この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜヒヨコマメたんぱく質の改質が課題なのか
植物由来のたんぱく質は、持続可能性と多様な機能性から動物性たんぱく質の代替素材として注目されています。著者らによれば、ヒヨコマメは世界で三番目に広く栽培されているマメ科作物で、たんぱく質含量は14.9〜24.6%とされます。そこから取り出したヒヨコマメたんぱく質分離物(CPI)はアミノ酸組成のバランスがよく、食品素材として有望だと論文は述べています。
ただし研究チームは、CPIには実用上の弱点があると指摘します。CPIの大半はグロブリンと呼ばれるたんぱく質で、分子がぎゅっと丸く硬く折りたたまれているため、水に溶けにくく分散しにくい。さらに、油となじみやすい部分(疎水性の側鎖)が分子の内側に埋もれているため、油と水の境目にすばやく吸着して並ぶことができません。この界面での働きの弱さが、乳化剤としての性能を制限していると報告されています。
ここで言う「乳化」とは、本来混ざらない油と水を細かい油滴の状態で安定に混ぜ合わせることです。たんぱく質が油滴の表面を覆うことで、油滴同士がくっついて分離するのを防ぎます。著者らの狙いは、CPIの硬い構造をほどいて反応しやすくし、糖鎖を結合させることで、この乳化能力を高めることでした。
何をどう調べたか
研究チームはまず、CPIの分散液を加熱して構造をゆるめ、酵素(トランスグルタミナーゼ)でゲル化させました。そのゲルを高速せん断にかけ、続いて高圧ホモジナイザー(45 MPa、5サイクル)で処理し、さらに氷水中で超音波処理(200 W、40分)を施すことで、「マイクログル粒子(CPIMP)」と呼ばれる微細で柔らかいたんぱく質粒子をつくりました。論文の仮説は、この高圧均質化と超音波の組み合わせによってCPIの折りたたまれた構造がほどけ、反応に使えるアミノ基が表面に多く現れる、というものです。
糖の側には、緑豆の皮から酵素で抽出した水溶性食物繊維(MSDF)を用いました。MSDFはアラビノース、ガラクトース、グルコース、フルクトースなどを含む複合多糖で、メイラード反応に必要な還元性のカルボニル基を供給できると説明されています。メイラード反応は、たんぱく質のアミノ基と糖のカルボニル基が結びつく反応で、加熱調理の焦げ色づきと同じ仕組みです。化学薬品を使わずに共有結合で糖を結合できる点が利点として挙げられています。
両者をさまざまな質量比(16:1から1:1)で混ぜ、pHを10に調整して95℃で6時間加熱し、CPIMP–MSDF結合体を得ました。評価には、糖の結合割合を示すグラフト率、褐変の強さ、ゼータ電位と粒子径、赤外分光(FTIR)による二次構造解析、トリプトファンの蛍光スペクトル、遊離スルフヒドリル基量を用いています。機能面ではDPPHラジカル消去による抗酸化活性、起泡性、乳化活性指数(EAI)と乳化安定性指数(ESI)を測り、さらに結合体で安定化したピカリングエマルション(固体粒子が油滴表面に並んで安定化させる乳濁液)について、顕微鏡観察、粒子径、ゼータ電位、レオロジー、4℃で14日間の保存安定性と25〜100℃での加熱安定性を調べています。
報告された主な結果
グラフト率は、たんぱく質と多糖の質量比が4:1のときに35.5%で最も高くなりました。MSDFの割合を16:1から4:1へ増やすとカルボニル基が増えて結合が進む一方、多すぎると多糖自身の立体的な邪魔や溶液の粘度上昇が分子同士の衝突を妨げ、結合が進みにくくなると論文は説明しています。
構造解析では複数の変化が確認されました。FTIRでは、CPIと比べてマイクログル粒子でアミドIおよびIII帯が低波数側へずれ、分子間の水素結合が増えたことが示されました。二次構造では、CPIのα-ヘリックス21.94%、β-シート30.3%、β-ターン25.88%、ランダムコイル21.87%に対し、糖が結合した結合体ではα-ヘリックスとβ-シートが明確に減り、ランダムコイルが21.87%から25.47%へ増加しました。これは、ポリペプチド鎖がほどけてより柔軟な構造になったことを意味すると著者らは述べています。蛍光測定では、CPIの発光極大353.07 nmがマイクログル粒子では359.07 nmへ移動し、強度も低下しました。トリプトファン残基がより極性の高い環境へ移ったことを示す変化です。遊離スルフヒドリル基量はCPIの15.97 µmol/Lからマイクログル粒子で36.97 µmol/Lへ増え、結合体で最も多くなりました。
機能面では、抗酸化活性がCPI<マイクログル粒子<物理混合物<結合体の順に高まり、結合体のDPPHラジカル消去率は71.70%に達しました。乳化性能では、結合体の乳化活性指数が57.54 m²/g、乳化安定性指数が98.50分で、CPIのそれぞれ2.52倍、2.91倍と報告されています。結合体で安定化したピカリングエマルションは油滴径が最も小さく4.72 µm、ゼータ電位は−30.71 mVで絶対値が最大でした。ゼータ電位は粒子表面の電気的な帯電の指標で、絶対値が大きいほど粒子同士が電気的に反発し、くっつきにくくなります。保存安定性と熱安定性も、糖の結合によって有意に向上したとされています。
著者らは、乳化性能の向上を三つの要因で説明しています。糖が結合して親水性の部分が増えたことで溶解性が高まり界面への移動と吸着が速くなったこと、結合した多糖の鎖が油滴表面に厚い層をつくって油滴の凝集や凝結を防ぐこと、そして静電反発が強まって油滴の分散性が高まったことです。
なお論文は、今回の実験設計では高圧均質化と超音波それぞれの個別の寄与を切り分けられないこと、また抗酸化活性の向上について、結合体と物理混合物の比較だけでは還元糖とポリフェノール各成分の寄与を完全には分離できないことを、自ら限界として明記しています。
この研究が示すこと
物理的な前処理で硬いたんぱく質の構造をほどき、そこへ食物繊維を共有結合させるという二段構えによって、ヒヨコマメたんぱく質の乳化性能と安定性が大きく向上したことを、著者らは一連の構造・機能データとして示しました。
注目したいのは、糖の供給源が緑豆の皮という加工副産物から得られた食物繊維だという点です。論文はこの手法を、マメ科たんぱく質の機能的特性を高める実行可能な戦略だと位置づけています。
著者:Xiangxiang He(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471000, China)、Xinyi Song(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471000, China)、Liping Ma(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471000, China)、Jinle Xiang(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471000, China)、Min Zhang(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471000, China)、Xinshuai Zhang(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471000, China)、Yizhuo Han(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471000, China)、Yunpeng Shao(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471000, China)、Runqiang Yang(College of Food Science & Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Lei Luo(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471000, China)、Bo Zhang(College of Basic Medicine, Zunyi Medical University, Zunyi 563000, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiangxiang He, Xinyi Song, Liping Ma, et al. Improved Functionality and Emulsifying Stability of Chickpea Protein Microgel–Mung Bean Hull Fiber Conjugates via Combined Physicochemical Pretreatment. Foods 2026-10-02. DOI: 10.3390/foods15193526. 原著ライセンス:CC BY.