植物由来肉や培養肉、微生物発酵によるタンパク質など、「代替タンパク質」と呼ばれる新しい食品の生産が世界的に注目されています。しかし、これらを作る工場をどこに建てるかという決定は、企業の商業的成功だけでなく、地域社会や環境にも大きな影響を及ぼします。今回紹介する研究は、食品加工施設の立地を決める際にどのような要因が重視されてきたのかを、既存の研究をまとめて調べたレビュー論文です。

どのように調べたか

研究チームはインペリアル・カレッジ・ロンドンのBezos Centre for Sustainable Protein(持続可能なタンパク質のためのベゾス・センター)とCentre for Environmental Policy(環境政策センター)に所属する研究者らです。PRISMA(システマティックレビューのための報告基準)という手法に沿って、Scopusとウェブ・オブ・サイエンスという2つの学術データベースから文献を検索しました。検索の結果214件の論文が見つかり、タイトル・要旨・本文の順に絞り込みを行った結果、最終的に15件の論文が対象となり、さらに探索的検索で1件を追加し、合計16件の論文が分析対象となりました。

対象論文は専門家への意見聴取(エキスパート・エリシテーション)、二項回帰分析、文献調査といった方法を用いて、施設の立地に影響する要因(サイティング・ディシジョン・ファクター、SDF)を特定していました。集められた要因は、集積(同業種の集中度)、コスト、環境、人間(生活の質など)、インフラ、労働、地域の自然環境、市場、政策・規制、社会という10のカテゴリーに分類されました。なお対象となった研究の多くはアメリカと日本(および中国への日本企業の投資)を対象にしたもので、ドイツ、イラン、韓国、トルコ、セルビアを扱った論文も1件ずつ含まれていました。最も古い論文は1989年、最新は2021年に発表されたもので、30年以上の期間にわたっていました。

わかったこと

16本の論文から合計44の立地決定要因が抽出されましたが、半数以上の論文で言及されていた要因はわずか4つでした。具体的には、製品や原料供給者への市場アクセス、労働コスト、同業種の集積への近さが上位を占め、企業がコスト削減と利益拡大を明確に目指していることがうかがえる結果となりました。表にまとめられた上位15要因のうち、最も多く言及されていたのは「労働コスト」(63%の論文で言及)で、次いで「同業種の産業密度」(56%)、「原材料・供給者への近さ」(56%)、「市場アクセス」(56%)と続きました。政府による優遇措置の有無に言及した論文は3件あり、政策が立地決定に影響しうることも示されていました。

一方で、環境要因に言及していた論文はわずか1件のみで、自然保護区への近さを挙げたものでした。社会的要因についても、公衆の受け止め方(パブリック・パーセプション)を挙げた論文が1件あるだけでした。労働に関する要因は社会的側面とも捉えられますが、対象論文ではおおむね経済的な観点(コストや人材確保のしやすさ)から論じられていたと報告されています。生活の質や医療アクセスといった「人間」に関する要因、農業寄りの「地域の自然環境」に関する要因についても、ほとんど影響力を持たないことが示されました。

また、要因の特定方法によって結果に違いが見られました。参加者への意見聴取など将来志向で要因を特定する「フォワード」アプローチでは、コストや人間に関する要因がより多く挙がった一方、統計的に有意な要因を過去のデータから特定する「バックワード」アプローチとは異なる傾向が見られました。ただし、いずれのアプローチにおいても環境要因への言及はほとんどなく、政府文書などの文献調査を用いた研究でのみ環境要因(自然保護区への近さ)が挙がっていたとされています。

この研究の読み方・注意点

著者らは、この分析結果を「公正なタンパク質転換」という観点から議論しています。論文では、立地決定が集積、労働コスト、市場アクセスを優先し続けることで、家畜生産に依存してきた地方の経済的衰退と、投資の一部地域への集中という既存の不均衡が強まりかねないと指摘されています。また、社会的要因への言及が少ないことは、施設の立地によって影響を受ける人々の声が意思決定に反映されにくい可能性を示唆しているとも述べられています。

著者ら自身が挙げている限界もあります。対象論文は代替タンパク質の生産に特化したものではなく、既存の食品加工全般を扱ったものであるため、代替タンパク質特有の要因(培養肉生産に必要な高度なバイオ技術インフラなど)は十分に捉えられていない可能性があるとされています。また対象論文の地理的な偏り(主に北米と東アジア)や、著者2名(McNamara氏とTokunaga氏)がそれぞれ複数の論文に関わっている点についても、結果に偏りをもたらしうる要素として言及されています。さらに、分析対象の論文が1989年から2021年までと長期間にわたるため、規制環境や社会の意識の変化が結果に影響している可能性も指摘されていますが、著者らは、比較的新しい論文でも社会・環境要因が軽視される傾向は同様であったとしています。イギリスでは培養タンパク質製品(CCP)の審査を進める「サンドボックス」プログラムに160万ポンドの資金が投じられたことにも触れられており、規制環境の整備が立地の公正性に関わりうる要素として言及されています。この研究は既存文献のレビューであり、代替タンパク質生産に関する知見はまだ限られていると著者らは述べています。

まとめ

この研究では、食品加工施設の立地を決める際に、市場アクセスや労働コスト、産業の集積といった経済的な要因が既存研究では圧倒的に重視されてきたことが示唆されました。一方で環境や社会への配慮に関する要因への言及は非常に少なく、著者らはこの経済偏重の枠組みを広げていくことが、代替タンパク質産業が公正な形で成長するうえで重要だと論じています。今後、代替タンパク質生産者が実際にどのような要因を重視して立地を決めているのかについて、さらなる研究が必要だとされています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:食品加工における立地決定要因と、それが公正なタンパク質転換にどう資するか(フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ・2026年08月)