graduate School of Agriculture, Ehime University, 3-5-7, Tarumi, Matsuyama, Ehime, 790-8566, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Saita Akanuma, Ibnu Bangkit Bioshina Suryadi, Chiemi Miura, et al. Dietary defatted silkworm pupae modulate humoral and inflammatory immune responses following vaccination with formalin-killed Vibrio anguillarum in yellowtail (Seriola quinqueradiata). Aquaculture Reports 2026-09-03. DOI: 10.1016/j.aqrep.2026.103811. 原著ライセンス:CC BY.