肉の話題にのぼりにくい、乳酸という成分

肉を選ぶとき、私たちはたいてい脂の量やたんぱく質に目を向けます。売り場でも食卓でも、その二つは話題になりやすい成分です。けれども肉には、そうした主役の陰で、糖の代謝にかかわる有機酸も含まれています。そのひとつが乳酸で、肉そのものに含まれる成分として意識する機会は、あまり多くないほうだと思います。

今回は、性格の異なる三つの肉を並べてみます。鶏の部位であるささみ、豚肉を原料とする加工品のウインナーソーセージ、そして牛の横隔膜です。食卓でおなじみの3つ、いずれも「ゆで」という同じ状態でそろえ、可食部100gあたりの乳酸量を見ていきます。まずは、乳酸とはどういう成分なのかというところから始めましょう。

乳酸は、糖を使う過程で生まれる有機酸

乳酸は、体が糖をエネルギーとして使っていく過程でできる有機酸です。糖が体の中で分解されていく道すじは解糖と呼ばれますが、乳酸はその途中に現れる物質で、筋肉や心臓などではこれ自体がエネルギー源として使われるとされています。

できた乳酸は、そこで終わりではありません。体の中で生じた乳酸も、食べ物から取り込まれた乳酸も、肝臓へ運ばれていきます。肝臓では、糖を作り直す道すじを通って、いったんグリコーゲンという貯蔵の形にされたり、あるいは血液中を巡る糖であるブドウ糖に戻されたりするといわれています。この行き来は乳酸回路(コリ回路)と呼ばれています。

つまり乳酸は、糖からできて、また糖へ戻っていく途中の姿をした物質だということになります。そうした成分が、食品としての肉にどれだけ含まれているのか。それを見るために、今回の三つがそれぞれどういうものなのかを先に押さえておきます。

ささみは、むね肉の奥の胸の骨に張り付いた部位

最初のささみは、鶏のむね肉の奥にあり、竜骨と呼ばれる胸の骨に張り付いている部位です。形が笹の葉に似ていることから、この名前が付いたといわれています。

鶏肉として市場に出ているものの大部分は若どり(ブロイラー)で、肉専用の交雑種を肥育したものです。地鶏や特産鶏は品種や飼料、飼育期間などを定めて生産されており、ブロイラーとは成分値が異なる場合もあるとされています。今回見る値は若どりのささみのもので、しかもすじを除いた状態のものです。すじを取り除いた肉の部分だけを見ている、ということになります。

ウインナーの名は、腸の種類か太さで決まる

二つめのウインナーソーセージは、部位ではなく加工品です。名前の区分の仕方が少し変わっていて、日本では「羊腸を使用したもの」または「製品の太さが20mm未満のもの」と区分されています。つまり、羊腸に詰めたものだけを指すわけではありません。実際に使われるケーシング(詰める皮)には、牛腸・豚腸・羊腸のほか、再生コラーゲンやセルロース、合成フィルムなども用いられるとされています。

同じ基準の中で、豚腸を使用したものや太さ20mm以上36mm未満のものはフランクフルトソーセージ、牛腸を使用したものや太さ36mm以上のものはボロニアソーセージと呼び分けられます。腸の種類か、太さか——そのどちらかで名前が決まるという、日本での区分の仕方です。

ソーセージ類は、原料肉のほかに結着材料、調味料、香辛料などが用いられるため、製品ごとの成分の変動が大きい食品でもあります。一本の肉の部位を切り出したささみとは違い、複数の材料を混ぜて詰め、製品として仕上げたものだという点が、成分を見るうえでの前提になります。

横隔膜は骨格筋、それでも商慣行では副生物

三つめの横隔膜は、少し込み入った位置づけの部位です。牛の副生物とは、心臓・肝臓・じん臓・胃腸などの内臓に、舌・尾・横隔膜を合わせた呼称です。ところが横隔膜は、本来は内臓ではなく骨格筋であり、商慣行上そこに分類されているという部位です。「はらみ」「さがり」とも呼ばれます。

また、副生物は通常、牛の品種を特定して流通していないとされています。

こうして見ると、三つはそれぞれ、切り出した部位そのもの、複数の材料から作った加工品、商慣行によって副生物に入る筋肉、という異なる性格を持っています。この違いを頭に置いたうえで、数値を見ていきます。

同じ「ゆで」でそろえた三つの数値

ここから見る値は、いずれも日本食品標準成分表(八訂)で測られた可食部100gあたりのもので、三つとも食品の状態は「ゆで」でそろえてあります。生と加熱後を混ぜて比べるのではなく、同じ調理状態、同じ重さという条件で並べた比較です。

食品乳酸(g)
鶏(若どり・ささみ・ゆで)0.6
豚(ウインナーソーセージ・ゆで)0.3
牛(副生物・横隔膜・ゆで)0.2

最も多いのは鶏のささみで0.6g、最も少ないのは牛の横隔膜で0.2g、その開きは0.4gです。これが三つの中で最も大きな違いになります。ささみとウインナーソーセージのあいだは0.3g、ウインナーソーセージと横隔膜のあいだは0.1gで、部位そのものであるささみが、加工品と副生物の二つをいずれも上回る並びになりました。

ここで気をつけておきたいのは、これらの差が何を表しているかです。0.3gや0.4gという数字は、同じ重さの別々の食品どうしを比べたときの差であって、ゆでたことによって増えた量や減った量ではありません。それぞれの食品を100gずつ用意して、そこに含まれる乳酸を比べたらこうなった、という読み方をする数値です。

また、この表は今回取り上げた三つを並べたものであり、肉類全体の順位でも、食品の優劣を表すものでもありません。※特定の食品の効果を示すものではありません。

乳酸は、糖が使われていく途中で生まれ、また糖へ戻っていく有機酸でした。胸の骨に張り付いた部位、羊腸か太さで名前が決まる加工品、骨格筋でありながら副生物に入る部位——成り立ちのまるで違う三つを同じ100gのものさしに載せてみると、ふだん脂やたんぱく質の話に隠れている成分にも、それぞれの数字があることが見えてきます。

※食材・産地の参考資料:鶏肉の部位(独立行政法人家畜改良センター 兵庫牧場 まめ知識)

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)増補2023年(文部科学省)のデータと食品説明をもとに作成しました。

栄養素のはたらきの記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省