この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:アルミニウム系添加物に代わる選択肢を探る
中国で親しまれている「酸辣粉(サンラーフン)」は、サツマイモでんぷんを主原料とする麺料理です。手軽に食べられる即席タイプの需要が高まる中、麺のかたまり(麺塊)を乾燥させずに水分を含んだまま仕上げる「生タイプ即席でんぷん麺塊」が注目されています。乾燥工程を省くことで、多くのエネルギーを使わずに済み、でんぷんのゲル網目構造の収縮や食感の劣化を避けられ、食べる前の湯戻し時間も短くできるからです。
ただし、この製法には避けられない工程があります。麺どうしを1本ずつ分離させるために凍結を行う必要があり、その際に氷の結晶が大きく育つとでんぷんのゲル網目が傷つき、麺が切れやすくなったり、ゆでたときに成分が湯に流れ出る量(ゆで損失)が増えたりします。そこで従来はミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム)が品質改良剤として加えられてきました。しかし論文が引用する先行研究では、アルミニウムを過剰に摂取すると骨や神経の健康に関わる問題につながる可能性が指摘されています。
そこで著者らは、褐藻から得られる多糖類であるアルギン酸ナトリウムをミョウバンの代替として使えるかを検討しました。アルギン酸ナトリウムは比較的安価で、ゲル化や増粘の働きに優れ、凍結と解凍を繰り返しても比較的安定しているとされる素材です。研究チームは、添加量を変えながら麺塊の品質がどう変わるかを調べ、さらにその理由を構造の面から説明することを目的としました。
何をどう調べたか
研究チームは、工業的な製造手順を実験室規模に直して麺塊を作りました。サツマイモでんぷんの一部を熱湯で糊状にしてから残りのでんぷんと混ぜ、生地を作ります。この生地を穴の開いたひしゃくから約30cmの高さで沸騰水へ落として麺にし、冷却・成形・熟成を経て−7℃で16時間凍結、その後解凍して真空包装するという流れです。
比較したのは、添加物を入れない対照群、ミョウバン0.3%を加えた群、そしてアルギン酸ナトリウムを0.1%・0.2%・0.3%・0.4%加えた4群です(いずれもでんぷん全量に対する重量比)。最終製品の水分含量はどの群も約56%にそろえられ、群間に有意な差はありませんでした。
評価は品質と構造の両面から行われました。品質面では、生地のかたさや粘りの性質を測るレオロジー測定、湯戻し時間、ゆで損失、そして食感(かたさと「まとまりやすさ」を示す凝集性)を調べました。構造面では、複数の分析手法を組み合わせる「マルチスケール」のアプローチが取られています。赤外分光法とラマン分光法ででんぷん分子の短い範囲での並び方の整い具合を、X線回折で結晶構造の量を、示差走査熱量測定で加熱時の性質を、電子顕微鏡で断面の様子を観察し、さらに核磁気共鳴で麺の中の水の状態を調べました。
報告された主な結果:0.2%という適量
著者らの報告によれば、アルギン酸ナトリウムの効果は添加量に依存し、0.2%のときに最もはっきりとした改善が見られました。
ゆで損失は、添加物なしの対照群で0.25%でしたが、0.2%添加群では0.11%まで下がり、対照群の44%にあたる値となりました。ミョウバン0.3%添加群でも0.12%まで下がっています。ただし湯戻し時間については両者の方向が逆でした。ミョウバンを加えると対照群より湯戻し時間が明らかに長くなりました。論文はその理由として、アルミニウムイオンが水中で変化してできる水酸化アルミニウムのコロイドがでんぷんの分子鎖を吸着し、緻密なゲル網目を作るため水が入りにくくなると説明しています。一方アルギン酸ナトリウムを加えると湯戻し時間は最初短くなり、その後横ばいになりました。アルギン酸ナトリウム分子には水と結びつきやすい水酸基が多く、水が麺の内部へ速く入り込むのを助けるためと考えられています。
食感では、ミョウバン添加群のかたさが2090gで、対照群(1694g)やアルギン酸ナトリウム添加群(1492〜1683g)より有意に高い値になりました。つまりミョウバンは麺を明確にかたくします。これに対しアルギン酸ナトリウムは0.1〜0.4%のいずれでもかたさを有意に変えませんでした。一方で凝集性(麺のまとまりのよさ)は0.2%添加群が0.97で最も高く、ミョウバン群の0.95がそれに続きました。対照群は0.92、0.4%添加群は0.90でした。著者らは、0.2%のアルギン酸ナトリウムはかたさを大きく変えないまま凝集性を高めており、麺塊の構造的なまとまりを改善している可能性があると述べています。
生地そのものの性質でも0.2%が際立ちました。生地に力を加えたときに構造が壊れずに保たれる範囲(線形粘弾性領域)は、0.2%添加群とミョウバン群だけが対照群より有意に広がりました。また生地の強さの指標では、0.2%添加群は生地の強さを高める一方、外から加える力の速さに対する敏感さは変えませんでした。これに対しミョウバンは強さを高めると同時に敏感さも増加させました。添加量を0.3%、0.4%へ増やすと生地の網目のまとまりは逆に弱まり、力の速さへの敏感さが増しました。著者らは、アルギン酸ナトリウムが多すぎると分子が込み合い、でんぷん同士の相互作用が妨げられる可能性を挙げています。
