著者の所属・活動拠点の国は、香港です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

私たちが毎日口にする砂糖の主成分「スクロース(ショ糖)」。この身近な糖から、体の炎症反応に働きかける可能性のある新しい物質を作り出す研究が報告されました。慢性的な炎症は、さまざまな生活習慣病などの背景にあるとされていますが、既存の薬には副作用や入手しにくさといった課題もあります。そこで注目されているのが、食品由来で安全性が期待できる素材の開発です。今回紹介する研究では、サトウキビ由来のスクロースを原料に「配糖体」と呼ばれる化合物を人工的に合成し、その性質を試験管内(in vitro)で調べました。

研究でわかったこと

研究チームは、酵素を使う方法と酸を触媒として使う化学的な方法を組み合わせて、サトウキビ由来のスクロースから配糖体を合成しました。できあがった物質は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)やLC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析)、NMR(核磁気共鳴)といった分析手法で純度や構造が確認され、収率は84.9〜86.4%と高い水準で、再現性も良好だったと報告されています。

抗炎症作用については、細菌の成分であるLPSで刺激して炎症状態を模したヒトの単球由来細胞(THP-1マクロファージ)を用いて評価されました。その結果、炎症に関わる物質であるTNF-αが平均で約35.2%、IL-6が平均で約33.1%抑制され、これらの変化は統計的に有意であったとされています(p<0.001)。また、腸管からの吸収されやすさの目安として、Caco-2細胞という腸の細胞モデルを使った透過性試験も行われ、良好な透過性(2.3〜2.5×10⁻⁶cm/s)が確認されました。さらに、胃液や腸液を模した溶液の中でも90%以上が安定して残っており、消化管を通過する過程でも壊れにくい性質を持つことが示唆されています。加えて、200µMという濃度までは細胞毒性は見られなかったと報告されています。

なお、こうしたスクロース由来の配糖体については、関連する先行研究でNF-κBやMAPKといった炎症に関わる細胞内の情報伝達経路への関与が指摘されているものの、今回の研究ではこれらの経路そのものは直接調べられていません。そのため、どのような仕組みで炎症が抑えられたのかについては、あくまで仮説の段階であり、今後さらに検証が必要だと論文では述べられています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、試験管内での細胞実験や人工的な消化液を用いた安定性試験によって得られた結果であり、人が実際に摂取した場合にどのような効果があるかを調べたものではありません。示された炎症抑制の効果も「中程度」と表現されており、劇的な効果を意味するものではない点に注意が必要です。また、作用の仕組み(メカニズム)についても、まだ仮説の段階にとどまっています。研究チームは、今回の成果を食品グレードの「ニュートラシューティカル(機能性食品素材)」としての応用に向けた、さらなる研究の足がかりと位置づけています。一つの基礎研究の段階であり、実用化や健康効果が確定したものではない点をふまえて読んでいただければと思います。

まとめ

今回の研究では、サトウキビ由来のスクロースから酵素法と化学法を組み合わせて配糖体を合成し、炎症を模した細胞モデルでTNF-αやIL-6といった物質の産生を有意に抑える働きが確認されました。また、腸での吸収されやすさや消化管内での安定性、細胞毒性の低さも報告されており、食品由来の新しい機能性素材の候補として、今後の研究の発展が期待される内容といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):サトウキビ由来スクロースの酵素的・化学的グリコシル化により中程度の抗炎症活性を持つ配糖体をin vitroで生成(サイエンティフィック・リポーツ・2026年07月)

著者:Zhaojie Chen(Faculty of Business, The Hong Kong Polytechnic University, Hung Hom, Kowloon, Hong Kong, PR China)、Jinhui Chang(Research Institute for Future Food, Department of Food Science and Nutrition, The Hong Kong Polytechnic University, Hung Hom, Kowloon, Hong Kong, PR China. [email protected])、Yong Jin(Faculty of Business, The Hong Kong Polytechnic University, Hung Hom, Kowloon, Hong Kong, PR China)