この研究は、オランダの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Brain Behavior and Immunity

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

体内で慢性的に続く弱い炎症は「低悪性度炎症(軽度の炎症)」と呼ばれ、肥満の人に多くみられることが知られています。これまでの研究では、炎症が努力を要する行動の低下や、脳の中でも背内側前頭前野(dmPFC)と呼ばれる領域における努力関連の反応の変化と関係することが報告されてきました。dmPFCは、ある行動にどれだけの労力を払う価値があるかを見積もる処理に関わる領域です。

一方で、こうした炎症が、手間をかけて食べ物を選ぶか、それとも手軽に済ませる食品を選ぶかという食行動にどう影響するのかは分かっていませんでした。研究チームは、この未解明の点を調べることを目的としました。

何をどのように調べたか

研究チームは二つのアプローチを組み合わせました。一つは、BMIが27kg/m²を超える女性150人を対象とした横断研究(ある時点での状態を一度に調べる研究)です。ここでは機能的MRI(脳の活動に伴う信号の変化をとらえる画像検査)を用い、努力を要する食品選択の際の脳の反応を測定しました。

もう一つは、BMIが30kg/m²を超え、炎症の指標であるCRPが3mg/Lを超える女性59人を対象とした12週間のランダム化比較試験です。参加者は抗炎症作用のあるコルヒチンを1日0.5mg服用する群と、偽薬(プラセボ)を服用する群に無作為に割り付けられました。実際に炎症を下げたときに食品選択や脳の反応が変わるかどうかを確かめる設計です。

報告された主な結果

横断研究では、炎症が強いほど手間のかかる選択肢を選ぶことが少なく(オッズ比0.27、p=0.004)、努力に関連するdmPFCの信号は高い(β=0.23、p=0.025)と報告されています。さらに炎症は、BMIとdmPFC信号との関連を仲介していたとされます。

ランダム化比較試験では、コルヒチンは想定どおり全身の炎症の指標(INFLA-score)を低下させ(β=-0.10 SD、p<0.001)、手間のかかる選択肢を選ぶ割合を増加させました(オッズ比1.32、p=0.044)。努力に関連するdmPFC信号については、低下する傾向がみられたものの、統計的にはぎりぎりの水準にとどまったと報告されています(β=-0.13、p=0.053)。

この研究が示すこと

著者らは、これらの結果から、肥満において手軽な食品が選ばれやすくなる背景に炎症が因果的な役割を果たしており、その経路として努力を避ける傾向の強まりと、それに関連するdmPFCの処理が関わっていると述べています。

食べ物の選び方は意志や好みだけの問題として語られがちですが、この研究は、体内の炎症という生理的な状態が「どれだけ手間をかけるか」という判断そのものに関与しうることを示した点に意味があります。

著者:Judith M. Scholing(Donders Institute for Brain, Cognition and Behaviour, Radboud University, Nijmegen, The Netherlands)、Rinke Stienstra(Department of Internal Medicine, Radboud University Medical Center, Nijmegen, The Netherlands; Division of Human Nutrition and Health, Wageningen University & Research, Wageningen, The Netherlands)、Lisette Olsthoorn(Donders Institute for Brain, Cognition and Behaviour, Radboud University, Nijmegen, The Netherlands)、Marijn S. Hendriksz(Department of Internal Medicine, Radboud University Medical Center, Nijmegen, The Netherlands)、Catharina M Mulders-Manders(Department of Internal Medicine, Radboud University Medical Center, Nijmegen, The Netherlands)、Ruben van den Bosch(Donders Institute for Brain, Cognition and Behaviour, Radboud University, Nijmegen, The Netherlands)、Esther Aarts(Donders Institute for Brain, Cognition and Behaviour, Radboud University, Nijmegen, The Netherlands. Electronic address: [email protected]

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Judith M. Scholing, Rinke Stienstra, Lisette Olsthoorn, et al. Low-grade inflammation in obesity causes low-effort food choice. Brain Behavior and Immunity 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.bbi.2026.107011. 原著ライセンス:CC BY.