構造分析でも同じ傾向が確認されました。でんぷん分子の短い範囲での整い具合を示す赤外分光の指標は、アルギン酸ナトリウムの増加とともに0.664から0.732へ上がった後、0.640へ下がりました。X線回折による結晶構造の量も、0.2%添加群では対照群より有意に増えましたが、0.4%添加群では逆に明らかに減りました。ラマン分光では、分子の並びが整っているほど狭くなるとされるピーク幅が0.2%添加群で最も小さくなりました。著者らはこれらを総合し、適量のアルギン酸ナトリウムはでんぷんの分子鎖の向きをそろえて構造の秩序を高め、階層的な構造のまとまりを改善し、でんぷんとアルギン酸ナトリウムがより均一なゲル網目を作るのを助け、さらに凍結時の氷結晶による構造の損傷を軽減すると報告しています。なお、麺塊のでんぷんは原料のサツマイモでんぷん(結晶構造の量31.92%)と比べると結晶構造がごくわずか(2.57〜6.10%)で、加熱による糊化と冷却による再結晶を経た結果、大部分が秩序の低い状態になっていることも示されました。
この研究が示すこと
この研究が示しているのは、同じ「品質改良」という言葉でも、添加物によって効き方の中身が違うということです。ミョウバンは麺を緻密にしてゆで損失を減らしますが、その緻密さゆえに湯戻しに時間がかかり、麺もかたくなります。適量のアルギン酸ナトリウムは、湯戻し時間を短くしながらゆで損失を抑え、かたさを大きく変えずにまとまりを高めるという、即席麺に望ましい組み合わせを実現していました。
同時にこの研究は、多ければよいわけではないことも明確にしています。0.3%、0.4%と増やすと生地の網目は弱まり、でんぷんの構造の秩序も低下しました。効果は添加量に左右され、適量を見極めることが鍵になります。
著者らは、これらの結果がでんぷんとアルギン酸ナトリウムの相互作用について仕組みの面からの理解をもたらし、生タイプ即席でんぷん麺塊の品質改善においてアルギン酸ナトリウムがミョウバンの機能的な代替となる可能性を示すものだとまとめています。
著者:Hua Zhang(Institute of Agricultural Products Processing, Chongqing Academy of Agricultural Sciences, Chongqing 401329, China)、Ling Zhang(Institute of Agricultural Products Processing, Chongqing Academy of Agricultural Sciences, Chongqing 401329, China)、Guohua Zhao(Chongqing Academy of Chinese Materia Medica, Chongqing University of Chinese Medicine, Chongqing 400065, China)、Shixiong Yang(Institute of Agricultural Products Processing, Chongqing Academy of Agricultural Sciences, Chongqing 401329, China)、梁业兴 Liang Yexing(Institute of Agricultural Products Processing, Chongqing Academy of Agricultural Sciences, Chongqing 401329, China)、Xiaofeng Zeng(Institute of Agricultural Products Processing, Chongqing Academy of Agricultural Sciences, Chongqing 401329, China)、Feihu Gao(Institute of Agricultural Products Processing, Chongqing Academy of Agricultural Sciences, Chongqing 401329, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hua Zhang, Ling Zhang, Guohua Zhao, et al. Effects of Sodium Alginate on the Quality Attributes of Wet Instant Starch Noodle Cakes: From a Multi-Scale Perspective. Foods 2026-09-29. DOI: 10.3390/foods15193490. 原著ライセンス:CC BY.